2014年 06月 01日
エストニア紀行 |
スカンジナビア半島の対岸、バルト海に面したエストニア。首都タリンから、古都タルトゥ、オテパーの森、バルト海に囲まれた島々へ――端正な街並みと緑深い森、広大な葦原を旅してまわった九日間の旅の記録。
雑誌の取材で行ったらしく、編集者、カメラマン、現地ガイド、運転手つきの大名旅行と最初のうちは見えたものの、なにしろ人が少なく、人家もまれなところばかり行くので、かなりの強行軍。梨木さんのように旅慣れた人だからなんとかなったんでしょうが、ふつうの中高年の作家だったら倒れてるんじゃないか。いや、それよりも編集者は大変だったろうなあ。
昔は、知らない土地へ旅した人が書いた紀行文にはなんともいえずワクワクしたものですが、最近はたいていの素人がみんなブログに旅の記録を写真とともに載せていて、それがまたけっこう面白かったりするので、本職の作家が書いたものを読んでも「なんだか変わり映えしないなあ」と感じるようになりました。特に現地の観光ガイドの話をそのまま書いているようなところはそう。
とはいえ、鳥や植物の生態から自然破壊・自然保護の話、あるいは古い屋敷にまつわる幽霊話といったことになると俄然文章が生き生きしてきます。梨木さんがこれほど愛鳥家とは知りませんでしたが、コウノトリで初め、コウノトリで締めくくる構成はさすがだと、読み終えたときにほーっと息をつきました。
ただ、運転手つきの車で移動するなんて普通の旅人には無理だから、ガイドブックとしてはあまり役に立たない。それに、彼女のあとを辿らなくても、エストニアの田舎はどこでも同じように迎えてくれそうな気がする。
そうそう、サーレマー島で、海岸近くの葦原の運河をカヌーで行くときに、琵琶湖の近くにもこういうところがあると梨木さんが思い浮かべるシーンがあるんですが、これって近江八幡のあそこですよね。
琵琶湖に面した地方にも同じような葦の茂る運河があるが、もっと手入れがされており、繊細だ。そして私はそれまでそこのことをそういう風に思ったことはなかったのだったが、較べると人工的である。それはそれでそういう歴史と美しさがある。が、このバルト海の葦床の、ワイルドでたくましいことといったら。
数メートルの高さがある葦が強風でいっせいに横倒しになったとき、開けたところに顔の黒い羊が何頭もこっちを見ていたという光景が頭にこびりついて離れません。そういうシーンをすかさず記憶し、読む人の頭の中に鮮やかなイメージとして浮かびあがるように表現する、それが文筆家の書く紀行文の魅力なんでしょうね。
エストニア紀行: ――森の苔・庭の木漏れ日・海の葦
作者:梨木香歩
出版社:新潮社
ISBN:4104299073
雑誌の取材で行ったらしく、編集者、カメラマン、現地ガイド、運転手つきの大名旅行と最初のうちは見えたものの、なにしろ人が少なく、人家もまれなところばかり行くので、かなりの強行軍。梨木さんのように旅慣れた人だからなんとかなったんでしょうが、ふつうの中高年の作家だったら倒れてるんじゃないか。いや、それよりも編集者は大変だったろうなあ。
昔は、知らない土地へ旅した人が書いた紀行文にはなんともいえずワクワクしたものですが、最近はたいていの素人がみんなブログに旅の記録を写真とともに載せていて、それがまたけっこう面白かったりするので、本職の作家が書いたものを読んでも「なんだか変わり映えしないなあ」と感じるようになりました。特に現地の観光ガイドの話をそのまま書いているようなところはそう。
とはいえ、鳥や植物の生態から自然破壊・自然保護の話、あるいは古い屋敷にまつわる幽霊話といったことになると俄然文章が生き生きしてきます。梨木さんがこれほど愛鳥家とは知りませんでしたが、コウノトリで初め、コウノトリで締めくくる構成はさすがだと、読み終えたときにほーっと息をつきました。
ただ、運転手つきの車で移動するなんて普通の旅人には無理だから、ガイドブックとしてはあまり役に立たない。それに、彼女のあとを辿らなくても、エストニアの田舎はどこでも同じように迎えてくれそうな気がする。
そうそう、サーレマー島で、海岸近くの葦原の運河をカヌーで行くときに、琵琶湖の近くにもこういうところがあると梨木さんが思い浮かべるシーンがあるんですが、これって近江八幡のあそこですよね。
琵琶湖に面した地方にも同じような葦の茂る運河があるが、もっと手入れがされており、繊細だ。そして私はそれまでそこのことをそういう風に思ったことはなかったのだったが、較べると人工的である。それはそれでそういう歴史と美しさがある。が、このバルト海の葦床の、ワイルドでたくましいことといったら。
数メートルの高さがある葦が強風でいっせいに横倒しになったとき、開けたところに顔の黒い羊が何頭もこっちを見ていたという光景が頭にこびりついて離れません。そういうシーンをすかさず記憶し、読む人の頭の中に鮮やかなイメージとして浮かびあがるように表現する、それが文筆家の書く紀行文の魅力なんでしょうね。
エストニア紀行: ――森の苔・庭の木漏れ日・海の葦
作者:梨木香歩
出版社:新潮社
ISBN:4104299073
by timeturner
| 2014-06-01 19:31
| 和書
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