2014年 05月 21日
ペナンブラ氏の24時間書店 |
サンフランシスコ在住のクレイは、美術学校を出てウェブデザインやマーケティングの仕事をしていたが、社会的な不況のおかげで失業した。通りがかった風変わりな書店の求人広告を目にして衝動的に応募し、夜間勤務の店員として採用されたが、働き出してみるとこの書店には奇妙なところがたくさんあった・・・。
面白かった! タイトルとカバーイラストの印象から、愛書家に関するノスタルジックな小説かと思っていたら、かなり違ってた。
とにかくIT関連の言葉が次から次へと出てくる。スマホや電子書籍リーダーや3DグラフィックスやSNSといったものが、当たり前のように出てくるだけでなく、ウィンドウズ以前のOSやら、下半分がキーボードになっていたという初期キンドルなど、過去のIT事情まで披露されるに至って、そうか、作者はオタクなんだな、と気がつきました。なにしろkoboまで出てくるんだから。クレイやキャットやニールは作者の分身なのね。
クレイのガールフレンド・キャットはグーグル社に勤めているという設定で、社内の様子も描かれているのですが、これ、どこまで本当なのかな。まあ、かなり型破りで自由なことは間違いないでしょうね。ただし、そこで働くためには天才的な頭脳が必要。アメリカは平等だと思われることがあるけれど、それは出自に関してであって、頭脳や容姿といった生得的なもので差別される点においては、他の国よりも極端なんじゃないかな。
なにはともあれ、これは今の時代を背景にしたドラゴン・クエスト、冒険物語でした。グーグル、秘密結社、暗号解読、ファンタジー系RPG、ハッカー・・・こういった言葉に興味を引かれる人なら大いに楽しめるはずです。オタク精神全開だけど、それだけに終わらず、今の時代の青春小説になっているのが◎。
そうそう、解説はゲームデザイナーの人が書いているんですが、補足情報がけっこうあってとても参考になりました。こういうリソースフルなところが、いかにもこの業界の人らしいし、この小説の主人公にも通じるものを感じました。
その解説に書かれていた、ロビン・スローンが関わり、2004年に発表した未来予測動画「EPIC 2014」はこちら。
この本の前日譚である『Ajax Penumbra: 1969』も出ています。
また、ロビン・スローンのウェブサイトには無料で読める短編2編と長編1編がアップされています。なんて太っ腹。
The Wrong Plane 乗る飛行機を間違えた男の話。それだけなら珍しくもない(でもないか)けれど、乗った飛行機の目的地というのがとんでもないところで・・・。
The Writer and the Witch ひと足行くごとに一歳年をとる呪いをかけられた男についての寓話。意外にセンチメンタルな終わり方にびっくりしたけど、後味がいいことは確か。
Annabel Scheme
Annabel Scheme』は21世紀のシャーロック・ホームズで、ホームズが女性、ワトソンがアルコール中毒者という設定だそうですが、ひょっとしてこれがアメリカのTVシリーズ「Elementary」(あっちはワトソンが女性、ホームズがアル中)の原作?! でも、IMDBのクレジットには名前がないですね。アイディアを買い取ったのかな?
ペナンブラ氏の24時間書店
原題:Mr. Penumbra's 24-Hour Bootstore
作者:ロビン・スローン
訳者:島村浩子
出版社:東京創元社
ISBN:4488010180
面白かった! タイトルとカバーイラストの印象から、愛書家に関するノスタルジックな小説かと思っていたら、かなり違ってた。
とにかくIT関連の言葉が次から次へと出てくる。スマホや電子書籍リーダーや3DグラフィックスやSNSといったものが、当たり前のように出てくるだけでなく、ウィンドウズ以前のOSやら、下半分がキーボードになっていたという初期キンドルなど、過去のIT事情まで披露されるに至って、そうか、作者はオタクなんだな、と気がつきました。なにしろkoboまで出てくるんだから。クレイやキャットやニールは作者の分身なのね。
クレイのガールフレンド・キャットはグーグル社に勤めているという設定で、社内の様子も描かれているのですが、これ、どこまで本当なのかな。まあ、かなり型破りで自由なことは間違いないでしょうね。ただし、そこで働くためには天才的な頭脳が必要。アメリカは平等だと思われることがあるけれど、それは出自に関してであって、頭脳や容姿といった生得的なもので差別される点においては、他の国よりも極端なんじゃないかな。
なにはともあれ、これは今の時代を背景にしたドラゴン・クエスト、冒険物語でした。グーグル、秘密結社、暗号解読、ファンタジー系RPG、ハッカー・・・こういった言葉に興味を引かれる人なら大いに楽しめるはずです。オタク精神全開だけど、それだけに終わらず、今の時代の青春小説になっているのが◎。
そうそう、解説はゲームデザイナーの人が書いているんですが、補足情報がけっこうあってとても参考になりました。こういうリソースフルなところが、いかにもこの業界の人らしいし、この小説の主人公にも通じるものを感じました。
その解説に書かれていた、ロビン・スローンが関わり、2004年に発表した未来予測動画「EPIC 2014」はこちら。
この本の前日譚である『Ajax Penumbra: 1969』も出ています。
また、ロビン・スローンのウェブサイトには無料で読める短編2編と長編1編がアップされています。なんて太っ腹。
The Wrong Plane 乗る飛行機を間違えた男の話。それだけなら珍しくもない(でもないか)けれど、乗った飛行機の目的地というのがとんでもないところで・・・。
The Writer and the Witch ひと足行くごとに一歳年をとる呪いをかけられた男についての寓話。意外にセンチメンタルな終わり方にびっくりしたけど、後味がいいことは確か。
Annabel Scheme
Annabel Scheme』は21世紀のシャーロック・ホームズで、ホームズが女性、ワトソンがアルコール中毒者という設定だそうですが、ひょっとしてこれがアメリカのTVシリーズ「Elementary」(あっちはワトソンが女性、ホームズがアル中)の原作?! でも、IMDBのクレジットには名前がないですね。アイディアを買い取ったのかな?
ペナンブラ氏の24時間書店
原題:Mr. Penumbra's 24-Hour Bootstore
作者:ロビン・スローン
訳者:島村浩子
出版社:東京創元社
ISBN:4488010180
by timeturner
| 2014-05-21 19:49
| 和書
|
Comments(2)
Commented
by
nobara
at 2014-07-13 17:28
x
読んでみたんですが、おっしゃる通りIT関連の単語が本当に多くて。
頭が昭和のおばさんには難しかったです。「本のにおい」と74ページにありますが「本のにおいが好きな人はたくさんいます」という文章に激しく同意します。インクの匂いも古本のかび臭い匂いも紙の手触りも大好き!ただ一冊では素晴らしい本もダンボール箱一杯になると、恐るべき
ぎっくり腰の元になってしまいます。でも電子書籍じゃ読んだ気がしないんです。
頭が昭和のおばさんには難しかったです。「本のにおい」と74ページにありますが「本のにおいが好きな人はたくさんいます」という文章に激しく同意します。インクの匂いも古本のかび臭い匂いも紙の手触りも大好き!ただ一冊では素晴らしい本もダンボール箱一杯になると、恐るべき
ぎっくり腰の元になってしまいます。でも電子書籍じゃ読んだ気がしないんです。
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timeturner at 2014-07-13 20:33
紙の本の匂いはいいですよね。なんでも本の匂いのキャンドルというのが外国にはあるそうですよ。でも、本も古くなってくるとかび臭くなってきて、これは困り物。
日本語の本は紙のほうが圧倒的に読みやすいですよえ。でも、紙の本は老眼鏡なしでは読めず、老眼鏡をかけると頭が痛くなってくるので長時間集中して読めない。あー、なさけなや。
日本語の本は紙のほうが圧倒的に読みやすいですよえ。でも、紙の本は老眼鏡なしでは読めず、老眼鏡をかけると頭が痛くなってくるので長時間集中して読めない。あー、なさけなや。