2014年 05月 14日
Sovereign |
1541年の秋、国王ヘンリー八世は北部イングランドの都市ヨークに向けて大規模な巡幸を開始した。1536年のロバート・アスクらによる反乱から5年、新たな反逆の芽を事前に摘み取ろうというのだ。一方、クロムウェルの失脚により一介の弁護士の生活に戻っていたシャードレイクは、クランマー大主教から思いがけない命を受ける。ヨークで巡幸に合流し、ヨーク城に幽閉されている反逆者ブローデリックをロンドン塔まで無事に連れてくるようにというのだ・・・。
これまでの中でいちばんスピーディかつスリリングでした。そして、シャードレイクがこれまでにないほど酷い目に遭うので、途中までは読むのがつらくて先に進みませんでした。これまでだって生まれつきの背中が曲がっているという外見からさんざん苛められてきたし、女性を好きになっても報われないしで、とてもシリーズ物の主人公、ヒーローとは思えない扱いを受けてきましたが、今回はもう作者はサディスト?と思うほど、心身ともに痛めつけられます。そして、歴史ミステリーの宿命ではあるけれど、事件は解決しても巨悪はのさばるままというのはやりきれないなあ。
一冊目の『Dissolution』はほとんどの舞台が地方の修道院だったので、動ける範囲が狭く、登場人物のパターンも限られていました。二冊目の『Dark Fire』はロンドンが舞台になり、二つの事件が同時進行することになったので、階層も性格も異なるキャラクターが多数登場して面白くなったのですが、二つの事件がまったく接点のないものだったので、小説全体のまとまりに欠けました。
今回は、さまざまな人々がさまざまな動機で動くものの、国王への反逆というひとつのテーマを中心に据えているので、重心がしっかり決まってブレがなかった。巡幸というイベントの性格上、背景となる場所も移動していきますし、まるで映画かドラマを見るように詳細に描かれる歴史的なイベントはエキサイティングです。作者は一作ごとに進化していますね(偉そうですか?)。
ポイントとなる反逆の根拠は『時の娘』も色褪せるほど大胆でとんでもない話なのですが、巻末にある作者のHistorical Noteによると事実かもしれないというので驚愕してしまいました。チャネル4制作のドキュメンタリーで検証されたこともあるらしい。まあ、16世紀の話ですから、絶対確実というわけではないようですが。
それにしても、『Dark Fire』からの仇敵リチャード・リッチがほんとに憎らしくて、最後に酷い目に遭えばいいのにと願っていたけどだめでした。で、調べてみたら、この人実在の人物で、変わり身の早さで有名らしい。ヘンリー八世のもとで宗教改革を利用して私服を肥やし、エリザベス、ジェイムズの時代にも地位を維持、さらにはカトリックのメアリー女王のもとでプロテスタントの迫害を行ったというのですからあきれたものです。どれだけ悪知恵が働いたんでしょうか。これじゃあシャードレイクが仕返しできる可能性はないですね。ちっ。
【7/5 後記】 越前クラスでクラスメイトの訳文を読んだら、どれにも私の訳文にはない「ゴシック」という言葉が入っていた。Kindle版からコピペした原文にはGothicなどという文字はない。あわてて先生から配られた紙本のコピーを見たらGothicが入ってるじゃないか!
考えてみればKindle化する際に紙本をスキャンしてテキスト化しているわけで、その過程で抜ける可能性は限りなく高いですよね。自分でスキャンしてOCRしたときだってそうだもの。ということは、プロの翻訳家はKindle本を元にするわけにはいかないというわけで、かといって紙の本を見ながらではおそろしく作業効率が悪いだろうから(英文を見て即座に完成形の日本文が浮かんでくるような天才は別)、紙の本をスキャンして取りこむんでしょうが、そのプロセスでやはり誤認識が出てしまうわけで、いやはやなんとも大変なことだと思います。
Sovereign (The Shardlake Series)
作者:C.J.Sansom
出版社:Pan Books
ISBN:Kindle版
これまでの中でいちばんスピーディかつスリリングでした。そして、シャードレイクがこれまでにないほど酷い目に遭うので、途中までは読むのがつらくて先に進みませんでした。これまでだって生まれつきの背中が曲がっているという外見からさんざん苛められてきたし、女性を好きになっても報われないしで、とてもシリーズ物の主人公、ヒーローとは思えない扱いを受けてきましたが、今回はもう作者はサディスト?と思うほど、心身ともに痛めつけられます。そして、歴史ミステリーの宿命ではあるけれど、事件は解決しても巨悪はのさばるままというのはやりきれないなあ。
一冊目の『Dissolution』はほとんどの舞台が地方の修道院だったので、動ける範囲が狭く、登場人物のパターンも限られていました。二冊目の『Dark Fire』はロンドンが舞台になり、二つの事件が同時進行することになったので、階層も性格も異なるキャラクターが多数登場して面白くなったのですが、二つの事件がまったく接点のないものだったので、小説全体のまとまりに欠けました。
今回は、さまざまな人々がさまざまな動機で動くものの、国王への反逆というひとつのテーマを中心に据えているので、重心がしっかり決まってブレがなかった。巡幸というイベントの性格上、背景となる場所も移動していきますし、まるで映画かドラマを見るように詳細に描かれる歴史的なイベントはエキサイティングです。作者は一作ごとに進化していますね(偉そうですか?)。
ポイントとなる反逆の根拠は『時の娘』も色褪せるほど大胆でとんでもない話なのですが、巻末にある作者のHistorical Noteによると事実かもしれないというので驚愕してしまいました。チャネル4制作のドキュメンタリーで検証されたこともあるらしい。まあ、16世紀の話ですから、絶対確実というわけではないようですが。
それにしても、『Dark Fire』からの仇敵リチャード・リッチがほんとに憎らしくて、最後に酷い目に遭えばいいのにと願っていたけどだめでした。で、調べてみたら、この人実在の人物で、変わり身の早さで有名らしい。ヘンリー八世のもとで宗教改革を利用して私服を肥やし、エリザベス、ジェイムズの時代にも地位を維持、さらにはカトリックのメアリー女王のもとでプロテスタントの迫害を行ったというのですからあきれたものです。どれだけ悪知恵が働いたんでしょうか。これじゃあシャードレイクが仕返しできる可能性はないですね。ちっ。
【7/5 後記】 越前クラスでクラスメイトの訳文を読んだら、どれにも私の訳文にはない「ゴシック」という言葉が入っていた。Kindle版からコピペした原文にはGothicなどという文字はない。あわてて先生から配られた紙本のコピーを見たらGothicが入ってるじゃないか!
考えてみればKindle化する際に紙本をスキャンしてテキスト化しているわけで、その過程で抜ける可能性は限りなく高いですよね。自分でスキャンしてOCRしたときだってそうだもの。ということは、プロの翻訳家はKindle本を元にするわけにはいかないというわけで、かといって紙の本を見ながらではおそろしく作業効率が悪いだろうから(英文を見て即座に完成形の日本文が浮かんでくるような天才は別)、紙の本をスキャンして取りこむんでしょうが、そのプロセスでやはり誤認識が出てしまうわけで、いやはやなんとも大変なことだと思います。
Sovereign (The Shardlake Series)
作者:C.J.Sansom
出版社:Pan Books
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2014-05-14 19:56
| 洋書
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