2014年 05月 01日
街の灯 |
昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家の令嬢である「わたし」は、ある日父から新しい運転手を紹介されて驚いた。若い女性だったのだ。別宮みつ子という運転手を、「わたし」は『虚栄の市』のヒロインにちなんでベッキーさんと呼ぶようになる・・・。
面白かった! 主人公がお嬢様なので、当然ながら登場する人々はみんな上流社会の人ばかり。学習院と思われる主人公が通う学校には、宮家や元大名家のご学友がごろごろしています。『アンのゆりかご』に出てきた東洋英和のお嬢様たちみたいと思ったのですが、あちらは明治、こちらは昭和。おかしいなあと思って調べてみると、村岡花子が東洋英和を卒業したのは1914年、一方で昭和七年というのは1932年です。それほど遠く隔たった時代ではないのですね。
そういえば、この本の中には何度か震災後の復興の話が出てきますが、その震災とは1923年の関東大震災でしょう。まだ、震災後10年もたっていない頃なわけです。ほかにも犬養毅首相の暗殺や経済不況の話も出てきます。このあと二・二六事件を経て、第二次世界大戦へと突入していく、不気味な暗雲が向こうの空に見えているような時代であることが感じられます。うまいなあと思うのは、そういう面を出し過ぎると息が詰まってしまうところを、世間知らずのお嬢様を主人公にすることでうまい具合に緊張感をやわらげていること。そのあたりのバランスがとてもいい。
贅沢な服や着物の描写、すてきなお屋敷の調度品、帝国ホテル、三越、軽井沢の万平ホテルなど、上流人士が出入りしていた店の様子など、女性の興味をひきそうな細部がしっかり書かれているのもポイント高し。
三つの短編に分かれていて、最初の「虚栄の市」では別宮との出会いがあり、その別宮の協力も得て新聞で読んだ不審な事件を「わたし」が解決します。
「銀座八丁」は新築された服部時計店のビルや夜店など、当時の銀座の風俗をうまくからめた暗号解読遊びのような内容。ここではまだ「わたし」だけでなく読者にとっても謎の多い別宮の新たな一面を見せる一幕も用意されています。
表題作「街の灯」は同名のチャップリン映画にちなみ、活動写真がサイレントからトーキーに移りつつある状況や軽井沢の上流人士の生活ぶりなどを見せつつ、あわや殺人事件と思われた出来事の裏側を「わたし」が解き明かします。
スーパーウーマンのように見えるベッキーさんですが、だからといって彼女が名探偵になるわけではないのが面白い。かといって、お嬢様がシャーロック、ベッキーさんがワトソンというわけでもない。ときどきベッキーさんは真相を知っているのにあえて何も言わず、うまくお嬢様が気づくように仕向けているんじゃないかとも思えるのですが、そうでもないところもあって、まだこの本を読んだだけではなんとも言えません。
そう、これってシリーズでこのあとまだ2冊あるんですよね。わーい。楽しみが増えたぞ。
街の灯 (文春文庫)
作者:北村 薫
出版社:文藝春秋
ISBN:4167586045
面白かった! 主人公がお嬢様なので、当然ながら登場する人々はみんな上流社会の人ばかり。学習院と思われる主人公が通う学校には、宮家や元大名家のご学友がごろごろしています。『アンのゆりかご』に出てきた東洋英和のお嬢様たちみたいと思ったのですが、あちらは明治、こちらは昭和。おかしいなあと思って調べてみると、村岡花子が東洋英和を卒業したのは1914年、一方で昭和七年というのは1932年です。それほど遠く隔たった時代ではないのですね。
そういえば、この本の中には何度か震災後の復興の話が出てきますが、その震災とは1923年の関東大震災でしょう。まだ、震災後10年もたっていない頃なわけです。ほかにも犬養毅首相の暗殺や経済不況の話も出てきます。このあと二・二六事件を経て、第二次世界大戦へと突入していく、不気味な暗雲が向こうの空に見えているような時代であることが感じられます。うまいなあと思うのは、そういう面を出し過ぎると息が詰まってしまうところを、世間知らずのお嬢様を主人公にすることでうまい具合に緊張感をやわらげていること。そのあたりのバランスがとてもいい。
贅沢な服や着物の描写、すてきなお屋敷の調度品、帝国ホテル、三越、軽井沢の万平ホテルなど、上流人士が出入りしていた店の様子など、女性の興味をひきそうな細部がしっかり書かれているのもポイント高し。
三つの短編に分かれていて、最初の「虚栄の市」では別宮との出会いがあり、その別宮の協力も得て新聞で読んだ不審な事件を「わたし」が解決します。
「銀座八丁」は新築された服部時計店のビルや夜店など、当時の銀座の風俗をうまくからめた暗号解読遊びのような内容。ここではまだ「わたし」だけでなく読者にとっても謎の多い別宮の新たな一面を見せる一幕も用意されています。
表題作「街の灯」は同名のチャップリン映画にちなみ、活動写真がサイレントからトーキーに移りつつある状況や軽井沢の上流人士の生活ぶりなどを見せつつ、あわや殺人事件と思われた出来事の裏側を「わたし」が解き明かします。
スーパーウーマンのように見えるベッキーさんですが、だからといって彼女が名探偵になるわけではないのが面白い。かといって、お嬢様がシャーロック、ベッキーさんがワトソンというわけでもない。ときどきベッキーさんは真相を知っているのにあえて何も言わず、うまくお嬢様が気づくように仕向けているんじゃないかとも思えるのですが、そうでもないところもあって、まだこの本を読んだだけではなんとも言えません。
そう、これってシリーズでこのあとまだ2冊あるんですよね。わーい。楽しみが増えたぞ。
街の灯 (文春文庫)
作者:北村 薫
出版社:文藝春秋
ISBN:4167586045
by timeturner
| 2014-05-01 19:04
| 和書
|
Comments(0)