2014年 02月 19日
トメック/ハンナ |
村でよろず屋を営む14歳の少年トメックは、あるとき店を訪れた美しい少女にひと目で恋をしてしまう。少女は父親の形見である小鳥のために「飲めば死ななくなる水」を求めて「さかさまに流れる川」を探していた。やがてトメックも、少女と不死の水を求めて旅立つ・・・。
変わった読み心地。これまで一度も出会ったことがないような物語世界です。巨大な熊の徘徊する「ワスレの森」や底なしの眠りを誘う花畑、香水を作る村、虹に引きよせれらてたどり着く「どこにもない島」などなど、世にも不思議な出来事が次々に起こるファンタジーであることは確かなのですが、トールキンのストイックな厳しさに満ちた異世界ではないし、メアリー・ポピンズのような日常にまぎれこんだ子ども向きのおとぎ話でもない。
ファンタジーでありながら人間の心の動きをごまかさずにきちんと描いていて、だから奇妙な出来事がリアルに感じられる。はらはらするような冒険もあるけれど、どう転んだってそうそう悪いことにはなりゃしないさ、という楽観主義が感じられて、深刻にならずにすむ。
これって、やっぱりフランス人的な資質なんでしょうか。そういえばこの話、「アメリ」風かも。
私は児童小説に恋愛がからむのが好きじゃなくて、YAでも恋愛そのものがメインテーマになっているようなものは避けるのですが、この本は最初からトメックのひと目惚れで始まるし、なんと主人公の結婚まで出てくるのに、ファンタジー色はまったく色褪せないところがすごい。恋愛も結婚も子育ても人生の大切な一部ではあるけれど、それ以上でもそれ以下でもない、というスタンスのせいかな。人生の楽しみはもっともっとたくさんあるんだよと、いたるところで魅力的な登場人物たちの姿を借りて語っているから。
《さかさま川の水》シリーズとして2冊出ていますが、よくある前篇・後編ではありません。『トメック』を読んでから『ハンナ』を読むと、トメックに出会う前のハンナが何をしていたのか、トメックとすれ違うように旅をしているときに何があったのかが描かれていて、いまどきの小説だったら、章ごとに視点を変えて書いていく方式かなと思います。でも、こうやって完全に2分冊に分けたことで、ずっとそれぞれの気持ちに入り込みやすくなり、児童小説やYAだったらこっちだなと思う。
ところで、作者がフランス人で、副題から考えてフランス語で書かれているのに主人公の名前がハンナというのは不思議です。フランス語読みだったらアンナかアナになるはず。でも、この本に出てくる村や人々は現実の世界とはまったく違うものばかりだから、きっとふつうじゃない読み方を作者が選んだのでしょうね。
トメック―さかさま川の水〈1〉 (世界傑作童話シリーズ)
原題:Tomek: La Riviere a L'envers 1
作者:ジャン=クロード・ムルルヴァ
イラスト:平澤朋子
訳者:堀内紅子
出版社:福音館書店
ISBN:4834022161
ハンナ―さかさま川の水〈2〉 (世界傑作童話シリーズ)
原題:Hannah: La Riviere a L'envers 2
作者:ジャン=クロード・ムルルヴァ
イラスト:平澤朋子
訳者:堀内紅子
出版社:福音館書店
ISBN:483402217X
変わった読み心地。これまで一度も出会ったことがないような物語世界です。巨大な熊の徘徊する「ワスレの森」や底なしの眠りを誘う花畑、香水を作る村、虹に引きよせれらてたどり着く「どこにもない島」などなど、世にも不思議な出来事が次々に起こるファンタジーであることは確かなのですが、トールキンのストイックな厳しさに満ちた異世界ではないし、メアリー・ポピンズのような日常にまぎれこんだ子ども向きのおとぎ話でもない。
ファンタジーでありながら人間の心の動きをごまかさずにきちんと描いていて、だから奇妙な出来事がリアルに感じられる。はらはらするような冒険もあるけれど、どう転んだってそうそう悪いことにはなりゃしないさ、という楽観主義が感じられて、深刻にならずにすむ。
これって、やっぱりフランス人的な資質なんでしょうか。そういえばこの話、「アメリ」風かも。
私は児童小説に恋愛がからむのが好きじゃなくて、YAでも恋愛そのものがメインテーマになっているようなものは避けるのですが、この本は最初からトメックのひと目惚れで始まるし、なんと主人公の結婚まで出てくるのに、ファンタジー色はまったく色褪せないところがすごい。恋愛も結婚も子育ても人生の大切な一部ではあるけれど、それ以上でもそれ以下でもない、というスタンスのせいかな。人生の楽しみはもっともっとたくさんあるんだよと、いたるところで魅力的な登場人物たちの姿を借りて語っているから。
《さかさま川の水》シリーズとして2冊出ていますが、よくある前篇・後編ではありません。『トメック』を読んでから『ハンナ』を読むと、トメックに出会う前のハンナが何をしていたのか、トメックとすれ違うように旅をしているときに何があったのかが描かれていて、いまどきの小説だったら、章ごとに視点を変えて書いていく方式かなと思います。でも、こうやって完全に2分冊に分けたことで、ずっとそれぞれの気持ちに入り込みやすくなり、児童小説やYAだったらこっちだなと思う。
ところで、作者がフランス人で、副題から考えてフランス語で書かれているのに主人公の名前がハンナというのは不思議です。フランス語読みだったらアンナかアナになるはず。でも、この本に出てくる村や人々は現実の世界とはまったく違うものばかりだから、きっとふつうじゃない読み方を作者が選んだのでしょうね。
トメック―さかさま川の水〈1〉 (世界傑作童話シリーズ)
原題:Tomek: La Riviere a L'envers 1
作者:ジャン=クロード・ムルルヴァ
イラスト:平澤朋子
訳者:堀内紅子
出版社:福音館書店
ISBN:4834022161
ハンナ―さかさま川の水〈2〉 (世界傑作童話シリーズ)
原題:Hannah: La Riviere a L'envers 2
作者:ジャン=クロード・ムルルヴァ
イラスト:平澤朋子
訳者:堀内紅子
出版社:福音館書店
ISBN:483402217X
by timeturner
| 2014-02-19 17:41
| 和書
|
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