2014年 02月 15日
レディ・モリーの事件簿 |
スコットランド・ヤードの女性警察官レディ・モリー。素晴らしい行動力・決断力と鋭い観察眼とで難事件を次々に解決していくレディ・モリーの活躍を、部下のメアリーの目を通して描く短編集。
作者はヴィクトリア朝生まれの人で、歴史ロマン『紅はこべ』の作者だそう。なるほど、史実をもとにしてワクワクするような冒険物語を仕立てる手際には似たものがあるかもしれません。あり得ないけどこうなったら楽しいだろうなあというファンタジーであるところも共通点。
エドワード朝の女性がスコットランドヤードの刑事になる可能性ってどのくらいあったんでしょうね。たとえ貴族でも、というか貴族の女性ならなおさら無理だっただろうなあ。『最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』にも書かれていましたが、当時の社会では刑事というのは労働者階級の人間がなる下賤な職業だったのですから。解説によると、実際、英国で最初の女性刑事が誕生したのは1920年だったそうです。
オルツィという人、レディ・モリー物以外に、「隅の老人」シリーズも書いていて、こちらは安楽椅子探偵の先駆けと言われているのだそう。アイディアと時代の先を読む目に恵まれていた人だったのですね。そして、最後の2編には『紅はこべ』の作者らしいロマンス風味が爆発してます。
というようなことを考えると、やはり、レディ・モリーの活躍を部下の女性メアリーが書くという設定は、ホームズとワトソンを意識したものと考えてしまいます。そういえば、「クリスマスの惨劇」には世間を騒がせている家畜虐待事件の話が出てきます。これはおそらく、『Arthur & George』のテーマとなっている冤罪事件を頭においたものじゃないでしょうか(実際の事件は虐待ではなく虐殺ですが)。エダルジが恩赦を受けたのが1907年で、当時かなりのニュースでしたし、コナン・ドイルが果たした少々滑稽な役回りも知られていましたから、一種のオマージュ(揶揄?)とも言えます。
当時の風俗や社会習慣を女性の目から見ることができるのは貴重ですが、作者はイギリス人ではないので、どこまで正確かには疑問が残ります。文中に「ウェストラインの極端に高い総裁政府時代風の美しいドレス」というのが出てくるのですが、これ、イギリス人だったら摂政時代(リージェンシー)風と書くはずのところ。ハンガリーの亡命貴族でベルギー、パリを経てロンドンに移ったという経歴から、作者の頭に最初に浮かんだのがRegencyではなくDirectoireだったのでしょう。
レディ・モリーの事件簿―ホームズのライヴァルたち (論創海外ミステリ)
原題:Lady Molly of Scotland Yard
作者:バロネス・オルツィ
訳者:鬼頭玲子
出版社:論創社
ISBN:4846006603
作者はヴィクトリア朝生まれの人で、歴史ロマン『紅はこべ』の作者だそう。なるほど、史実をもとにしてワクワクするような冒険物語を仕立てる手際には似たものがあるかもしれません。あり得ないけどこうなったら楽しいだろうなあというファンタジーであるところも共通点。
エドワード朝の女性がスコットランドヤードの刑事になる可能性ってどのくらいあったんでしょうね。たとえ貴族でも、というか貴族の女性ならなおさら無理だっただろうなあ。『最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』にも書かれていましたが、当時の社会では刑事というのは労働者階級の人間がなる下賤な職業だったのですから。解説によると、実際、英国で最初の女性刑事が誕生したのは1920年だったそうです。
オルツィという人、レディ・モリー物以外に、「隅の老人」シリーズも書いていて、こちらは安楽椅子探偵の先駆けと言われているのだそう。アイディアと時代の先を読む目に恵まれていた人だったのですね。そして、最後の2編には『紅はこべ』の作者らしいロマンス風味が爆発してます。
ナインスコアの謎/The Ninescore Mystery論創社では“ホームズのライヴァルたち”というシリーズ名を冠して、少し古めのミステリーを何冊か出していますが、これもそのうちの一冊。コナン・ドイルがホームズ物を最初に発表したのは1887年、レディ・モリー物が発表されたのが1909年ですから、当然、ホームズ物の影響も受けていると思われます。実際、解説によると、「隅の老人」シリーズではできるだけホームズを連想させない人物を作り上げようとしたと自伝に書いてあるそうです。
フルーウィンの細密画/The Frewin Miniatures
アイリッシュ・ツイードのコート/The Irish-Tweed Coat
フォードウィッチ館の秘密/The Fordwych Castle Mystery
とある日の過ち/A Day's Folly
ブルターニュの城/A Castle in Brittany
クリスマスの惨劇/A Christmas Tragedy
砂嚢/The Bag of Sand
インバネスの男/The Man in the Inverness Cape
大きな帽子の女/The Woman in the Big Hat
サー・ジェレマイアの遺言書/Sir Jeremiah's Will
終幕/The End
というようなことを考えると、やはり、レディ・モリーの活躍を部下の女性メアリーが書くという設定は、ホームズとワトソンを意識したものと考えてしまいます。そういえば、「クリスマスの惨劇」には世間を騒がせている家畜虐待事件の話が出てきます。これはおそらく、『Arthur & George』のテーマとなっている冤罪事件を頭においたものじゃないでしょうか(実際の事件は虐待ではなく虐殺ですが)。エダルジが恩赦を受けたのが1907年で、当時かなりのニュースでしたし、コナン・ドイルが果たした少々滑稽な役回りも知られていましたから、一種のオマージュ(揶揄?)とも言えます。
当時の風俗や社会習慣を女性の目から見ることができるのは貴重ですが、作者はイギリス人ではないので、どこまで正確かには疑問が残ります。文中に「ウェストラインの極端に高い総裁政府時代風の美しいドレス」というのが出てくるのですが、これ、イギリス人だったら摂政時代(リージェンシー)風と書くはずのところ。ハンガリーの亡命貴族でベルギー、パリを経てロンドンに移ったという経歴から、作者の頭に最初に浮かんだのがRegencyではなくDirectoireだったのでしょう。
レディ・モリーの事件簿―ホームズのライヴァルたち (論創海外ミステリ)
原題:Lady Molly of Scotland Yard
作者:バロネス・オルツィ
訳者:鬼頭玲子
出版社:論創社
ISBN:4846006603
by timeturner
| 2014-02-15 16:54
| 和書
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