2013年 10月 13日
英国風の殺人 |
古い家柄を誇るウォーベック家の当主トーマス・ウォーベック卿は、自らの余命が残り少ないことを考え、最後のクリスマスを近しい親族とともに過ごそうと息子のロバートをはじめ数人の客を招待した。古文書の研究のため屋敷に滞在していたハンガリー生まれの歴史学者ボトウィン博士や、来客のひとりを護衛してきたスコットランド・ヤードの刑事、執事の娘など一族外の人間も滞在する屋敷で、クリスマスの午前零時、殺人事件が起こった・・・。
あまり面白くないという評価が多かったので、たいして期待もせずに読んだのですが、すごく面白かった。これ、英国好きの人ならツボだと思う。大雪で交通が遮断され、電話もつながらなくなった屋敷にとじこめられた人々のあいだで次々に殺人が起こるというシチュエーションはかなりスリリングなのだけれど、そこでスティーヴン・キングのような方向には進まず、あくまでも穏やかでゆったりとした流れで話が進むのが本当になんとも英国的です。
外国人教授を探偵役に配することで、一般の人にはなじみのない英国の習慣や物の考え方を自然に解説する形になっているので、英国通でなくても理解はできると思うのですが、それを面白いと思うかどうかは、やはり読者が英国好きかどうかにかかってくると思う。
立派だけれど老朽化した古い屋敷、領地である田舎の風景と厳しい自然、さまざまな出自、立場にある英国人たちの振る舞いが克明に容赦なく描き出されます。事件の内容とはまったく関係なく、雪解けの野原でウサギが登場するシーンなど、もう、陶然としてしまいました。英国の田舎で生まれ育ち、そこを愛している英国人にしか書けないし、書かない部分だと思う。
刊行されたのが1951年で、おそらく話の背景も同じ頃だと思われるのですが、その時代(イギリスがナチスドイツを相手に勝利をおさめ、ほとんどの人がナチズムに嫌悪感を抱いていた時期)に、ネオナチのファシスト集団がイギリスで堂々と存在を認められていたというのは驚きです。
事件解決の決め手となったのが、ひとりの労働者階級の人間が使った英語の言い回しだったという謎解きも斬新。元の英語がわからないともどかしいのですが、幸いなことにカナダのGutenberugに原文がありました。それによると、問題になった二つの言い回しは"I had some words with him (or her)"と"We had some words"でした。へえ、そうなのか!
執事のブリッグズは芝居がかって見えるほど英国的、伝統的なんですが、もしかして『日の名残り』と一緒くらいの時代背景でしょうかね。
それにしても、国書刊行会にしてはお金をかけていない装丁ですねえ。
英国風の殺人 世界探偵小説全集 (6)
原題:An English Murder
作者:シリル・ヘアー
訳者:佐藤弓生
出版社:国書刊行会
ISBN:4336036764
あまり面白くないという評価が多かったので、たいして期待もせずに読んだのですが、すごく面白かった。これ、英国好きの人ならツボだと思う。大雪で交通が遮断され、電話もつながらなくなった屋敷にとじこめられた人々のあいだで次々に殺人が起こるというシチュエーションはかなりスリリングなのだけれど、そこでスティーヴン・キングのような方向には進まず、あくまでも穏やかでゆったりとした流れで話が進むのが本当になんとも英国的です。
外国人教授を探偵役に配することで、一般の人にはなじみのない英国の習慣や物の考え方を自然に解説する形になっているので、英国通でなくても理解はできると思うのですが、それを面白いと思うかどうかは、やはり読者が英国好きかどうかにかかってくると思う。
立派だけれど老朽化した古い屋敷、領地である田舎の風景と厳しい自然、さまざまな出自、立場にある英国人たちの振る舞いが克明に容赦なく描き出されます。事件の内容とはまったく関係なく、雪解けの野原でウサギが登場するシーンなど、もう、陶然としてしまいました。英国の田舎で生まれ育ち、そこを愛している英国人にしか書けないし、書かない部分だと思う。
刊行されたのが1951年で、おそらく話の背景も同じ頃だと思われるのですが、その時代(イギリスがナチスドイツを相手に勝利をおさめ、ほとんどの人がナチズムに嫌悪感を抱いていた時期)に、ネオナチのファシスト集団がイギリスで堂々と存在を認められていたというのは驚きです。
事件解決の決め手となったのが、ひとりの労働者階級の人間が使った英語の言い回しだったという謎解きも斬新。元の英語がわからないともどかしいのですが、幸いなことにカナダのGutenberugに原文がありました。それによると、問題になった二つの言い回しは"I had some words with him (or her)"と"We had some words"でした。へえ、そうなのか!
執事のブリッグズは芝居がかって見えるほど英国的、伝統的なんですが、もしかして『日の名残り』と一緒くらいの時代背景でしょうかね。
それにしても、国書刊行会にしてはお金をかけていない装丁ですねえ。
英国風の殺人 世界探偵小説全集 (6)
原題:An English Murder
作者:シリル・ヘアー
訳者:佐藤弓生
出版社:国書刊行会
ISBN:4336036764
by timeturner
| 2013-10-13 19:46
| 和書
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