2013年 10月 04日
夏の嘘 |
避暑地で出会い恋に落ちた男女、恋人を愛しているのに別な女と旅行に出かけた男、売れっ子作家の妻と売れない(書けない)作家の夫、飛行機で隣の席に座った男の思いもよらぬ打明け話、癌を患い死を覚悟した哲学教授が初めて気づいた真実の痛み・・・さまざまな人間のさまざまな関係とそれに伴う秘密や嘘についての短編7編。
作者は『朗読者』の人ですから、そりゃあもう一筋縄でいくわけはありません。主人公にシンパシーを感じながら読んでいると、実はそれが真っ赤な嘘だったりして、ちょっと『女が嘘をつくとき』に似てるように思ったけれど、この本の中の男たちの嘘はみみっちくて、厚かましくて、なさけない。女の嘘も出てくるけど、嘘がばれたときにそれを受け止める強さが女にだけあるのは作者が男性でなんらかの幻想を抱いているからなのだろうか。
「森のなかの家」や「真夜中の他人」はホラー的に怖い作品ではありますが、そういう異常なシチュエーションに普通の人が巻き込まれることはめったにない。それよりも、「バーデンバーデン」みたいに、ごく罪のない嘘をついたばかりに、真綿で首をしめられるようなのっぴきならない状況に追い込まれていく怖ろしさのほうが、読者にとっては真の恐怖なのかもしれない。
それにしてもこの作家は本当に語りが素晴らしい。どちらかというと淡々とした描写なのに、あらがいがたいほど強い吸引力を持っています。ゆるゆると始まってドラマチックに盛り上がり、それからまた人生の終焉に向かって収束していくような作品構成も見事。
7作品のうち2つに映画の話が出てくるのですが、どちらもタイトルは出さずにあらすじだけ紹介していて、しかもしれが作品の内容とけっこう深く関わっている。「ニューシネマ・パラダイス」はありがちだけど「サンシャイン・クリーニング」はけっこう渋い選択かも。シュリンクさん、映画が好きなのかな。だったら『朗読者』の映画化はうれしかっただろうなと思いました。
夏の嘘 (新潮クレスト・ブックス)
原題:Sommerlugen
作者:ベルンハルト・シュリンク
訳者:松永美穂
出版社:新潮社
ISBN:4105901004
作者は『朗読者』の人ですから、そりゃあもう一筋縄でいくわけはありません。主人公にシンパシーを感じながら読んでいると、実はそれが真っ赤な嘘だったりして、ちょっと『女が嘘をつくとき』に似てるように思ったけれど、この本の中の男たちの嘘はみみっちくて、厚かましくて、なさけない。女の嘘も出てくるけど、嘘がばれたときにそれを受け止める強さが女にだけあるのは作者が男性でなんらかの幻想を抱いているからなのだろうか。
シーズンオフ人というのは他人と関わりあって生きていかねばならず、そうなると必然的に秘密をもったり嘘をついたりしなくてはならない、と作者は考えているようですし、実際この本に収録されている話を読んでいるうちに読者もそれを認めざるをえなくなります。
バーデンバーデンの夜
森のなかの家
真夜中の他人
最後の夏
リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ
南への旅
「森のなかの家」や「真夜中の他人」はホラー的に怖い作品ではありますが、そういう異常なシチュエーションに普通の人が巻き込まれることはめったにない。それよりも、「バーデンバーデン」みたいに、ごく罪のない嘘をついたばかりに、真綿で首をしめられるようなのっぴきならない状況に追い込まれていく怖ろしさのほうが、読者にとっては真の恐怖なのかもしれない。
それにしてもこの作家は本当に語りが素晴らしい。どちらかというと淡々とした描写なのに、あらがいがたいほど強い吸引力を持っています。ゆるゆると始まってドラマチックに盛り上がり、それからまた人生の終焉に向かって収束していくような作品構成も見事。
7作品のうち2つに映画の話が出てくるのですが、どちらもタイトルは出さずにあらすじだけ紹介していて、しかもしれが作品の内容とけっこう深く関わっている。「ニューシネマ・パラダイス」はありがちだけど「サンシャイン・クリーニング」はけっこう渋い選択かも。シュリンクさん、映画が好きなのかな。だったら『朗読者』の映画化はうれしかっただろうなと思いました。
夏の嘘 (新潮クレスト・ブックス)
原題:Sommerlugen
作者:ベルンハルト・シュリンク
訳者:松永美穂
出版社:新潮社
ISBN:4105901004
by timeturner
| 2013-10-04 16:31
| 和書
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