2013年 09月 18日
字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記 |
日本の字幕は画面に文字が出るタイミングなど、精密さにおいて世界一の高品質と言われているのだそうです。その製作をめぐる実際の作業のあれこれから、日本語、ひいては字幕が堕落・凋落していく世の中の傾向を憂慮する辛口批評まで字幕翻訳家が本音で語るエッセイ集。
これまで読んできた字幕に関する本は、どれも映画が好きで仕方がなくて字幕の仕事に関わるようになった人たちが書いたものだったので、書かれている内容も映画の裏話、監督や俳優のエピソードなどが多かったのですが、この本の作者はもともとがロシア文学専攻で、特に映画好きであったわけでもないという変り種。
なので、書かれていることは純粋に字幕そのもの、翻訳および日本語についてで、それがかえって新鮮でした。特に第一章の字幕制作に関する具体的な作業の説明はへえ、なるほど、だからああなるのかと目からウロコが落ちるような話もけっこうありました。フィルムからデジタルへと現場が過渡期にあるため、はっきり書けない部分もあるようですが、それでも字幕業界で何が問題なのかはある程度見えてきます。
そして字幕を作る側からオーディエンスへの苦言も。1990年代から目につくようになった「わかりやすさを求める風潮」について書いているところは、私もここ数年、まわりの若い観客の声を聞いたときに感じていたことと近いのでとても共感してしまいました。
それにしても、こうして読んでいると、字幕の翻訳というものは文芸翻訳とはまったくの別物であるのだと、改めて認識しました。これまでは映画を見ていて耳に聞こえてきたセリフと字幕が違うと、すぐに字幕翻訳家を責めていたのですが、そんな簡単なものじゃなかったんだなあと反省したりして。(もっとも「ロード・オブ・ザ・リング」のときみたいな言語道断の誤訳は論外ですが)
字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記
作者:太田直子
出版社:岩波書店
ISBN:4000258974
これまで読んできた字幕に関する本は、どれも映画が好きで仕方がなくて字幕の仕事に関わるようになった人たちが書いたものだったので、書かれている内容も映画の裏話、監督や俳優のエピソードなどが多かったのですが、この本の作者はもともとがロシア文学専攻で、特に映画好きであったわけでもないという変り種。
なので、書かれていることは純粋に字幕そのもの、翻訳および日本語についてで、それがかえって新鮮でした。特に第一章の字幕制作に関する具体的な作業の説明はへえ、なるほど、だからああなるのかと目からウロコが落ちるような話もけっこうありました。フィルムからデジタルへと現場が過渡期にあるため、はっきり書けない部分もあるようですが、それでも字幕業界で何が問題なのかはある程度見えてきます。
そして字幕を作る側からオーディエンスへの苦言も。1990年代から目につくようになった「わかりやすさを求める風潮」について書いているところは、私もここ数年、まわりの若い観客の声を聞いたときに感じていたことと近いのでとても共感してしまいました。
けれど多くの人たちは、芸術だけでなく実生活でもわからないものを敬遠し、ときには残酷なまでに排除する。そして周りと同じもの、わかりやすいものだけを共有して安心する。情報を発信する側も、そうしたものがより求められていると思い込んで、ますますわかりやすさ、口当たりのよさを主眼にする。こうして仲よく手に手を携え、知性の階段を下っているのではないか。下りは上りより楽なので、その流れを止めるのは難しい。考えてみると先日見て、なんだかもやもやと納得がいかなかった「アンコール!!」の問題は、このあたりにあるのかもしれないと思いました。
それにしても、こうして読んでいると、字幕の翻訳というものは文芸翻訳とはまったくの別物であるのだと、改めて認識しました。これまでは映画を見ていて耳に聞こえてきたセリフと字幕が違うと、すぐに字幕翻訳家を責めていたのですが、そんな簡単なものじゃなかったんだなあと反省したりして。(もっとも「ロード・オブ・ザ・リング」のときみたいな言語道断の誤訳は論外ですが)
字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記
作者:太田直子
出版社:岩波書店
ISBN:4000258974
by timeturner
| 2013-09-18 22:13
| 和書
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