2013年 07月 28日
たけこのぞう |
猫を飼ってもいいことを条件に住まいを探していた主人公が紹介されたのは、古い民家の離れ。だが、家主はえり好みが激しく、面談が必要だという。やさしく品のいい老夫婦はすぐに主人公を気に入り、猫についても快く了解してくれた。走りまわれる庭を得て喜ぶ猫になみなみならぬ関心と愛情を示す家主夫妻。何もかもうまくいっているように見えたのだが・・・。不気味で幻想的な6編を収録の短編集。
怪奇幻想のジャンルに入るのだろうか。でも、このうっすりした怖さにはジャンル分けを拒むようなところがあります。この人の描く闇には二種類あって、ひとつは人智の及ばぬところからくる闇、もうひとつは人の内側にある闇。そしてもちろん、どちらが怖いかといえば後者のほうです。
二つの闇が関連し合っているように見えるときもあれば、まったく別々に作用しているようなときもあるけれど、いずれの場合も何か自分の中で消化しきれず、あとあとまで心の底に澱のようにたまっているような感覚があります。ただ怖がらせるための怪奇小説は読んでいるあいだは怖いけど、読み終えて数時間もすればどんな話だったか忘れてしまうこともあるのに。
「フラオ・ローゼンバウムの靴」はドイツを舞台にした話ですが、うまく訳された翻訳小説のように自然に描かれているのでひょっとしたら多和田葉子さんのようにドイツ在住の作家かも、と思ったのですが、1987年にパリ第七大学《外国語としてのフランス語》修士課程を修了し、1995年からはドイツ在住という経歴の持ち主だそう。
でも、それ以外の作品は少し前の日本を彷彿とさせる舞台、登場人物、文体で、ああ、この人は「外国語」ではなく「言葉」というものに並々ならぬ思いを抱えて生きているんだろうなあ、と思いました。いずれにしても、日本の作家というカテゴリーではくくれないものを持っているように思います、《早稲田文学》5号の特集「翻訳という未来」の中で、作家のグローバル化という問題がどの言語の翻訳家からも提起されていたけれど、そういうことなんだろうな。
そういう世界的視野をもった作家が古い日本をテーマに取り上げ、緊密で美しい日本語で小説を書いてくれる幸せをもっともっと味わいたい。
たけこのぞう
作者:大濱普美子
出版社:国書刊行会
ISBN:4336056668
怪奇幻想のジャンルに入るのだろうか。でも、このうっすりした怖さにはジャンル分けを拒むようなところがあります。この人の描く闇には二種類あって、ひとつは人智の及ばぬところからくる闇、もうひとつは人の内側にある闇。そしてもちろん、どちらが怖いかといえば後者のほうです。
二つの闇が関連し合っているように見えるときもあれば、まったく別々に作用しているようなときもあるけれど、いずれの場合も何か自分の中で消化しきれず、あとあとまで心の底に澱のようにたまっているような感覚があります。ただ怖がらせるための怪奇小説は読んでいるあいだは怖いけど、読み終えて数時間もすればどんな話だったか忘れてしまうこともあるのに。
猫の木のある庭大濱普美子さんという作家は初めて知ったのですが、1958年生まれであるにもかかわらず、作品を発表し始めたのはわりあい最近みたいですね(2009年に本書収録の「猫の木のある庭」を《三田文学》に発表 )。文学部文学科卒だそうですから学生時代からずっと書いていたのかもしれませんが。
フラオ・ローゼンバウムの靴
盂蘭盆会
浴室稀譚
水面
たけこのぞう
「フラオ・ローゼンバウムの靴」はドイツを舞台にした話ですが、うまく訳された翻訳小説のように自然に描かれているのでひょっとしたら多和田葉子さんのようにドイツ在住の作家かも、と思ったのですが、1987年にパリ第七大学《外国語としてのフランス語》修士課程を修了し、1995年からはドイツ在住という経歴の持ち主だそう。
でも、それ以外の作品は少し前の日本を彷彿とさせる舞台、登場人物、文体で、ああ、この人は「外国語」ではなく「言葉」というものに並々ならぬ思いを抱えて生きているんだろうなあ、と思いました。いずれにしても、日本の作家というカテゴリーではくくれないものを持っているように思います、《早稲田文学》5号の特集「翻訳という未来」の中で、作家のグローバル化という問題がどの言語の翻訳家からも提起されていたけれど、そういうことなんだろうな。
そういう世界的視野をもった作家が古い日本をテーマに取り上げ、緊密で美しい日本語で小説を書いてくれる幸せをもっともっと味わいたい。
たけこのぞう
作者:大濱普美子
出版社:国書刊行会
ISBN:4336056668
by timeturner
| 2013-07-28 23:36
| 和書
|
Comments(0)