2013年 06月 08日
時の娘 |
ジョセフィン・テイの同名小説と間違えてしまいそうですが、こちらはロマンティック時間SFの傑作選。このジャンルの定番作家といえるフィニイ、ヤングらの心温まる恋の物語から作品の仕掛けに技巧を凝らした傑作まで本邦初訳作3編を含む9編を収録。
時間SF(タイムトラベル)とロマンスの相性がいいことは、小説だけでなく映画でも証明済みですが、下手をするとSF濃度よりもロマンス濃度が勝ってしまい、甘々になるおそれもなきにしもあらず。それで、ちょっと及び腰で読み始めたのですが、さすがにこうして集められただけあって、いずれもちゃんとSFとしての読み応えもある良作でした。
自分でもときどき、ン十年分の知識と経験を蓄えた今の自分の頭脳を保持したまま過去の若い自分に戻れたらどうなるだろうなんて想像したりすることがあるけど、そうそう思ったようにうまくはいかないらしいというのが「かえりみれば」で気づけたりもする。
「たんぽぽ娘」人気でロマンティック時間SFの神様と祀り上げられているロバート・F・ヤングの「時が新しかったころ」は、過去の火星人(ヒューマノイド)の姉弟と未来の地球人青年が恐竜時代の地球で出会うという、設定からしてすでに私のハートをがっちりつかむ仕様なんですが、軽い語り口が楽しく、物語の展開も変化に富んでいて、ロマンチックな終わり方も文句なし。さすがです。
C・L・ムーアは若い頃好きだった作家なんですが、「出会いのとき巡りきて」はこの構想を短編でやるのは無理があったと思う。たったひとりの相手を求めてある時代からある時代へと時を旅していくという設定はいいのに、それがまるでグーグルアースかストリートビューでちらちら眺めているだけみたいになってしまっているので、肝心のロマンスのほうもいまいちふくらまない。
『時間をまきもどせ!』に続いてこれを読んで、そうだ、SFって読んでいるときの開放感が気持ちよかったんだ、と思い出しました。ミステリーは内側に閉じていく感覚があるんだけど、SFは外へ外へと向かって心が開いていく感じ。どっちも楽しいんだけど、どっちかだけに偏らないほうが私には楽しめるような気がしました。
時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)
原題:Double Take and Other Stories
編者:中村 融
出版社:東京創元社
ISBN:4488715036
時間SF(タイムトラベル)とロマンスの相性がいいことは、小説だけでなく映画でも証明済みですが、下手をするとSF濃度よりもロマンス濃度が勝ってしまい、甘々になるおそれもなきにしもあらず。それで、ちょっと及び腰で読み始めたのですが、さすがにこうして集められただけあって、いずれもちゃんとSFとしての読み応えもある良作でした。
チャリティのことづて A Mrssage from Charity/ウィリアム・M・リー(安野 玲)時間SFと一口に言っても、単純なタイムトラベルだけではなく、250年の時の隔たりを超えて精神感応する少年と少女を描く「チャリティのことづて」とか、時が逆向きに進む世界を描いた「むかしをいまに」とか、深く考えると頭が爆発しそうになる輪廻系「時の娘」とか。「時の娘」は前に読んだ記憶があるけど、別のアンソロジーに入っていたのだろうか。それともSFマガジンに掲載されていたのかも。
むかしをいまに Backward O Time/デーモン・ナイト(浅倉久志)
台詞(せりふ)指導 Double Take/ジャック・フィニイ(中村 融)
かえりみれば Backward Turn Backward/ウィルマー・H・シラス(中村 融/井上 知)
時のいたみ Backtracked /バート・K・ファイラー(中村 融)
時が新しかったころ When Time Was New/ロバート・F・ヤング(市田 泉)
時の娘 Child by Chronos/チャールズ・L・ハーネス(浅倉久志)
出会いのとき巡りきて Tryst in Time/C・L・ムーア(安野 玲)
インキーに詫びる Apology to Inky /ロバート・M・グリーン・ジュニア(中村 融)
自分でもときどき、ン十年分の知識と経験を蓄えた今の自分の頭脳を保持したまま過去の若い自分に戻れたらどうなるだろうなんて想像したりすることがあるけど、そうそう思ったようにうまくはいかないらしいというのが「かえりみれば」で気づけたりもする。
「たんぽぽ娘」人気でロマンティック時間SFの神様と祀り上げられているロバート・F・ヤングの「時が新しかったころ」は、過去の火星人(ヒューマノイド)の姉弟と未来の地球人青年が恐竜時代の地球で出会うという、設定からしてすでに私のハートをがっちりつかむ仕様なんですが、軽い語り口が楽しく、物語の展開も変化に富んでいて、ロマンチックな終わり方も文句なし。さすがです。
C・L・ムーアは若い頃好きだった作家なんですが、「出会いのとき巡りきて」はこの構想を短編でやるのは無理があったと思う。たったひとりの相手を求めてある時代からある時代へと時を旅していくという設定はいいのに、それがまるでグーグルアースかストリートビューでちらちら眺めているだけみたいになってしまっているので、肝心のロマンスのほうもいまいちふくらまない。
『時間をまきもどせ!』に続いてこれを読んで、そうだ、SFって読んでいるときの開放感が気持ちよかったんだ、と思い出しました。ミステリーは内側に閉じていく感覚があるんだけど、SFは外へ外へと向かって心が開いていく感じ。どっちも楽しいんだけど、どっちかだけに偏らないほうが私には楽しめるような気がしました。
時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)
原題:Double Take and Other Stories
編者:中村 融
出版社:東京創元社
ISBN:4488715036
by timeturner
| 2013-06-08 23:08
| 和書
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