2013年 05月 05日
E・ギャスケル短篇集―呪われた人々の物語 |
日本で紹介されているエリザベス・ギャスケルの作品はほとんどが長編ですが、ノンフィクションの「呪われた種族(An Accursed Race)」を含めた短編4編を収録しています。色々な作家のアンソロジーではなく、ひとりの作家の作品集で複数の翻訳家がかかわっているのは珍しいと思いますが、それぞれの作品に向いた文体をそれぞれの訳者が選んだとまえがきにあるとおり、それが功を奏していると思いました。フィクションとノンフィクションの場合は特に。
「乳母物語」は『ヴィクトリア朝幽霊物語』には「婆やの話」、『ゴースト・ストーリー傑作選-英米女性作家8短編-』には「老いた子守り女の話」のタイトルで収録されていました。
乳母物語 The Old Nurse's Story/足立万寿子
呪われた種族 An Accursed Race/杉山直之
ブリジェットの呪い The Poor Clare/足立万寿子
グリフィス家の悲運 The Doom of the Griffiths/伊達安子
「ブリジェットの呪い」は愛する娘をなくした召使いの女が、娘のただひとつの形見として可愛がっていた犬をジェントルマン階級の男に殺され、呪いをかけるという、ちょっとおどろおどろしい話。シェイクスピアの悲劇のように後から後から不幸が重なり、親の因果が子に祟り、なんともすさまじい因縁ゴシックストーリーとなっています。でも、不思議と後味が爽やかなのは、悲劇ではありながらある種のハッピーエンディングになっているからかな。ハッピーエンディングというより、人を許すことの究極の形というか。「乳母物語」と同様、当事者のひとりによる昔語りという形式はいささか古臭いのですが、アイルランドとイギリス、カトリックとプロテスタント、搾取する者とされる者、さまざまな形の対立がダイナミズムを生み出して、単なるメロドラマに終わらない余韻を残します。アイルランド人を主人公にしているせいか、ちょっとレ・ファニュの雰囲気もある。
「グリフィス家の悲運」はオイディプス物の変形、父殺しの話ですが、ウェールズの荒々しい自然を背景にして、なんとも救いのない荒涼とした親子関係が描かれています。読み終わってから、あれ、そもそもどうして呪われたんだっけ?と最初に戻って読み直し、呪いをかけたウェールズの英雄オーエン・グレンドワーの徹底した復讐心にあきれました。そこまで呪わんでも、という感じ。
E・ギャスケル短篇集―呪われた人々の物語
作者:エリザベス ギャスケル
訳者:伊達安子、杉山直之、足立万寿子
出版社:近代文芸社
ISBN:4773332573
「乳母物語」は『ヴィクトリア朝幽霊物語』には「婆やの話」、『ゴースト・ストーリー傑作選-英米女性作家8短編-』には「老いた子守り女の話」のタイトルで収録されていました。
乳母物語 The Old Nurse's Story/足立万寿子
呪われた種族 An Accursed Race/杉山直之
ブリジェットの呪い The Poor Clare/足立万寿子
グリフィス家の悲運 The Doom of the Griffiths/伊達安子
「ブリジェットの呪い」は愛する娘をなくした召使いの女が、娘のただひとつの形見として可愛がっていた犬をジェントルマン階級の男に殺され、呪いをかけるという、ちょっとおどろおどろしい話。シェイクスピアの悲劇のように後から後から不幸が重なり、親の因果が子に祟り、なんともすさまじい因縁ゴシックストーリーとなっています。でも、不思議と後味が爽やかなのは、悲劇ではありながらある種のハッピーエンディングになっているからかな。ハッピーエンディングというより、人を許すことの究極の形というか。「乳母物語」と同様、当事者のひとりによる昔語りという形式はいささか古臭いのですが、アイルランドとイギリス、カトリックとプロテスタント、搾取する者とされる者、さまざまな形の対立がダイナミズムを生み出して、単なるメロドラマに終わらない余韻を残します。アイルランド人を主人公にしているせいか、ちょっとレ・ファニュの雰囲気もある。
「グリフィス家の悲運」はオイディプス物の変形、父殺しの話ですが、ウェールズの荒々しい自然を背景にして、なんとも救いのない荒涼とした親子関係が描かれています。読み終わってから、あれ、そもそもどうして呪われたんだっけ?と最初に戻って読み直し、呪いをかけたウェールズの英雄オーエン・グレンドワーの徹底した復讐心にあきれました。そこまで呪わんでも、という感じ。
E・ギャスケル短篇集―呪われた人々の物語
作者:エリザベス ギャスケル
訳者:伊達安子、杉山直之、足立万寿子
出版社:近代文芸社
ISBN:4773332573
by timeturner
| 2013-05-05 22:24
| 和書
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