2013年 04月 26日
列車に御用心 |
オックスフォード大学英語英文学教授ジャーヴァス・フェン教授が素人探偵として活躍する短編14編とそれ以外の2編を収録したオリジナル短篇集を初めて全翻訳したものです。
表題作は先日読んだ『世界鉄道推理傑作選〈1〉』 にも収録されていた鉄道ミステリーですが、それ以外の作品は鉄道とはほとんど関係がなく、バラエティ豊か。ひとつ目立ったのは、犯人がわかっていながら法が検察側に不利に働いて手の出しようがないケース、あるいはわかっていながら見てみぬふりをするケースがけっこう出てくること。事件の謎さえ解ければあとは警察の正義が貫かれなくてもよいという素人探偵ならではのモラルが興味深い。読者としても別にそれで不満はないわけですが。
新訳だけあって、『世界鉄道推理傑作選〈1〉』 で感じたようなフェンの老教授ぶりは一掃され、かなり若返っているのはうれしいんですが、オックスフォード大学の、しかも英語英文学の教授が「おれ」を連発するのは違和感があるなあ。
でもとにかく、クリスピンの短篇集が出たのはうれしい。この出版社、『歌う砂―グラント警部最後の事件』を出していたところですよね。
「苦悩するハンブルビー」はなかなか経緯がのみこめなくて3回も読み直してしまいました。頭が悪いからだといえばそれまでですが、そもそも作者の意図がよくわからない。だって大佐は最初に自分の拳銃で被害者を撃ってるわけで、そのあと汚職の証拠を隠滅したにしても、検屍解剖すればすぐに犯人はわかってしまうじゃない。たまたま偶然の出来事があったから助かったけど、そもそもはどうするつもりだったんだろう? からまれてかっとなって殺したと主張するにはもう遅いわけだし。それと、最後に発見された空薬莢が3発とも実弾だったというのは、大佐が先に捨てた3発(実弾2発、空砲1発)はこっそり回収し、あとから実弾の薬莢を捨てたという解釈でいいのかしらん?
最後の2編はフェン教授が主人公ではなく、特に最後の「デッドロック」は少年の視点で描かれた、瑞々しい印象の作品で、へえ、クリスピンってこんなのも書いたんだ、もっとほかにもあればいいのにと思いました。
私がいちばん好きなクリスピンの作品は『消えた玩具屋』ですが、残念ながらあそこにあるような文学的スノビズムや思わず吹きだしてしまうようなコメディタッチはほとんど見受けられませんでした。短編でそれをやると読者がよけいなことに気をとられてしまい、推理から離れてしまうからという親切心からでしょうか。
列車に御用心 (論創海外ミステリ)
原題:Beware of the Trains
作者:エドマンド・クリスピン
訳者:冨田ひろみ
出版社:論創社
ISBN:4846012298
表題作は先日読んだ『世界鉄道推理傑作選〈1〉』 にも収録されていた鉄道ミステリーですが、それ以外の作品は鉄道とはほとんど関係がなく、バラエティ豊か。ひとつ目立ったのは、犯人がわかっていながら法が検察側に不利に働いて手の出しようがないケース、あるいはわかっていながら見てみぬふりをするケースがけっこう出てくること。事件の謎さえ解ければあとは警察の正義が貫かれなくてもよいという素人探偵ならではのモラルが興味深い。読者としても別にそれで不満はないわけですが。
新訳だけあって、『世界鉄道推理傑作選〈1〉』 で感じたようなフェンの老教授ぶりは一掃され、かなり若返っているのはうれしいんですが、オックスフォード大学の、しかも英語英文学の教授が「おれ」を連発するのは違和感があるなあ。
でもとにかく、クリスピンの短篇集が出たのはうれしい。この出版社、『歌う砂―グラント警部最後の事件』を出していたところですよね。
列車に御用心どの作品も短い中にきっちりと事実を過不足なく並べてあり、注意深く読めば読者にも謎が解決できるフェアな作りになっており、とはいうもののしっかりミスリーディングさせるような物もまぎれこませて一筋縄ではいかないようにしてあるのが巧い。あまり簡単にわかってしまっては興ざめだし、かといって難しすぎて手も足も出ないのもまたがっくりきますからね。
苦悩するハンブルビー
エドガー・フォーリーの災難
人生に涙あり
門にいた人々
三人の親族
小さな部屋
高速発射
ペンキ缶
すばしこい茶色の狐
喪には黒
窓の名前
金の純度
ここではないどこかで
決め手
デッドロック
「苦悩するハンブルビー」はなかなか経緯がのみこめなくて3回も読み直してしまいました。頭が悪いからだといえばそれまでですが、そもそも作者の意図がよくわからない。だって大佐は最初に自分の拳銃で被害者を撃ってるわけで、そのあと汚職の証拠を隠滅したにしても、検屍解剖すればすぐに犯人はわかってしまうじゃない。たまたま偶然の出来事があったから助かったけど、そもそもはどうするつもりだったんだろう? からまれてかっとなって殺したと主張するにはもう遅いわけだし。それと、最後に発見された空薬莢が3発とも実弾だったというのは、大佐が先に捨てた3発(実弾2発、空砲1発)はこっそり回収し、あとから実弾の薬莢を捨てたという解釈でいいのかしらん?
最後の2編はフェン教授が主人公ではなく、特に最後の「デッドロック」は少年の視点で描かれた、瑞々しい印象の作品で、へえ、クリスピンってこんなのも書いたんだ、もっとほかにもあればいいのにと思いました。
私がいちばん好きなクリスピンの作品は『消えた玩具屋』ですが、残念ながらあそこにあるような文学的スノビズムや思わず吹きだしてしまうようなコメディタッチはほとんど見受けられませんでした。短編でそれをやると読者がよけいなことに気をとられてしまい、推理から離れてしまうからという親切心からでしょうか。
列車に御用心 (論創海外ミステリ)
原題:Beware of the Trains
作者:エドマンド・クリスピン
訳者:冨田ひろみ
出版社:論創社
ISBN:4846012298
by timeturner
| 2013-04-26 19:06
| 和書
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