2013年 02月 28日
世界ベスト・ミステリー50選―名作短編で編む推理小説50年史〈上〉 |
前回の宮脇クラスの課題がトマス・バークの幽霊話だったので、参考のため先生が訳された 「ブルームズベリーの惨劇」だけ読むつもりだったのだけれど、ほかの作品も面白くて、結局ぜんぶ読んでしまった。
「ブルームズベリーの惨劇」はホラー風味のミステリーで、謎ときの興味はあまりないのですが、事実の積み重ねでじわじわと怖がらせるのが上手です。でも、殺しの場面は超人的すぎ。ブルース・リーみたいで読んでてちょっと笑った。
トマス・バークは邦訳されている作品が少なく、ほかに「オッタモール氏の手」の新庄哲夫訳と黒沼健訳、「The Yellow Imps」の高見浩訳(金色の子鬼)と坂崎 麻子訳(小さな顔)を読みました。これらもアンソロジーに収録されていましたが、他作品はそれほど魅力的に見えなかったので(紙ヤケがひどく文字が小さかったせいもある)読みませんでした。
作品は年代別に並べられているので、その時代の傾向がわかります。気のせいかもしれないけれど早い年代の作品は殺人を扱ってはいても、どこかしらおっとりした雰囲気がある。まだネタが使いふるされていないことからくる書き手の自由闊達さも関係しているのかもしれない。私はこういうほうが好きだな。なので60年代から80年代までを扱っている下巻はたぶん読まない。
●1940年代
赤いかつらの手がかり The Clue of The Red Wig/ジョン・ディクスン・カー(宇野利泰訳)
消えた美人スター Lost Star/C.デイリー・キング(名和立行訳)
ブルームズベリーの惨劇 The Bloomsbury Wonder/トマス・バーク(宮脇孝雄訳)
晴れ姿 Dressing-Up/W.R.バーネット(小鷹信光訳)
殺意 Malice Domestic/フィリップ・マクドナルド(小梨 直訳)
出口はわかっている I Can Find My Way Out/ナイオ・マーシュ(村崎敏郎訳)
心理的拷問 The Fourth Degree/ヒュー・ペンティコースト(富永和子訳)
深夜の貴婦人 Midnight Adventure/マイケル・アーレン(曽田和子訳)
白の研究 A Study in White/ニコラス・ブレイク(峯岸 久訳)
幻の宿泊客 The Phantom Guest/フレデリック・I.アンダースン(富永和子訳)
●1950年代
ゲティズバーグのラッパ As Simple As ABC(The Gettysburg Bugle)/エラリー・クイーン(宇野利泰訳)
札を燃やす男 Money to Burn/マージェリー・アリンガム(大坪孝子訳)
優しい修道士 The Gentlest of The Brothers/デイヴィッド・アリグザンダー(石川順子訳)
一方通行 One-Way Street/アンソニー・アームストロング(久世一作訳)
ドッグ・ショウ殺人事件 Murder at The Dog Show/ミニョン・G.エバーハート(中井京子訳)
警官は嘘をつかない Always Trust A Cop/オクテイヴァス・ロイ・コーエン(井上一夫訳)
萎えた心 The Withered Heart/ジーン・ポッツ(高橋泰邦訳)
怪物に嫁いだ女 The Girl Who Married A Monster/アンソニー・バウチャー(宮脇孝雄訳)
八時から八時までBetween Eight and Eight/C.S.フォレスター(岡田葉子訳)
いまにして思えば Knowing What I know Now/バリー・ペロウン(井上一夫訳)
●1960年代
転地 Change of Climate/アーシュラ・カーティス(名和立行訳)
標本 Life in Our Time/ロバート・ブロック(鳴海四郎訳)
揺り籃 The Special Gift/シーリア・フレムリン(青木秀夫訳)
「赤いかつらの手がかり」 『火刑法廷』は気に入らなかったけど、これは軽くユーモラスで、辻褄もちゃんと合っていて楽しい。
「消えた美人スター」 自宅の書斎でラジオ速報を追いながら事件の謎をとくという安楽椅子探偵の変形みたいな形式。オチはありがち。
「晴れ姿」 ミステリーというより哀しいハードボイルドかも。
「殺意」 毒殺ものでもうひとひねりあってもよかったかなという感じ。
「出口はわかっている」 劇場を舞台にした殺人で、間抜けな貴族の素人探偵が愉快だけど、訳文のせいなのかわかりにくい文章。
「心理的拷問」 精神科医のジョンスミスが容疑者と話をするだけで事件を解決する。
「深夜の貴婦人」 素寒貧だけど頭がよく魅力的な王子が出てくるヴィクトリア朝風の佳作。
「白の研究」 走る蒸気機関車を舞台にしていて、原題がA Study in Whiteとくれば、明らかにシャーロック・ホームズへのオマージュ。ドイルには列車を題材にしたホームズ物ではない推理短篇もあったはず。劇中に登場する列車を調べてみたら、エジンバラおよびグラスゴーから出発して、カーライル、ペンリス経由でオクセンホルム駅に到着するファースト・トランスペニー急行(First TransPennine Express) という急行列車のよう。
「ゲティスバーグのラッパ」 探偵エラリー・クイーンが秘書のニッキーとともに旅の途中で通りかかった村で、南北戦争の英雄たちにまつわる謎をとく。牧歌的で軽く読める。
「札を燃やす男」 20年前に結婚を断られたことをいまだに根にもつ男。
「優しい修道士」 大切な妹を自殺に追い込んだならず者を殺そうと決心する心やさしい男。
「ドッグ・ショウ殺人事件」 とぼけた獣医とその不細工な飼い犬が殺人事件に巻き込まれる。
「警官は嘘をつかない」 海兵隊で共に戦った男二人が片や警官、片や殺人犯となって対峙。
「萎えた心」 小さなビーグル犬がそれとは知らずにカギとなる。
「怪物に嫁いだ女」 妻に保険金をかけては次々に殺しながら無罪を勝ちとってきた男の今回の相手は・・・。
「八時から八時まで」 チェス小説かと思いきや、1時間ドラマにちょうどいいようなテンポのいい展開、意外な結末。
「いまにして思えば」 カナダからロンドンへと追いかけてくる逃れられない運命を描いたホラー・ミステリー。興味深かったのは殺人犯が逃げ回るオックスフォードの街。
「転地」 家族はもちろん周囲の人々から大事にされていた病弱な主婦が、転地して健康を取り戻したら・・・。
「揺り籃」 古い屋敷での小説同好会を舞台にしたゴシックホラー。
「標本」 タイム・カプセルをネタにして気の利いたユーモアで笑わせてくれる。
色々な土地、様々な国籍・階級・思想の人物が出てきて、味わいもそれぞれに異なる作品を集めてあるせいか、どれもみんな楽しめた。
世界ベスト・ミステリー50選―名作短編で編む推理小説50年史〈上〉 (光文社文庫)
編者:エレノア・サリヴァン
出版社:光文社
ISBN:4334760864
「ブルームズベリーの惨劇」はホラー風味のミステリーで、謎ときの興味はあまりないのですが、事実の積み重ねでじわじわと怖がらせるのが上手です。でも、殺しの場面は超人的すぎ。ブルース・リーみたいで読んでてちょっと笑った。
トマス・バークは邦訳されている作品が少なく、ほかに「オッタモール氏の手」の新庄哲夫訳と黒沼健訳、「The Yellow Imps」の高見浩訳(金色の子鬼)と坂崎 麻子訳(小さな顔)を読みました。これらもアンソロジーに収録されていましたが、他作品はそれほど魅力的に見えなかったので(紙ヤケがひどく文字が小さかったせいもある)読みませんでした。
作品は年代別に並べられているので、その時代の傾向がわかります。気のせいかもしれないけれど早い年代の作品は殺人を扱ってはいても、どこかしらおっとりした雰囲気がある。まだネタが使いふるされていないことからくる書き手の自由闊達さも関係しているのかもしれない。私はこういうほうが好きだな。なので60年代から80年代までを扱っている下巻はたぶん読まない。
●1940年代
赤いかつらの手がかり The Clue of The Red Wig/ジョン・ディクスン・カー(宇野利泰訳)
消えた美人スター Lost Star/C.デイリー・キング(名和立行訳)
ブルームズベリーの惨劇 The Bloomsbury Wonder/トマス・バーク(宮脇孝雄訳)
晴れ姿 Dressing-Up/W.R.バーネット(小鷹信光訳)
殺意 Malice Domestic/フィリップ・マクドナルド(小梨 直訳)
出口はわかっている I Can Find My Way Out/ナイオ・マーシュ(村崎敏郎訳)
心理的拷問 The Fourth Degree/ヒュー・ペンティコースト(富永和子訳)
深夜の貴婦人 Midnight Adventure/マイケル・アーレン(曽田和子訳)
白の研究 A Study in White/ニコラス・ブレイク(峯岸 久訳)
幻の宿泊客 The Phantom Guest/フレデリック・I.アンダースン(富永和子訳)
●1950年代
ゲティズバーグのラッパ As Simple As ABC(The Gettysburg Bugle)/エラリー・クイーン(宇野利泰訳)
札を燃やす男 Money to Burn/マージェリー・アリンガム(大坪孝子訳)
優しい修道士 The Gentlest of The Brothers/デイヴィッド・アリグザンダー(石川順子訳)
一方通行 One-Way Street/アンソニー・アームストロング(久世一作訳)
ドッグ・ショウ殺人事件 Murder at The Dog Show/ミニョン・G.エバーハート(中井京子訳)
警官は嘘をつかない Always Trust A Cop/オクテイヴァス・ロイ・コーエン(井上一夫訳)
萎えた心 The Withered Heart/ジーン・ポッツ(高橋泰邦訳)
怪物に嫁いだ女 The Girl Who Married A Monster/アンソニー・バウチャー(宮脇孝雄訳)
八時から八時までBetween Eight and Eight/C.S.フォレスター(岡田葉子訳)
いまにして思えば Knowing What I know Now/バリー・ペロウン(井上一夫訳)
●1960年代
転地 Change of Climate/アーシュラ・カーティス(名和立行訳)
標本 Life in Our Time/ロバート・ブロック(鳴海四郎訳)
揺り籃 The Special Gift/シーリア・フレムリン(青木秀夫訳)
「赤いかつらの手がかり」 『火刑法廷』は気に入らなかったけど、これは軽くユーモラスで、辻褄もちゃんと合っていて楽しい。
「消えた美人スター」 自宅の書斎でラジオ速報を追いながら事件の謎をとくという安楽椅子探偵の変形みたいな形式。オチはありがち。
「晴れ姿」 ミステリーというより哀しいハードボイルドかも。
「殺意」 毒殺ものでもうひとひねりあってもよかったかなという感じ。
「出口はわかっている」 劇場を舞台にした殺人で、間抜けな貴族の素人探偵が愉快だけど、訳文のせいなのかわかりにくい文章。
「心理的拷問」 精神科医のジョンスミスが容疑者と話をするだけで事件を解決する。
「深夜の貴婦人」 素寒貧だけど頭がよく魅力的な王子が出てくるヴィクトリア朝風の佳作。
「白の研究」 走る蒸気機関車を舞台にしていて、原題がA Study in Whiteとくれば、明らかにシャーロック・ホームズへのオマージュ。ドイルには列車を題材にしたホームズ物ではない推理短篇もあったはず。劇中に登場する列車を調べてみたら、エジンバラおよびグラスゴーから出発して、カーライル、ペンリス経由でオクセンホルム駅に到着するファースト・トランスペニー急行(First TransPennine Express) という急行列車のよう。
「ゲティスバーグのラッパ」 探偵エラリー・クイーンが秘書のニッキーとともに旅の途中で通りかかった村で、南北戦争の英雄たちにまつわる謎をとく。牧歌的で軽く読める。
「札を燃やす男」 20年前に結婚を断られたことをいまだに根にもつ男。
「優しい修道士」 大切な妹を自殺に追い込んだならず者を殺そうと決心する心やさしい男。
「ドッグ・ショウ殺人事件」 とぼけた獣医とその不細工な飼い犬が殺人事件に巻き込まれる。
「警官は嘘をつかない」 海兵隊で共に戦った男二人が片や警官、片や殺人犯となって対峙。
「萎えた心」 小さなビーグル犬がそれとは知らずにカギとなる。
「怪物に嫁いだ女」 妻に保険金をかけては次々に殺しながら無罪を勝ちとってきた男の今回の相手は・・・。
「八時から八時まで」 チェス小説かと思いきや、1時間ドラマにちょうどいいようなテンポのいい展開、意外な結末。
「いまにして思えば」 カナダからロンドンへと追いかけてくる逃れられない運命を描いたホラー・ミステリー。興味深かったのは殺人犯が逃げ回るオックスフォードの街。
「転地」 家族はもちろん周囲の人々から大事にされていた病弱な主婦が、転地して健康を取り戻したら・・・。
「揺り籃」 古い屋敷での小説同好会を舞台にしたゴシックホラー。
「標本」 タイム・カプセルをネタにして気の利いたユーモアで笑わせてくれる。
色々な土地、様々な国籍・階級・思想の人物が出てきて、味わいもそれぞれに異なる作品を集めてあるせいか、どれもみんな楽しめた。
世界ベスト・ミステリー50選―名作短編で編む推理小説50年史〈上〉 (光文社文庫)
編者:エレノア・サリヴァン
出版社:光文社
ISBN:4334760864
by timeturner
| 2013-02-28 21:57
| 和書
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