2013年 02月 24日
湿地 |
例年にない長雨が続く十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。突発的に殺害し、そのまま逃走したらしく、ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人に見えたが、死体の上に残された三つの単語からなるメッセージが、この事件が単純なものでないことを示唆していた・・・。
アイスランドと聞いて思い出すのはビョーク、映画「春にして君を想う」、それに水素燃料電池くらいなものですが、これを読むと住みたくない土地かもという気になります。なにしろお天気が悪い。まあ、「例年にない」と書かれているので、ふだんはこれほど毎日雨が降るわけではないでしょうが、あとがきを読むと天気の移り変わりが激しく、日照時間はとてつもなく短いらしいので、やはり太陽燦々に慣れている日本人には暮らしにくい場所でしょう。
そんなどんよりじっとりした暗鬱な気候が人の性格にも影響を与えるのか、この物語に出てくる人は誰にも影があって暗い。そりゃあ人間なんて誰でも多少の秘密は持っているし、どんなに明るく見える人にも人には言えない暗部もあるものですが、ここに出てくる人たちは最初から薄墨色に染まって生れてきたんじゃないかという雰囲気なんですよね。
数々の賞をとっているだけあって、余分なものをそぎおとした文章、映画の場面転換のようにテンポのよい展開、キャラクターの厚みのつけ方(あるいはつけなさ)のバランス。巧い作家だなあと思う。シェイクスピアの悲劇みたい。
あとがきによると作者は映画評論をしていたそうですが、このまま映画のシナリオにもなりそうな書きっぷりだと思いました。でも、上にも書いたように、すべてがあまりにもどんよりじっとりしているので、読んでるあいだに体にカビがはえてきたんじゃないかという気がしてくる。
細かいところではメンター的なキャラとして出てくるマリオン・ブリームの存在が妙に中途半端なのが気になりました。入れないほうがよかったんじゃないかな。それにしても固有名詞が覚えにくいことといったら! 初めのうちは男女の区別もつかなかった・・・。
湿地 (Reykjavik Thriller)
原題:Mylin
作者:アーナルデュル・インドリダソン
訳者:柳沢由実子
出版社:東京創元社
ISBN:4488013430
アイスランドと聞いて思い出すのはビョーク、映画「春にして君を想う」、それに水素燃料電池くらいなものですが、これを読むと住みたくない土地かもという気になります。なにしろお天気が悪い。まあ、「例年にない」と書かれているので、ふだんはこれほど毎日雨が降るわけではないでしょうが、あとがきを読むと天気の移り変わりが激しく、日照時間はとてつもなく短いらしいので、やはり太陽燦々に慣れている日本人には暮らしにくい場所でしょう。
そんなどんよりじっとりした暗鬱な気候が人の性格にも影響を与えるのか、この物語に出てくる人は誰にも影があって暗い。そりゃあ人間なんて誰でも多少の秘密は持っているし、どんなに明るく見える人にも人には言えない暗部もあるものですが、ここに出てくる人たちは最初から薄墨色に染まって生れてきたんじゃないかという雰囲気なんですよね。
数々の賞をとっているだけあって、余分なものをそぎおとした文章、映画の場面転換のようにテンポのよい展開、キャラクターの厚みのつけ方(あるいはつけなさ)のバランス。巧い作家だなあと思う。シェイクスピアの悲劇みたい。
あとがきによると作者は映画評論をしていたそうですが、このまま映画のシナリオにもなりそうな書きっぷりだと思いました。でも、上にも書いたように、すべてがあまりにもどんよりじっとりしているので、読んでるあいだに体にカビがはえてきたんじゃないかという気がしてくる。
細かいところではメンター的なキャラとして出てくるマリオン・ブリームの存在が妙に中途半端なのが気になりました。入れないほうがよかったんじゃないかな。それにしても固有名詞が覚えにくいことといったら! 初めのうちは男女の区別もつかなかった・・・。
湿地 (Reykjavik Thriller)
原題:Mylin
作者:アーナルデュル・インドリダソン
訳者:柳沢由実子
出版社:東京創元社
ISBN:4488013430
by timeturner
| 2013-02-24 18:21
| 和書
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