2013年 02月 23日
Orani: My Father's Village |
地中海に浮かぶイタリアのサルデーニャ島。父親が生れたこの島を毎年のように訪れていた作者が、子ども時代に目にした素晴らしい暮らしをいきいきと描く・・・。
作者は1947年にニューヨークで生れたイタリア系アメリカ人です。オラーニは実在の村で、おそらくここに描かれていることはすべて作者が実際に体験したことでしょう。1950年代のサルデーニャ島はこんなふうにのどかで、(経済的にではなく精神的に)豊かで温かい土地だったようです。濃すぎるほどの人と人の絆もしっかり残っていて、大都会ニューヨークから行った子どもには不思議な天国のように思えたことでしょうね。
いたばし国際絵本翻訳大賞というコンテストの課題図書です。生れた国や育ち方は違っても作者と同世代なので共感できる部分が多く、読むのはとても楽しかったけれど、訳すのはとてもむずかしかった。
まず、だれがだれに語りかけているのか迷う。使われている言葉や文体は大人向けの本とそれほど変わらず、子ども時代の素晴らしい思い出を大人相手に語っているような雰囲気があります。でも、一方で、家にとじこもってゲームで遊ぶ現代の子どもたちに、こんなにすてきな遊び方もあるのよ、と教えているようにも思える。あるいは子どもから子どもへの手紙みたいに読ませたいのかもしれない。
そんなふうに迷ってなかなか文体が決まりませんでした。最終的には女の子が小学校の教室でクラスメイトたちの前に立ち、夏休みの話を発表している情景を思い浮かべながら訳しました。原文で難しい言葉が使われているところは無理にやさしく訳そうとはしなかった。きっとそばで先生が補足してくれるだろうと期待して。
アマゾンでは対象年齢4 - 8歳とありますが、日本人はそれでは無理。4 - 8歳ではまだ外国の習慣、歴史などがわかりませんから。日本人の子どもがひとりで読むとしたら小学校3年生が下限かなと考え、ルビなしで使う漢字は文科省の「学年別漢字配当表」の小学校1年生から3年生までの範囲にし、それ以上の漢字をどうしても使いたいときはルビつきにしました。もちろん、小学校3年生以下の子どもが読んでもいいのですが、その場合は大人が読み聞かせるでしょうから、漢字があっても問題はありません。ただ、大人でも書かれている内容を全部理解でき、説明できるかは疑問。キリスト教関連の言葉や現地特有の事物はわからないかもしれない。まあそれはそれで、へえ、外国ではそうなのね、でかまわないのだと思う。
サルデーニャ島ならではのパン焼きが出てきたり、街中を走る競馬レースがあったりと、調べ物も多かった。山羊の瞳が横に細長いことも、ロバの耳がどんなふうになっているかも、ピグミーゴートなんて種類の小さな山羊の品種があることも初めて知りました。コルクはコルクガシの皮をはいで作るということも。いくらネットで調べてもどうしてもわからなかったことが、もう一度絵をよく見たらちゃんとわかるように描いてあったなんてこともあり、絵を読み解く大切さも覚えました。
最後のほうには灰島かりさんの『絵本翻訳教室へようこそ』を参考にして、書いた文章を絵本に貼りつけ、声に出して読みました。かなり恥ずかしいけど、これはとても役に立ちます。読み聞かせる人の立場に立てますからね。訳が悪いとスムーズにリズムにのって気持ちよく読めないことが身にしみてわかりました。
ただ読んでいるだけだと見過ごしてしまう様々なことに気づかせてくれたこの経験はとても貴重でしたし、この本はいつまでも私の大切な一冊です。
Orani: My Father's Village
邦題:世界のまんなかの島 わたしのオラーニ
作者:Claire A. Nivola
出版社:Farrar Straus & Giroux
ISBN:0374356572
作者は1947年にニューヨークで生れたイタリア系アメリカ人です。オラーニは実在の村で、おそらくここに描かれていることはすべて作者が実際に体験したことでしょう。1950年代のサルデーニャ島はこんなふうにのどかで、(経済的にではなく精神的に)豊かで温かい土地だったようです。濃すぎるほどの人と人の絆もしっかり残っていて、大都会ニューヨークから行った子どもには不思議な天国のように思えたことでしょうね。
いたばし国際絵本翻訳大賞というコンテストの課題図書です。生れた国や育ち方は違っても作者と同世代なので共感できる部分が多く、読むのはとても楽しかったけれど、訳すのはとてもむずかしかった。
まず、だれがだれに語りかけているのか迷う。使われている言葉や文体は大人向けの本とそれほど変わらず、子ども時代の素晴らしい思い出を大人相手に語っているような雰囲気があります。でも、一方で、家にとじこもってゲームで遊ぶ現代の子どもたちに、こんなにすてきな遊び方もあるのよ、と教えているようにも思える。あるいは子どもから子どもへの手紙みたいに読ませたいのかもしれない。
そんなふうに迷ってなかなか文体が決まりませんでした。最終的には女の子が小学校の教室でクラスメイトたちの前に立ち、夏休みの話を発表している情景を思い浮かべながら訳しました。原文で難しい言葉が使われているところは無理にやさしく訳そうとはしなかった。きっとそばで先生が補足してくれるだろうと期待して。
アマゾンでは対象年齢4 - 8歳とありますが、日本人はそれでは無理。4 - 8歳ではまだ外国の習慣、歴史などがわかりませんから。日本人の子どもがひとりで読むとしたら小学校3年生が下限かなと考え、ルビなしで使う漢字は文科省の「学年別漢字配当表」の小学校1年生から3年生までの範囲にし、それ以上の漢字をどうしても使いたいときはルビつきにしました。もちろん、小学校3年生以下の子どもが読んでもいいのですが、その場合は大人が読み聞かせるでしょうから、漢字があっても問題はありません。ただ、大人でも書かれている内容を全部理解でき、説明できるかは疑問。キリスト教関連の言葉や現地特有の事物はわからないかもしれない。まあそれはそれで、へえ、外国ではそうなのね、でかまわないのだと思う。
サルデーニャ島ならではのパン焼きが出てきたり、街中を走る競馬レースがあったりと、調べ物も多かった。山羊の瞳が横に細長いことも、ロバの耳がどんなふうになっているかも、ピグミーゴートなんて種類の小さな山羊の品種があることも初めて知りました。コルクはコルクガシの皮をはいで作るということも。いくらネットで調べてもどうしてもわからなかったことが、もう一度絵をよく見たらちゃんとわかるように描いてあったなんてこともあり、絵を読み解く大切さも覚えました。
最後のほうには灰島かりさんの『絵本翻訳教室へようこそ』を参考にして、書いた文章を絵本に貼りつけ、声に出して読みました。かなり恥ずかしいけど、これはとても役に立ちます。読み聞かせる人の立場に立てますからね。訳が悪いとスムーズにリズムにのって気持ちよく読めないことが身にしみてわかりました。
ただ読んでいるだけだと見過ごしてしまう様々なことに気づかせてくれたこの経験はとても貴重でしたし、この本はいつまでも私の大切な一冊です。
Orani: My Father's Village
邦題:世界のまんなかの島 わたしのオラーニ
作者:Claire A. Nivola
出版社:Farrar Straus & Giroux
ISBN:0374356572
by timeturner
| 2013-02-23 18:49
| 洋書
|
Comments(0)