2012年 10月 17日
冬の灯台が語るとき |
スウェーデンの人里離れたエーランド島。双子の灯台を望むウナギ岬の屋敷に引っ越してきたヨアキムと妻カトリン、娘リディア、息子のガブリエルは、少しずつ新しい生活になじもうとしていた。だが間もなく、一家に思ってもみなかった不幸が訪れる・・・。
はじめのうちは北欧物かあ、暗そうだなあとあまり気が進まなかったのですが(翻訳クラスの読書課題だった)、読み始めたらぐいぐい引きこまれてしまいました。これまでに読んだことのないような独特の作風です。情景描写や心理描写がとてもきめ細やかで、ミステリーだというのに先を急ぐことなくじっくりと描かれる。事件の謎に関係していることもあれば、まったく関係ないこともあり、ふだんミステリーを読んでいてそれをやられるとテンポが悪くなっていらいらするものですが、この作品の場合はまったく気にならなかった。むしろ、そういう部分を味わうように楽しんで読めた。淡々とした語り口も魅力的。
冬のエーランド島は気温が零下20度にもなる、日本人の私たちには想像もつかないほど厳しい自然にさらされた場所ですが、その自然そのものが作者がいちばん描きたかったことなのかもしれない。それと、そんな土地に何代にもわたって生き、死んだ人たちのこと。
そう、この本にはいささかのオカルト風味もあって、死者達がたくさん出てきます。泥炭湿地に沈められた古代ローマ時代の生贄やウナギ岬の納屋に刻まれた死者たちの名前、そしてクリスマスに帰ってきた死者たちが集まる礼拝堂。事件そのものはまったく幽霊とは関係なく、合理的な説明で解決されますが、その謎ときに寄り添うように幽霊との交流も当たり前のように描かれていて、それがちっとも変ではないし、無理やり感もない。
妻に死なれた男、不倫相手の男に捨てられた女、悪い仲間から抜け出せない若者、盲目の母親と暮らす逃げ道のない娘・・・いろいろな時代、いろいろな理由でうじうじしている人間ばかり出てくるし、舞台は暗くて寒くてうら寂しい北の果ての島だしで、およそ気のふさぐ要素ばかりなんですが、なんかどこかすこーんと抜けたところがあって、読んでいても陰気にならないのが不思議だったなあ。
探偵役をはたす老人ホームで暮らす元船乗りの老人イェルロフ・ダービッドソンは、作者のデビュー作『黄昏に眠る秋』でもエーランド島を舞台に活躍しているそうなので、そちらも読むつもりです。
唯一の不満は『ブラックアウト』と同じ新書版の体裁だということ。あれほどではないにしても、こちらも450ページ強の厚さなのでかなり読みにくかった。そもそもこの新書シリーズにはどういう意味があるのだろうか。
冬の灯台が語るとき
原題:Nattfak(スウェーデン語なのでaの上に小さな丸がついている)
作者:ヨハン・テオリン
訳者:三角和代
出版社:早川書房
ISBN:4150018561
はじめのうちは北欧物かあ、暗そうだなあとあまり気が進まなかったのですが(翻訳クラスの読書課題だった)、読み始めたらぐいぐい引きこまれてしまいました。これまでに読んだことのないような独特の作風です。情景描写や心理描写がとてもきめ細やかで、ミステリーだというのに先を急ぐことなくじっくりと描かれる。事件の謎に関係していることもあれば、まったく関係ないこともあり、ふだんミステリーを読んでいてそれをやられるとテンポが悪くなっていらいらするものですが、この作品の場合はまったく気にならなかった。むしろ、そういう部分を味わうように楽しんで読めた。淡々とした語り口も魅力的。
冬のエーランド島は気温が零下20度にもなる、日本人の私たちには想像もつかないほど厳しい自然にさらされた場所ですが、その自然そのものが作者がいちばん描きたかったことなのかもしれない。それと、そんな土地に何代にもわたって生き、死んだ人たちのこと。
そう、この本にはいささかのオカルト風味もあって、死者達がたくさん出てきます。泥炭湿地に沈められた古代ローマ時代の生贄やウナギ岬の納屋に刻まれた死者たちの名前、そしてクリスマスに帰ってきた死者たちが集まる礼拝堂。事件そのものはまったく幽霊とは関係なく、合理的な説明で解決されますが、その謎ときに寄り添うように幽霊との交流も当たり前のように描かれていて、それがちっとも変ではないし、無理やり感もない。
妻に死なれた男、不倫相手の男に捨てられた女、悪い仲間から抜け出せない若者、盲目の母親と暮らす逃げ道のない娘・・・いろいろな時代、いろいろな理由でうじうじしている人間ばかり出てくるし、舞台は暗くて寒くてうら寂しい北の果ての島だしで、およそ気のふさぐ要素ばかりなんですが、なんかどこかすこーんと抜けたところがあって、読んでいても陰気にならないのが不思議だったなあ。
探偵役をはたす老人ホームで暮らす元船乗りの老人イェルロフ・ダービッドソンは、作者のデビュー作『黄昏に眠る秋』でもエーランド島を舞台に活躍しているそうなので、そちらも読むつもりです。
唯一の不満は『ブラックアウト』と同じ新書版の体裁だということ。あれほどではないにしても、こちらも450ページ強の厚さなのでかなり読みにくかった。そもそもこの新書シリーズにはどういう意味があるのだろうか。
冬の灯台が語るとき
原題:Nattfak(スウェーデン語なのでaの上に小さな丸がついている)
作者:ヨハン・テオリン
訳者:三角和代
出版社:早川書房
ISBN:4150018561
by timeturner
| 2012-10-17 19:50
| 和書
|
Comments(0)