2012年 09月 25日
聖女の遺骨求む |
12世紀のイングランド。シュロップシャにあるシュルーズベリ大修道院では威信を高めるために聖遺物を手に入れたいと願っていたが、修道士のひとりがウェールズの寒村にある聖女の泉で霊感を得たことから、この聖女の遺骨を修道院に迎え入れようということになる。野心的な副院長ロバートほか5名の修道士がウェールズに向かったが、その中に通訳として参加していたのは元十字軍兵士の変り種カドフェルだった・・・。
「修道士カドフェル」シリーズ第一弾。前に図書館レファレンスで面白い歴史小説を紹介してもらったときにこのシリーズも挙げられていたのですが、おっさん修道士が主人公というのがどうにも地味そうで手を出していませんでした。でも、『チューダー王朝弁護士シャードレイク』の舞台がほとんど修道院内部だったこともあり、大丈夫かもしれないという自信がつきました。
大丈夫どころじゃなくて、とーっても楽しめました。『チューダー王朝弁護士シャードレイク』より読みやすい。主人公のカドフェルがシャードレークと違ってもう「おりた」人だからなんでしょうね。十字軍遠征で広い世界を目にして、戦争も経験し、女もそこそこに知って、もういいやと男としての人生をおりて修道院に入ったから、未練も思い残すこともなく、客観的に他人を見ることができる。一方のシャードレークのほうはクロムウェルにとりたてられてようやく日の目を見だしたばかりで地位は不安定だし、体の障害のせいで満足な女性関係ももったことがなく、悩み多き日々を送っている男だから、そこここに自らの煩悩を露呈させてしまう。
どっちが読者の精神的負担が少ないかと考えたら圧倒的にカドフェルでしょう。シャードレークには自分と同じような人間的弱さを持っているから共感できるという面もあるので、どちらがすぐれているかという問題ではないのですが。
もうひとつ大きな違いは時代設定。ヘンリー八世治世下で宗教改革が行われた16世紀とは違い、12世紀はまだまだ「暗黒の中世」と呼ばれる時期です。ルネサンス的な人間の理性をもとにした物の考え方もないから、奇跡やお告げといったことを素直に信じてしまう。この話などはまさにそういう部分を基盤にしてなりたっているわけです。考えてみると、ここでロバートたちが必死になってウェールズから運んできたような聖遺物が、16世紀になると目の仇にされて燃やされたりするんですからおかしなものです。
登場人物の肉付けも巧みだし、正義を貫いて裁くことに重点を置かない結末のもっていき方も気に入りました。本格的な推理小説が好きな人にはそのあたりが不満かもしれませんね。推理小説というよりは歴史小説に近いのかも。なんにせよ私は気に行ったので、シリーズの他の作品も少しずつ読んでいこうと思います。
聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1)
原題:A Morbid Taste for Bones
作者:エリス・ピーターズ
訳者:大出 健
出版社:光文社
ISBN:4334761259
「修道士カドフェル」シリーズ第一弾。前に図書館レファレンスで面白い歴史小説を紹介してもらったときにこのシリーズも挙げられていたのですが、おっさん修道士が主人公というのがどうにも地味そうで手を出していませんでした。でも、『チューダー王朝弁護士シャードレイク』の舞台がほとんど修道院内部だったこともあり、大丈夫かもしれないという自信がつきました。
大丈夫どころじゃなくて、とーっても楽しめました。『チューダー王朝弁護士シャードレイク』より読みやすい。主人公のカドフェルがシャードレークと違ってもう「おりた」人だからなんでしょうね。十字軍遠征で広い世界を目にして、戦争も経験し、女もそこそこに知って、もういいやと男としての人生をおりて修道院に入ったから、未練も思い残すこともなく、客観的に他人を見ることができる。一方のシャードレークのほうはクロムウェルにとりたてられてようやく日の目を見だしたばかりで地位は不安定だし、体の障害のせいで満足な女性関係ももったことがなく、悩み多き日々を送っている男だから、そこここに自らの煩悩を露呈させてしまう。
どっちが読者の精神的負担が少ないかと考えたら圧倒的にカドフェルでしょう。シャードレークには自分と同じような人間的弱さを持っているから共感できるという面もあるので、どちらがすぐれているかという問題ではないのですが。
もうひとつ大きな違いは時代設定。ヘンリー八世治世下で宗教改革が行われた16世紀とは違い、12世紀はまだまだ「暗黒の中世」と呼ばれる時期です。ルネサンス的な人間の理性をもとにした物の考え方もないから、奇跡やお告げといったことを素直に信じてしまう。この話などはまさにそういう部分を基盤にしてなりたっているわけです。考えてみると、ここでロバートたちが必死になってウェールズから運んできたような聖遺物が、16世紀になると目の仇にされて燃やされたりするんですからおかしなものです。
登場人物の肉付けも巧みだし、正義を貫いて裁くことに重点を置かない結末のもっていき方も気に入りました。本格的な推理小説が好きな人にはそのあたりが不満かもしれませんね。推理小説というよりは歴史小説に近いのかも。なんにせよ私は気に行ったので、シリーズの他の作品も少しずつ読んでいこうと思います。
聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1)
原題:A Morbid Taste for Bones
作者:エリス・ピーターズ
訳者:大出 健
出版社:光文社
ISBN:4334761259
by timeturner
| 2012-09-25 20:11
| 和書
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