2012年 09月 21日
風をつむぐ少年 |

死んだ少女の顔をした「風で動く人形」をアメリカ大陸の四隅に立ててほしい、と遺族から求められたブレントは、バックパックを背負い、ひとりでグレイハウンドに乗って旅に出ます。いわゆる贖罪の旅ですが、心配はしてくれるけれどブレントの心の奥までは理解できない両親や、もう戻ることができない学校・級友から逃れて、ブレントのことを知らない人たちの中にまぎれることができる、自由を求める旅でもあります。
でも、どこに行っても罪の意識からは逃れられない。
この暗黒部分を抱えたまま、未知のものとの出会いや人とのふれあいに若者らしい歓びも感じてしまう。慣れない道具を使って「風で動く人形」を作るうちに忍耐心を身につけ、ゲーム機もTVもコンピューターもない暮らしの中で鳥や植物の名前を覚え、星の動きを知り、自分で音を奏でるようになる。お洒落な服を着てかっこいい車に乗り、流行の曲を覚えて女の子にもてることだけが夢だった頃とはなんという違い。
章ごとにブレント視点で書かれた旅の軌跡と、彼が残した「風で動く人形」と関わることになった人々のエピソードとが交互に描かれる構成はちょっとミステリーっぽくて、ブレント視点だけだと近視眼的になりそうなところに広がりをつけています。
多少うまくいきすぎると思える部分もありますが、もともと寓話的な語り口なので気になりません。悲劇を強調して泣かせようとはせず、落ち着いて淡々と語るところも好感がもてる。ポール・フライシュマン、いいなあ。
風をつむぐ少年
原題:Whirligig
作者:ポール・フライシュマン
訳者:片岡しのぶ
出版社:あすなろ書房
ISBN:4751518089
by timeturner
| 2012-09-21 21:02
| 和書
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