2012年 09月 01日
火刑法廷 |
ニューヨークの出版社で働くスティーヴンズは金曜日の夕方、フィラデルフィア郊外にある別荘に向かっていた。列車の中で担当作家の最新原稿を読み始めた彼は、添えられていた写真の女性――1861年にギロチンにかけられた殺人者――が妻のマリーに瓜二つであることに驚愕する。別荘に着いてみると近くにあるパークと呼ばれる広大な土地に住むデスパード家の住人マークが訪れ、驚くべき話を持ちかけた。2週間前に急死した叔父が毒殺された疑いがあるので内密に遺体を調べたいというのだ。だが、密閉された地下の霊廟を開けると、遺体は跡形もなく消え失せていた・・・。
舞台となっているのは1929年のフィラデルフィア郊外ですが、パークという呼び名からも感じされるようにヴィクトリア朝のイギリスのような雰囲気があります。さらに、1861年にパリでギロチンにかけられた毒殺魔の女性の話がからんでくるので、アメリカを舞台にした本格推理というよりはイギリスのゴシックホラーのよう。
スティーブンズの妻への疑惑にデスパード家の殺人事件がからまり、当事者たちの話し合いだけでは解決できないでいるとことにニューヨーク警察の警部ブレナンが新事実を携えて加わり、それで解決するのかと思うとさらに謎は深まり、スティーブンズの妻への疑惑が殺人事件と結びつくかのように見えたところにくだんの作家クロスが登場して複雑にからみあった糸をほぐすように説明してみせ一件落着したかと思えたときに・・・。
というふうに何度も話がひっくり返されながら最後には論理的な解決が待っているところが本格推理なんでしょうか。でも、クロスの説にはいかがわしいところが感じられて、素人でも思いつく穴がいくつかあるのです。これは最後の短い章を読めば理由がわかるのですが、でも、それ以前にプロであるブレナンがクロスの説になんの疑問も覚えず丸ごと信じてしまうというところが嘘くさいなあ。
水が入った壷に詰め込まれた死体が2週間たったら、誰でもおかしいと気付くような臭いがするんじゃないかとか、そもそも死にかけていたマイルズ伯父をなぜ危険をおかしてまで大量の砒素で一気に殺さなくてはならなかったのかとか。ほんの少しずつ与えたって1年もしないうちに殺せたんじゃないの? マークに緊急にお金が必要な事情なんてなかったんだもの。
作者はゴシック小説を本格推理の形で書きたかったんだろうか。でも、どちらにもなっていなくてごまかされたような読後感を覚えてしまうのはなぜ? ゴシック部分にも、表面的な事件の展開にも魅力が感じられないのがつらい。まあでも、もやもやしたものが残るせいで、読み終わったあとまで頭の隅に残っているのは確かで、こういうのもそう呼べるのなら余韻のある作品と言えるかもしれない。でも、だからといって名作と呼べるかどうか・・・。
訳が少し読みにくかったことも、ストーリーに入り込めなかった一因かな。事件の真相にかかわる部分で微妙に意味がとれない箇所がいくつもあって、読んでいてやたらひっかかる。前後の文章と辻褄が合わないので「どういうことだろう?」と考えてしまい、思考の流れがさえぎられる。各キャラクターの個性というか人間性が感じられない。
火刑法廷[新訳版]
原題:The Burning Court
作者:ジョン・ディクスン・カー
訳者:加賀山卓朗
出版社:早川書房
ISBN:4150703701
舞台となっているのは1929年のフィラデルフィア郊外ですが、パークという呼び名からも感じされるようにヴィクトリア朝のイギリスのような雰囲気があります。さらに、1861年にパリでギロチンにかけられた毒殺魔の女性の話がからんでくるので、アメリカを舞台にした本格推理というよりはイギリスのゴシックホラーのよう。
スティーブンズの妻への疑惑にデスパード家の殺人事件がからまり、当事者たちの話し合いだけでは解決できないでいるとことにニューヨーク警察の警部ブレナンが新事実を携えて加わり、それで解決するのかと思うとさらに謎は深まり、スティーブンズの妻への疑惑が殺人事件と結びつくかのように見えたところにくだんの作家クロスが登場して複雑にからみあった糸をほぐすように説明してみせ一件落着したかと思えたときに・・・。
というふうに何度も話がひっくり返されながら最後には論理的な解決が待っているところが本格推理なんでしょうか。でも、クロスの説にはいかがわしいところが感じられて、素人でも思いつく穴がいくつかあるのです。これは最後の短い章を読めば理由がわかるのですが、でも、それ以前にプロであるブレナンがクロスの説になんの疑問も覚えず丸ごと信じてしまうというところが嘘くさいなあ。
水が入った壷に詰め込まれた死体が2週間たったら、誰でもおかしいと気付くような臭いがするんじゃないかとか、そもそも死にかけていたマイルズ伯父をなぜ危険をおかしてまで大量の砒素で一気に殺さなくてはならなかったのかとか。ほんの少しずつ与えたって1年もしないうちに殺せたんじゃないの? マークに緊急にお金が必要な事情なんてなかったんだもの。
作者はゴシック小説を本格推理の形で書きたかったんだろうか。でも、どちらにもなっていなくてごまかされたような読後感を覚えてしまうのはなぜ? ゴシック部分にも、表面的な事件の展開にも魅力が感じられないのがつらい。まあでも、もやもやしたものが残るせいで、読み終わったあとまで頭の隅に残っているのは確かで、こういうのもそう呼べるのなら余韻のある作品と言えるかもしれない。でも、だからといって名作と呼べるかどうか・・・。
訳が少し読みにくかったことも、ストーリーに入り込めなかった一因かな。事件の真相にかかわる部分で微妙に意味がとれない箇所がいくつもあって、読んでいてやたらひっかかる。前後の文章と辻褄が合わないので「どういうことだろう?」と考えてしまい、思考の流れがさえぎられる。各キャラクターの個性というか人間性が感じられない。
火刑法廷[新訳版]
原題:The Burning Court
作者:ジョン・ディクスン・カー
訳者:加賀山卓朗
出版社:早川書房
ISBN:4150703701
by timeturner
| 2012-09-01 20:53
| 和書
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