2012年 08月 11日
f植物園の巣穴 |
植物園で働く園丁の「私」は、歯が痛くなって初めての歯医者を訪れた。見るからにさびれた、患者の姿のないその医院では薬局で犬が働いていたが、それは前世が犬であった歯医者の妻であるという。そのことをきっかけに園丁は過去と現在が入り混じる異界へと迷いこんでしまう・・・。
主人公の語り口調や髷を結った妻など、登場人物たちの様子から『家守綺譚』を思い浮かべ、わくわくしながら読み始めたのですが、途中でどうやらこれは似て似なる小説であったようだと気づきました。不気味なユーモアがそこかしこに見られるのは同じですが、全体に湿っぽい。
まあ、話の舞台が植物園の中にある植生途中の水生植物園なのだから、湿っぽくて当然と言えば当然なのですが。次から次へと妙なことばかり起こり、そのうちに語り手も驚くことをやめ、なにもかもあるがままに受け入れるようになると、読んでいるこちらも話の行く先などどうでもいい、ただひたすらこの妙な世界を漂っていたいという気になってきます。このあたりは『家守綺譚』に近い。
でもまあ、連作短編集だったあちらと違って、こちらは長編なのでそれなりの結末が必要となるわけで、最終的には無意識のうちに過去に埋めてきた悲しみと後悔を自覚し、再生するところでめでたしめでたしとなります。私的にはこれがなんとも不満なんですけどね。まあ、ほっとすることは確かですが、なんかカウンセリング小説みたいじゃない?
それにしても作者の植物、昆虫に関する知識の深さには感嘆してしまいました。しかもそうした知識が、ただひけらかされるのではなく、きちんと話の大事な要素となっているのですから。アイルランドの神話や妖精話が出てきたあたりは、イギリスに留学して児童文学を学んでいた頃の成果でしょうか。クー・フーリンなんていう名前が出てきて、おー!とか思ってしまったよ。
ちなみにタイトルにあるfは物語の背景になっている町の名前の頭文字だそうで。小文字であるところといい、書体といい、不思議な雰囲気のある文字ですね。
f植物園の巣穴
作者:梨木香歩
出版社:朝日新聞出版
ISBN:4022646675
主人公の語り口調や髷を結った妻など、登場人物たちの様子から『家守綺譚』を思い浮かべ、わくわくしながら読み始めたのですが、途中でどうやらこれは似て似なる小説であったようだと気づきました。不気味なユーモアがそこかしこに見られるのは同じですが、全体に湿っぽい。
まあ、話の舞台が植物園の中にある植生途中の水生植物園なのだから、湿っぽくて当然と言えば当然なのですが。次から次へと妙なことばかり起こり、そのうちに語り手も驚くことをやめ、なにもかもあるがままに受け入れるようになると、読んでいるこちらも話の行く先などどうでもいい、ただひたすらこの妙な世界を漂っていたいという気になってきます。このあたりは『家守綺譚』に近い。
でもまあ、連作短編集だったあちらと違って、こちらは長編なのでそれなりの結末が必要となるわけで、最終的には無意識のうちに過去に埋めてきた悲しみと後悔を自覚し、再生するところでめでたしめでたしとなります。私的にはこれがなんとも不満なんですけどね。まあ、ほっとすることは確かですが、なんかカウンセリング小説みたいじゃない?
それにしても作者の植物、昆虫に関する知識の深さには感嘆してしまいました。しかもそうした知識が、ただひけらかされるのではなく、きちんと話の大事な要素となっているのですから。アイルランドの神話や妖精話が出てきたあたりは、イギリスに留学して児童文学を学んでいた頃の成果でしょうか。クー・フーリンなんていう名前が出てきて、おー!とか思ってしまったよ。
ちなみにタイトルにあるfは物語の背景になっている町の名前の頭文字だそうで。小文字であるところといい、書体といい、不思議な雰囲気のある文字ですね。
f植物園の巣穴
作者:梨木香歩
出版社:朝日新聞出版
ISBN:4022646675
by timeturner
| 2012-08-11 20:18
| 和書
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