銀のスケート ハンス・ブリンカーの物語 |
これも『本へのとびら―岩波少年文庫を語る』で宮崎 駿が薦める岩波少年文庫50冊の中に挙げられていた本です。
オランダ系アメリカ人である著者が、オランダのことを夢中になって調べているうちに子供にお話で聞かせるようになり、それをまとめて本にしたものだそうで、なるほど話の筋とはあまり関係ないところで歴史や風土、人々の暮らし方など、オランダに関するあらゆる知識が詰め込まれています。子どもたちはこれを読んでいるうちに自然にオランダ通になってしまうという仕掛け。400ページ以上もある長い作品なのですが、訳者あとがきによると実際にはもっと長いものだったのを、本筋に関係ない部分は削ったのだとか。恐るべし、オランダ好きの執念。
実際、メインになるブリンカー家の人たちが大変な目に遭っているときに、村の少年たちがスケートで運河を滑ってアムステルダムからハーレム、ライデン、そしてハーグへとスケート旅行をしていくあたりでは、とてもじゃないけど少年たちと一緒に物見遊山をしている気になれず、その部分は飛ばして先を読んでしまい、最後まで読んで安心してから飛ばしたところをゆっくり読みました。まあでも、これで正解だったかも。ブリンカー家を気にせず各地の話をゆったり楽しめましたから。少年たちの中にイギリスからやってきた少年ベンがいることで、わざとらしくなく(でも、ちょっとわざとらしい)有名な堤防を守った少年の話やチューリップ熱の話なども出てきます。
貧乏で苦労する話だけでなく泥棒退治、宝探し、銀時計の謎、スケート大会など、子供たちが大好きなわくわくするような要素が盛りだくさんなのも素晴らしい。特にスケート大会の臨場感あふれる語り口はびっくりするほどいきいきしていました。作者はスケート大好きなのかも。
それにしても、19世紀のオランダではこんなふうに上下貴賎の区別なく誰もかれもがスケートをしていたのでしょうか。それに氷船なんてものがあったんですね。現実にあった風景を書いてあるのにまるでお伽の国みたいに感じられます。
銀のスケート―ハンス・ブリンカーの物語
原題:Hans Brinker
作者:メアリー・メイプス・ドッジ
訳者:石井桃子
出版社:岩波書店
ISBN:4001120054