2012年 04月 15日
ロスト・シティ・レディオ |
長く激しい内戦が終ったばかりの南米の架空の国。内戦の記録を国民に忘れさせるため、地名はすべて意味をもたない数字で置き換えられていた。政府はいまだに反乱軍の残党を探し、街は警戒下にあった。捕まったものは「月」に送られる。そんな中、行方不明者を探すラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」の女性パーソナリティーのもとを、ひとりの少年が訪ねてきた。ジャングルにある1797村の人々が託した行方不明者リストには、彼女の夫の名前もあった・・・。
モデルになったのはどの国だろう、なんて考えるのは無意味。だってどこでだって起こり得る話なんだから。昔からの村や町の名前のかわりに番号をふってしまうというアイディアなんて、漢字が覚えづらいとか書けないとかいう理由で日本でもありそうじゃないですか。すでに前歴もあるし。あ、でも、作者がこの小説を書くときに机の前に貼ってあったというこの街の地図はペルーの首都リマの地図を書き換えたものだったそうです。ここでその実物を見られます。
何人かの主要登場人物それぞれの視点がアットランダムと思える唐突さで切り替わるので、最初のうちは混乱します。視点に合わせて場所や時間もかわるので、少し読み進めないといつの話なのかもわからない。おまけにひとつ視点の話の間でも時間が飛んだりする。
そのことと、暴力と荒廃に満ちた世界の惨めさとに打ちのめされて、最初のうちはなかなか前に進めませんでした。登場人物たちがどいつもこいつも理性ではなく感情で動く人間ばかりで、読んでいて思わず「なにやってんのよ?!」と言いたくなるような非合理的なふるまいをするので、やたら腹が立つというのもありまして。
3分の1くらいまで読んだあたりからかなあ、それが変ってきたのは。慣れたからかもしれないし、荒廃した都市や呪術的なものが残る熱帯のジャングルにある村を描き出す巧みな、でもどこか冷めた作者の表現力に魅せられたからかもしれない。理に合わない人ばかり出てくるのも、人間というのは実際そういうものなんだから仕方がないよね。
いろいろな視点から語られることでわからなかったことが少しずつ見えてはくるんだけど、いわゆるミステリー仕立てというのとも少し違う。こちらは別に謎だと思っていなかったし、ましてや知りたいとも思っていなかったことがどんどん白日のもとに晒されていくのを無理やり目撃させられたという感じでしょうか。でも、その合間にチラチラと見える何かが心をとらえて離さないんだなあ。
ジャングルの村に住むインディオたちの忘れられつつある言語には「あなた」を含む「私たち」と含まない「私たち」があった、という話が出てきました。話の筋には関係ないようにみえて、なぜか心のどこかにひっかかるそうしたエピソードや異様に心に残るイメージがたくさんあって、そうしたものがどんどん蓄積されていく。そういう読み方でもいい作品なのかもしれない。
ロスト・シティ・レディオ
原題:Lost City Radio
作者:ダニエル アラルコン
訳者:藤井 光
出版社:新潮社
ISBN:4105900935
モデルになったのはどの国だろう、なんて考えるのは無意味。だってどこでだって起こり得る話なんだから。昔からの村や町の名前のかわりに番号をふってしまうというアイディアなんて、漢字が覚えづらいとか書けないとかいう理由で日本でもありそうじゃないですか。すでに前歴もあるし。あ、でも、作者がこの小説を書くときに机の前に貼ってあったというこの街の地図はペルーの首都リマの地図を書き換えたものだったそうです。ここでその実物を見られます。
何人かの主要登場人物それぞれの視点がアットランダムと思える唐突さで切り替わるので、最初のうちは混乱します。視点に合わせて場所や時間もかわるので、少し読み進めないといつの話なのかもわからない。おまけにひとつ視点の話の間でも時間が飛んだりする。
そのことと、暴力と荒廃に満ちた世界の惨めさとに打ちのめされて、最初のうちはなかなか前に進めませんでした。登場人物たちがどいつもこいつも理性ではなく感情で動く人間ばかりで、読んでいて思わず「なにやってんのよ?!」と言いたくなるような非合理的なふるまいをするので、やたら腹が立つというのもありまして。
3分の1くらいまで読んだあたりからかなあ、それが変ってきたのは。慣れたからかもしれないし、荒廃した都市や呪術的なものが残る熱帯のジャングルにある村を描き出す巧みな、でもどこか冷めた作者の表現力に魅せられたからかもしれない。理に合わない人ばかり出てくるのも、人間というのは実際そういうものなんだから仕方がないよね。
いろいろな視点から語られることでわからなかったことが少しずつ見えてはくるんだけど、いわゆるミステリー仕立てというのとも少し違う。こちらは別に謎だと思っていなかったし、ましてや知りたいとも思っていなかったことがどんどん白日のもとに晒されていくのを無理やり目撃させられたという感じでしょうか。でも、その合間にチラチラと見える何かが心をとらえて離さないんだなあ。
ジャングルの村に住むインディオたちの忘れられつつある言語には「あなた」を含む「私たち」と含まない「私たち」があった、という話が出てきました。話の筋には関係ないようにみえて、なぜか心のどこかにひっかかるそうしたエピソードや異様に心に残るイメージがたくさんあって、そうしたものがどんどん蓄積されていく。そういう読み方でもいい作品なのかもしれない。
ロスト・シティ・レディオ
原題:Lost City Radio
作者:ダニエル アラルコン
訳者:藤井 光
出版社:新潮社
ISBN:4105900935
by timeturner
| 2012-04-15 16:35
| 和書
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