2012年 03月 30日
ニワトリが道にとびだしたら |
1羽のニワトリが道にとびだし、それに驚いた牛たちが走り出して古い橋に殺到して壊し、ちょうど下を通りかかっていた汽車の屋根に落ちてしまいます。この混乱に乗じて、刑務所に連れていかれる途中だった泥棒の「やけくそダン」が逃亡し・・・といったふうにどこまでも続いていきます。いわゆる「風が吹くと桶屋が儲かる」式の因果話なんですが、これがもうとてつもなく面白い。
作者のデビッド・マコーレイは『キャッスル―古城の秘められた歴史をさぐる』の人で、ここではあんな緻密な絵ではなく、もっと奔放で色彩も豊かな、いかにも絵本向けの絵を描いていますが、凝り性というのか、どこまでも徹底的にやる性格はそのまま。最初のニワトリがとびだす場面からして普通の絵本とは違います。完全にニワトリの視点で描かれているので牛の群れは下半身しか見えません。今にも壊れようとしている橋も、橋げたに巣をかけた青い鳥に目がいくようになっている。このニワトリ視点は最初と最後のページだけですが、そういうふうに適材適所にいろんなタッチ、いろんな工夫が凝らしてあるところもマコーレイさんらしい。
最初はストーリーの流れに気をとられて見逃すのですが、二度目に読むと絵の中にさまざまな遊びやほのめかしが隠れていて、親子で読んでいたら話が弾むだろうなあと思えます。ひとりで見ていても楽しくて楽しくて顔がにまにましてしまいました。だって、すごいスピードで走っている消防車の屋根になぜか白黒ぶちの犬が乗ってるんですが、その体の黒いブチがよく見ると風で飛ばされていたり、製氷会社の冷蔵庫が停電で止まって氷が溶け町が水びたしになると、ぷかぷか浮いている車の間に大きな魚の尾鰭が見えたりするんです。
次々に起こる出来事のたびに登場人物の名前がフルネームで紹介されるのが不思議だったのですが、それも最後のほうでオチになっています。ほんとによく考えてある。全体を通しては泥棒と警官たちの追跡劇が基調になっていますが、あえて説明はなしで絵の隅のヒントだけで見せているのもお楽しみ。因果がぐるっとまわって最後にまた同じ場所に戻ってくるんですが、それがメビウスの帯のように時空がひょいとねじれてるのがもうね。
ほとんどは地の文と絵だけで進むのですが、ところどころに吹き出しがあって、ここにも面白いことが書かれていますが、これはいわゆるダジャレみたいなものが多かったのか、ちょっと訳しきれていない感も。たまたま泥棒をつかまえることになって英雄になった青年が、祝賀会のレストランで月桂樹の冠をかぶり、「ぼくはチキンね」と注文しているのは、タイトルのChicken(ニワトリ)とchicken(臆病者)をかけているんでしょうが、これは日本人の子供には伝わりません。月桂樹といえば、水びたしの町を流れる車の屋根に葉っぱをくわえた白い鳥がとまっていましたが、あれはおそらくノアの箱舟と鳩と月桂樹の話からきてるんですね。
それにしてもメル・トゥームって誰だ?
ニワトリが道にとびだしたら (大型絵本)
原題:Why The Chicken Crossed The Road
作者:デビッド・マコーレイ
訳者:小野耕世
出版社:岩波書店
ISBN:4001106051
作者のデビッド・マコーレイは『キャッスル―古城の秘められた歴史をさぐる』の人で、ここではあんな緻密な絵ではなく、もっと奔放で色彩も豊かな、いかにも絵本向けの絵を描いていますが、凝り性というのか、どこまでも徹底的にやる性格はそのまま。最初のニワトリがとびだす場面からして普通の絵本とは違います。完全にニワトリの視点で描かれているので牛の群れは下半身しか見えません。今にも壊れようとしている橋も、橋げたに巣をかけた青い鳥に目がいくようになっている。このニワトリ視点は最初と最後のページだけですが、そういうふうに適材適所にいろんなタッチ、いろんな工夫が凝らしてあるところもマコーレイさんらしい。
最初はストーリーの流れに気をとられて見逃すのですが、二度目に読むと絵の中にさまざまな遊びやほのめかしが隠れていて、親子で読んでいたら話が弾むだろうなあと思えます。ひとりで見ていても楽しくて楽しくて顔がにまにましてしまいました。だって、すごいスピードで走っている消防車の屋根になぜか白黒ぶちの犬が乗ってるんですが、その体の黒いブチがよく見ると風で飛ばされていたり、製氷会社の冷蔵庫が停電で止まって氷が溶け町が水びたしになると、ぷかぷか浮いている車の間に大きな魚の尾鰭が見えたりするんです。
次々に起こる出来事のたびに登場人物の名前がフルネームで紹介されるのが不思議だったのですが、それも最後のほうでオチになっています。ほんとによく考えてある。全体を通しては泥棒と警官たちの追跡劇が基調になっていますが、あえて説明はなしで絵の隅のヒントだけで見せているのもお楽しみ。因果がぐるっとまわって最後にまた同じ場所に戻ってくるんですが、それがメビウスの帯のように時空がひょいとねじれてるのがもうね。
ほとんどは地の文と絵だけで進むのですが、ところどころに吹き出しがあって、ここにも面白いことが書かれていますが、これはいわゆるダジャレみたいなものが多かったのか、ちょっと訳しきれていない感も。たまたま泥棒をつかまえることになって英雄になった青年が、祝賀会のレストランで月桂樹の冠をかぶり、「ぼくはチキンね」と注文しているのは、タイトルのChicken(ニワトリ)とchicken(臆病者)をかけているんでしょうが、これは日本人の子供には伝わりません。月桂樹といえば、水びたしの町を流れる車の屋根に葉っぱをくわえた白い鳥がとまっていましたが、あれはおそらくノアの箱舟と鳩と月桂樹の話からきてるんですね。
それにしてもメル・トゥームって誰だ?
ニワトリが道にとびだしたら (大型絵本)
原題:Why The Chicken Crossed The Road
作者:デビッド・マコーレイ
訳者:小野耕世
出版社:岩波書店
ISBN:4001106051
by timeturner
| 2012-03-30 15:45
| 和書
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