2012年 02月 20日
黄色い雨 |
スペインの小さな山村アイニェーリェ村は村人たちが次々と離村していき、住民の数がどんどん減っていった。やがてたった一家族の老夫婦だけが残り、妻は寂しさに耐え切れずに自殺してしまう。残された老人は忠実な雌犬と朽ち始めた家で暮らしながら、死人のような村をさまよい歩く・・・。
柴田元幸さんが絶賛していたので読んでみたのですが、悲しく美しく恐ろしい小説でした。
冒頭からしばらくの間は、「~だろう」という未来系がずっと続くし、視点ははっきりしないし、ひとつのパラグラフが異様に長い(1ページ以上にわたるものも)しでわけがわからず呆然としてしまうのですが、一章の最後の行まできて「ああ、そうなのか」とすとんと納得し、それ以降は老人と一緒にアイニェーリェ村を心ゆくまでさまようことができました。
それにしてもなんと暗く悲しい内容か。ここにあるのはラテン気質のスペインではなく、異端審問のスペインですね。人々が村を去っていった理由については触れられていませんが、おそらく日本の地方でも起きている過疎化と同じものなんでしょう。一度出ていった人間は息子ですら戻ってこない、完全に見捨てられた村です。
誰もいない村でたったひとり、孤独と死を身近に感じながら思い出を反芻するだけの日々。これ以上の不幸はないという状況ですが、考えてみると都会のアパートでたったひとりTVだけを相手に暮らすひとり暮らしの老人たちも同じようなものなのでは? それとも、家を出ていきさえすれば賑やかな通りや大勢の人間が動いているのを見ることができるというだけで救われるものなのかな。
死そのものは恐ろしくはない。この老人にとってはむしろ救いとも言える。本当に恐ろしいのは絶対的な孤独の中で自分の思い出のすべてが刻まれている場所が崩れ落ち、消え去っていくのを見ていることですよね。同じような風景や心象が少しずつ形を変えては語り直されるたびに、その恐ろしさがひしひしと伝わってきます。
作者はその文学者としての歩みを詩人から始めたそうですが、確かに言葉の選び方、つなげ方、リズムなど詩のような文体です。パラグラフのひとつずつが完成した詩のようにきりっとまとまっています。上にも書いたように同じことが繰り返し書かれているのですが、普通の小説だったらくどく感じたり稚拙に感じたりするものが、この小説の場合はリフレインとなって力強く生きてきます。
訳もとてもいいんですが惜しむらくは誤植が多いこと。特に「てにをは」の誤記が校正されずに残っているのがとても気になりました。詩のように美しい文章の流れがそこで止まってしまい、とても苛立たしい気持ちになります。
黄色い雨
原題:La lluvia amarilla
作者:フリオ・リャマサーレス
訳者:木村榮一
出版社:ソニーマガジンズ
ISBN:478972512X
柴田元幸さんが絶賛していたので読んでみたのですが、悲しく美しく恐ろしい小説でした。
冒頭からしばらくの間は、「~だろう」という未来系がずっと続くし、視点ははっきりしないし、ひとつのパラグラフが異様に長い(1ページ以上にわたるものも)しでわけがわからず呆然としてしまうのですが、一章の最後の行まできて「ああ、そうなのか」とすとんと納得し、それ以降は老人と一緒にアイニェーリェ村を心ゆくまでさまようことができました。
それにしてもなんと暗く悲しい内容か。ここにあるのはラテン気質のスペインではなく、異端審問のスペインですね。人々が村を去っていった理由については触れられていませんが、おそらく日本の地方でも起きている過疎化と同じものなんでしょう。一度出ていった人間は息子ですら戻ってこない、完全に見捨てられた村です。
誰もいない村でたったひとり、孤独と死を身近に感じながら思い出を反芻するだけの日々。これ以上の不幸はないという状況ですが、考えてみると都会のアパートでたったひとりTVだけを相手に暮らすひとり暮らしの老人たちも同じようなものなのでは? それとも、家を出ていきさえすれば賑やかな通りや大勢の人間が動いているのを見ることができるというだけで救われるものなのかな。
死そのものは恐ろしくはない。この老人にとってはむしろ救いとも言える。本当に恐ろしいのは絶対的な孤独の中で自分の思い出のすべてが刻まれている場所が崩れ落ち、消え去っていくのを見ていることですよね。同じような風景や心象が少しずつ形を変えては語り直されるたびに、その恐ろしさがひしひしと伝わってきます。
作者はその文学者としての歩みを詩人から始めたそうですが、確かに言葉の選び方、つなげ方、リズムなど詩のような文体です。パラグラフのひとつずつが完成した詩のようにきりっとまとまっています。上にも書いたように同じことが繰り返し書かれているのですが、普通の小説だったらくどく感じたり稚拙に感じたりするものが、この小説の場合はリフレインとなって力強く生きてきます。
訳もとてもいいんですが惜しむらくは誤植が多いこと。特に「てにをは」の誤記が校正されずに残っているのがとても気になりました。詩のように美しい文章の流れがそこで止まってしまい、とても苛立たしい気持ちになります。
黄色い雨
原題:La lluvia amarilla
作者:フリオ・リャマサーレス
訳者:木村榮一
出版社:ソニーマガジンズ
ISBN:478972512X
by timeturner
| 2012-02-20 18:25
| 和書
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