2012年 01月 19日
ナボコフの一ダース |
『ロリータ』の原型と言われる自伝的短編「初恋」、同姓同名の男にまちがわれ、借りたこともない本の返済を迫られたり、見知らぬ人々のパーティに招待されたりする男の「一族団欒の図、1945年」、家族から見世物にされる怪物双生児の話など13の短編。
『ロリータ』の印象が強くて(でも実は読んでいない)、これまで読む気が起きなかった作家なのですが、今年の課題のひとつ(実はこの短篇集に収録されている)になったのでまずはこれを読んでみました。
生理的に受けつけないんじゃないかと不安だったんですが、先入観はいけませんね。ぜんぜん平気じゃん。むしろ気に入ったかも。いくつかは読んでいる間に漠然とした不快感を抱いたりもしましたが、いずれも後味は悪くありませんでした。短編だからかな?
訳者はあとがきでナボコフは難解なのでこの本の訳は「今のところこれより仕方がない」程度の翻訳であると言い切っていますが、なるほど課題を訳しながら参照していて完全に誤訳している箇所をみつけました。ナボコフが難解だとかいう以前の単純な読み違いで、ふつうに読んでいて意味が通じないので校正時に気づいてもよさそうなところですが。ちなみにタイトルはbaker's dozenのモジリだそうです。
話の内容が20世紀初頭のことなのに人称代名詞が「ぼく」なのはちょっと違和感を感じましたが、西崎先生によると原文を読んで自分が感じた年齢より10歳下に設定して訳すと現代の読者にはなじみやすいそうなので、これでいいのかな。
原題:Navokov's Dozen
作者:ウラジミール・ナボコフ
訳者:中西秀男
出版社:ちくま文庫
ISBN:4480025197
『ロリータ』の印象が強くて(でも実は読んでいない)、これまで読む気が起きなかった作家なのですが、今年の課題のひとつ(実はこの短篇集に収録されている)になったのでまずはこれを読んでみました。
生理的に受けつけないんじゃないかと不安だったんですが、先入観はいけませんね。ぜんぜん平気じゃん。むしろ気に入ったかも。いくつかは読んでいる間に漠然とした不快感を抱いたりもしましたが、いずれも後味は悪くありませんでした。短編だからかな?
フィアルタの春8暗喩(メタファー)がやたらと多くて、普通だったらうっとおしいと感じるほどなのですが、どれひとつとってもはっとするほど新鮮でしっくりくるので素直に納得してしまいます。有名な「初恋」の国際列車の章は特に素晴らしい。ナボコフは列車が好きだったようでこれに限らずいくつかの短編で列車での旅を描いていて、そのどれもスピード感や乗っているときのわくわくする気持、窓外の風景などが映画のように頭の中にイメージ化します。
忘れられた詩人
初恋
合図と象徴
アシスタント・プロデューサー
夢に生きる人々
城、雲、湖
一族団欒の図、一九四五年
「いつかアレッポで……」
時間と引き潮
ある怪物双生児の数場面
マドモアゼルO
ランス
車室のドアがあいているから通路の窓が見えている。その窓の外で電線が――黒々と細い電線が六本、斜めに上がったり高く空に昇ったり、電柱がやってくるたびピシャリとやられながら、たえず天に昇ろうとしていた。勢いよく調子づいて窓の上端にさわりそうになると、とくに手きびしくピシャリとやられてどん底に沈み、また初めからやり直すことになる。それにしてもこの人の記憶力はすごいですね。遠い過去の記憶が鮮明なビジュアルとしてきちんと脳の片隅にしまいこまれていて、いつでも自在に取り出して再生できるみたいです。健忘症の私にはすごくうらやましい。年をとって体も頭も働かなくなったときに、ぼんやりと過去の記憶をエンドレス映画のように見続けているなんて、最高の暇つぶしじゃないですか? もっともナボコフが書いているうちの半分くらいは記憶ではなく創造なんでしょうが。
木星のまわりをめぐる衛星のように、たったひとつの街灯のまわりを蒼白い蛾が何匹も飛んでいる。ベンチの上で破れた新聞紙がかさかさ動いた。どこか列車の中でもぞもぞ人の声がした。だれかの咳ばらいが聞こえた。目の前のプラットホームにはこれというものは何もない。それでも目が逸せなくて見つめていると、やがてプラットホームはひとりでに動き出して行ってしまう。
訳者はあとがきでナボコフは難解なのでこの本の訳は「今のところこれより仕方がない」程度の翻訳であると言い切っていますが、なるほど課題を訳しながら参照していて完全に誤訳している箇所をみつけました。ナボコフが難解だとかいう以前の単純な読み違いで、ふつうに読んでいて意味が通じないので校正時に気づいてもよさそうなところですが。ちなみにタイトルはbaker's dozenのモジリだそうです。
話の内容が20世紀初頭のことなのに人称代名詞が「ぼく」なのはちょっと違和感を感じましたが、西崎先生によると原文を読んで自分が感じた年齢より10歳下に設定して訳すと現代の読者にはなじみやすいそうなので、これでいいのかな。
原題:Navokov's Dozen
作者:ウラジミール・ナボコフ
訳者:中西秀男
出版社:ちくま文庫
ISBN:4480025197
by timeturner
| 2012-01-19 20:27
| 和書
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