2011年 10月 19日
ゴースト・ストーリー傑作選-英米女性作家8短編- |
19世紀半ばから20世紀にかけて隆盛をふるったゴースト・ストーリーの中から女性作家のものをイギリスから4編、アメリカから4編収録したアンソロジー。
傑作選と銘打っているだけあって、いずれもよく考えられたありきたりではない怪奇小説になっています。なのでひとつずつ感想を書いてみた。惜しむらくは翻訳がいささか英文和訳的でそっけないところ。凝りすぎだと文句を言ったかと思うと凝り方が足りないと不平をもらす・・・読者とは本当に身勝手なものですね。
美しい姉妹の愛の確執から生れた悲劇を描く「老いた子守り女の話」は『メアリー・バートン』や『Cranford』で有名なエリザベス・ギャスケルの作ですが、さすがに長編作家だけあってアイディアだけに頼らないきっちりとした構成をもった話です。子どものからめ方がうまくて怖い。
「冷たい抱擁」はこの本の中ではいちばんヴィクトリアン・ゴースト・ストーリーのイメージに近い。最近読んだ『東方綺譚』や『緑の瞳・月影』の雰囲気がある。女の純情を裏切ると怖いよ、って内容です。
「ヴォクスホール通りの古家」はゴースト・ストーリーにしては珍しく明るい(?)雰囲気の、前向きな話で、どちらかというと探偵小説に近いと思うんですが、わけのわからない訳のせいでわけのわからない謎になってしまっているのが残念。
「祈り」は死んだ夫を愛の力で甦らせてしまった妻の話。もう少し面白くできたんじゃないかと思うけれど、訳のせいかもしれない。これをもとにしてちょっとした中編が書けそうな内容です。
「藤の大樹」は最初のほうで登場人物が「英国に戻ったら・・・」と言うので、え、それじゃ今はどこ?と一瞬戸惑ったのですが、よく考えたらここからアメリカ編に入っていたのでした。お化け屋敷のような邸を手に入れた若夫婦とその友人たちの話ですが、登場人物たちが若々しく現代風なのがいかにもアメリカ風。話そのものはわりあい凡庸かな。
「手紙」のケイト・ショパンは池袋の翻訳講座でこの秋からとりかかる作品の片方の作者。それでこれを借りたわけですが、これはゴースト・ストーリーというよりは心理劇でした。亡くなった妻の望みどおりに遺した手紙を読まずに処分した夫が、読まなかった内容に苦しめられる話。いかにもありそうで、そこが怖いのかも。
「ルエラ・ミラー」は美しいルエラ・ミラーの魅力にとりつかれた男や女が、彼女のために身も心も捧げつくして死んでいくという話で、これは映画にしたら面白いかも。いくらでも中身をふくらませられそうです。こういう魔性の女の話はどのジャンルでも永遠のテーマですね。
「呼び鈴」は田舎の寂しい邸で病弱な若夫人に使えるようになった小間使いが遭遇する幽霊の話。けっこう引き込まれる話ではあるのだけれど、いまいち結末がすっきりわからなくて苛立ちます。作者が悪いのか翻訳のせいなのか。
ゴースト・ストーリー傑作選――英米女性作家8短篇
作者:エリザベス・ギャスケルほか
編訳:川本静子・佐藤宏子
出版社:みすず書房
ISBN:462207463X
【イギリス】
老いた子守り女の話 エリザベス・ギャスケル
冷たい抱擁 メアリー・エリザベス・ブラッドン
ヴォクスホール通りの古家 シャーロット・リデル
祈り ヴァイオレット・ハント
【アメリカ】
藤の大樹 シャーロット・パーキンズ・ギルマン
手紙 ケイト・ショパン
ルエラ・ミラー メアリ・ウィルキンズ・フリーマン
呼び鈴 イーディス・ウォートン
傑作選と銘打っているだけあって、いずれもよく考えられたありきたりではない怪奇小説になっています。なのでひとつずつ感想を書いてみた。惜しむらくは翻訳がいささか英文和訳的でそっけないところ。凝りすぎだと文句を言ったかと思うと凝り方が足りないと不平をもらす・・・読者とは本当に身勝手なものですね。
美しい姉妹の愛の確執から生れた悲劇を描く「老いた子守り女の話」は『メアリー・バートン』や『Cranford』で有名なエリザベス・ギャスケルの作ですが、さすがに長編作家だけあってアイディアだけに頼らないきっちりとした構成をもった話です。子どものからめ方がうまくて怖い。
「冷たい抱擁」はこの本の中ではいちばんヴィクトリアン・ゴースト・ストーリーのイメージに近い。最近読んだ『東方綺譚』や『緑の瞳・月影』の雰囲気がある。女の純情を裏切ると怖いよ、って内容です。
「ヴォクスホール通りの古家」はゴースト・ストーリーにしては珍しく明るい(?)雰囲気の、前向きな話で、どちらかというと探偵小説に近いと思うんですが、わけのわからない訳のせいでわけのわからない謎になってしまっているのが残念。
「祈り」は死んだ夫を愛の力で甦らせてしまった妻の話。もう少し面白くできたんじゃないかと思うけれど、訳のせいかもしれない。これをもとにしてちょっとした中編が書けそうな内容です。
「藤の大樹」は最初のほうで登場人物が「英国に戻ったら・・・」と言うので、え、それじゃ今はどこ?と一瞬戸惑ったのですが、よく考えたらここからアメリカ編に入っていたのでした。お化け屋敷のような邸を手に入れた若夫婦とその友人たちの話ですが、登場人物たちが若々しく現代風なのがいかにもアメリカ風。話そのものはわりあい凡庸かな。
「手紙」のケイト・ショパンは池袋の翻訳講座でこの秋からとりかかる作品の片方の作者。それでこれを借りたわけですが、これはゴースト・ストーリーというよりは心理劇でした。亡くなった妻の望みどおりに遺した手紙を読まずに処分した夫が、読まなかった内容に苦しめられる話。いかにもありそうで、そこが怖いのかも。
「ルエラ・ミラー」は美しいルエラ・ミラーの魅力にとりつかれた男や女が、彼女のために身も心も捧げつくして死んでいくという話で、これは映画にしたら面白いかも。いくらでも中身をふくらませられそうです。こういう魔性の女の話はどのジャンルでも永遠のテーマですね。
「呼び鈴」は田舎の寂しい邸で病弱な若夫人に使えるようになった小間使いが遭遇する幽霊の話。けっこう引き込まれる話ではあるのだけれど、いまいち結末がすっきりわからなくて苛立ちます。作者が悪いのか翻訳のせいなのか。
ゴースト・ストーリー傑作選――英米女性作家8短篇
作者:エリザベス・ギャスケルほか
編訳:川本静子・佐藤宏子
出版社:みすず書房
ISBN:462207463X
by timeturner
| 2011-10-19 20:59
| 和書
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