2011年 05月 27日
博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 |
「世界最大・最高の英語辞典」と言われ抜群の評価を保持し続けるOED(オックスフォード英語大辞典)。その作成に生涯を捧げた編集主幹のジェームズ・マレー博士と、編纂作業に多大なる貢献をした狂気の篤志協力者W・C・マイナー博士。共通点を多くもちながらも天と地ほども違う人生を送った二人の天才学者の足跡を示す・・・。
翻訳の先生から最初に「英英辞典がいちばん」と言われたのに、ついめんどくさがってよほどでないと参照しない私ですが、これを読むと先生が何を言いたかったのかがよくわかります。そうなんですよねえ。きちんと用例が、しかも豊富に挙げられているから、意味の細かいニュアンスまでちゃんと感じとれる。ただし、例文の中にまた知らない単語があるとそれも引かなくちゃならなくてえらく時間がかかりますが。
それにしてもこんな奇想天外な話が実話だったとは! まさにTruth is stranger than fiction(Truth is always strange, Stranger than Fiction.[1823 Byron Don Juan xiv. ci.])です。
ネタバレではないと思うので書いてしまいますが、マイナー博士はアメリカ北部の名家に生れ、エール大学を卒業して外科医となり陸軍に入って軍医となった優秀な人間です。ところがある時点から妄想にとりつかれるようになり、それから逃れるために渡ったイギリスで見ず知らずの人間を銃殺し、狂気による犯行ということで無罪にはなったものの精神病院に収容されてしまいます。
ヴィクトリア朝の話ですから病院といっても精神病に対する治療はまったく行われず、日々妄想に苦しみながらも緻密な語彙カードを作り続けるマイナーの姿には同情を禁じえません。今だったらもっとラクにしてあげられたんだろうなあと思う一方、そうなっていたらOEDの完成ははるかに遅れ、ひょっとしたら完成しなかったかもしれないと思うと複雑な気持ちになります。
それにしても天才というのは本当に凄いものですね。最近はどうしても理科系の天才のことばかりとりあげられがちですが、語学の天才というのはちょっと私なんかの想像を超えたものがあります。マレー博士が30歳のときに大英博物館に送った自薦の手紙の中で「できる」と宣言している言語の数は25! しかも似た系統の言語だけでなくヘブライ語、アラビア語、ロシア語、さらにはアケメネス楔形文字(なにそれ?)なんてものまで含まれているのですから。そしてそれがすべて独学! 14歳で学校を出てから働きながら自分で勉強して身につけたというのですからもう驚くほかありません。英語だけで四苦八苦している私などは「ずるーい」とふてくされたくなります。
とても読みやすいノンフィクションですが、ちょっとだけ謎ときっぽい展開もあり、しかもそれが上手に使われているので「お、なかなかやるな」と小説のように読めました。おかげで一気読み。
原題:The Professor and the Madman: A Tale of Murder, Insanity, and the Making of the Oxford English Dictionary
作者:サイモン・ウィンチェスター
訳者:鈴木主税
出版社:早川書房
ISBN:4152082208
翻訳の先生から最初に「英英辞典がいちばん」と言われたのに、ついめんどくさがってよほどでないと参照しない私ですが、これを読むと先生が何を言いたかったのかがよくわかります。そうなんですよねえ。きちんと用例が、しかも豊富に挙げられているから、意味の細かいニュアンスまでちゃんと感じとれる。ただし、例文の中にまた知らない単語があるとそれも引かなくちゃならなくてえらく時間がかかりますが。
それにしてもこんな奇想天外な話が実話だったとは! まさにTruth is stranger than fiction(Truth is always strange, Stranger than Fiction.[1823 Byron Don Juan xiv. ci.])です。
ネタバレではないと思うので書いてしまいますが、マイナー博士はアメリカ北部の名家に生れ、エール大学を卒業して外科医となり陸軍に入って軍医となった優秀な人間です。ところがある時点から妄想にとりつかれるようになり、それから逃れるために渡ったイギリスで見ず知らずの人間を銃殺し、狂気による犯行ということで無罪にはなったものの精神病院に収容されてしまいます。
ヴィクトリア朝の話ですから病院といっても精神病に対する治療はまったく行われず、日々妄想に苦しみながらも緻密な語彙カードを作り続けるマイナーの姿には同情を禁じえません。今だったらもっとラクにしてあげられたんだろうなあと思う一方、そうなっていたらOEDの完成ははるかに遅れ、ひょっとしたら完成しなかったかもしれないと思うと複雑な気持ちになります。
それにしても天才というのは本当に凄いものですね。最近はどうしても理科系の天才のことばかりとりあげられがちですが、語学の天才というのはちょっと私なんかの想像を超えたものがあります。マレー博士が30歳のときに大英博物館に送った自薦の手紙の中で「できる」と宣言している言語の数は25! しかも似た系統の言語だけでなくヘブライ語、アラビア語、ロシア語、さらにはアケメネス楔形文字(なにそれ?)なんてものまで含まれているのですから。そしてそれがすべて独学! 14歳で学校を出てから働きながら自分で勉強して身につけたというのですからもう驚くほかありません。英語だけで四苦八苦している私などは「ずるーい」とふてくされたくなります。
とても読みやすいノンフィクションですが、ちょっとだけ謎ときっぽい展開もあり、しかもそれが上手に使われているので「お、なかなかやるな」と小説のように読めました。おかげで一気読み。
作者:サイモン・ウィンチェスター
訳者:鈴木主税
出版社:早川書房
ISBN:4152082208
by timeturner
| 2011-05-27 20:30
| 和書
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