2010年 08月 11日
栗本薫/中島梓 展@弥生美術館 |
昨年5月に亡くなった作家・栗本薫/中島梓さんの展覧会が家の近所の弥生美術館で開催されていたので片道20分歩いて行ってきました。
中島梓さんは評論家として鮮烈なデビューをしたあとすぐに小説『ぼくらの時代』で江戸川乱歩賞を受賞、「天才少女現る!」と騒がれた人です。当時すでにくたびれた編集者だった私は「才能のある人はいいなあ」と羨ましく眺めていたものでした。
最後には130巻にまで至る「グイン・サーガ」シリーズが始まった頃は、職業病だったのかフィクションが楽しめなくなってしまった時期だったため手を触れておらず、きょう展覧会を見るまでどういう設定なのかも知りませんでした。展示の初めのほうはほとんどこの「グイン・サーガ」シリーズに関連する物で、3人の歴代挿絵(表紙絵)画家の原画、創作ノート、出版された本などが並んでいるのですが、この創作ノートがすごい。2cm厚さの本のようなノートに登場人物の名前、場所の名前、ストーリーの断片などが書き留められているのですが、書き始める前からここまで完全に自分が創造する世界を把握していたのかと驚かされます。参考作品との照合を行い、どの方向に進むのがクレバーなのかを評論家らしい明晰さで取捨選択している様子も伺われて、幼い丸文字(私たちの世代以降はこれが主流になりました)との落差に驚かされます。
初めて知った登場人物たちの名前の中でヒロインの「リンダ」というのだけが異国風(現実世界には存在しない国という意味で)でないのが不思議だったのですが、この謎も展示を見ていくうちに解決しました。
「グイン・サーガ」シリーズだけでなく、SF、ミステリー、ホラー、時代物、さらには同性愛をテーマにした耽美小説まで、その作品数には圧倒されます。しかもこれだけではなくて、プロ並みにピアノを弾き作詞作曲もし、長唄、小唄、清元、津軽三味線は名取、歌舞伎やミュージカルの脚本を書き、それをプロデュースし、料理も好きで編物も得意と、ひとりの人間がどうしてこれほどまでに創造的であり得るのかとひたすら驚嘆。
高校時代から書いていたノートや出版のあてもなく書きまくったという小さな和綴じのノートに豆のような文字でびっしり書かれた作品群など、内側から湧き上がってくるものに突き動かされていた天才の姿がまざまざと目に浮かびます。展覧会のサブタイトル「書くことは 生きること」や展示の最後にあった遺された夫の言葉「表現することに呪縛された一生」に大納得です。書くスピードの驚異的な速さといい、なにか超自然的な、でも善意のモノが中島梓を通して人類に贈り物をしたかったかのようです。「呪縛」という言葉には不幸な響きがありますが、彼女の場合は自らが創造したもので他人も自分自身も幸せにすることができた稀有な例だったと思う。これほどの存在がこんなにも早く私たちから奪われてしまったことが残念でなりません。
平日の昼間でしたが私と同年代の男女や「グイン・サーガ」シリーズのファンと思われる若い男性など、それなりに人が入っていました。小さな展示室2つだけですが(最後の演奏を収録したライヴCDがBGMとして流れていました)、じっくり見て楽しめるものが多いのであっという間に1時間以上たってしまいます。
2階の廊下でつながっている竹久夢二美術館で開催中の「絵封筒」展も鑑賞。大正時代から昭和初期に流行したものだそうですが、大正浪漫というのか昭和モダンというのか、アール・デコ風の斬新なデザインが多く、これも楽しめます。右の写真は小林かいち絵の絵封筒。
敷地内にあるカフェ「港や」も行き過ぎない大正浪漫なインテリアでなかなかいい雰囲気でした。ウェイトレスが中原淳一風のワンピースを着ているのにはちょっと引きましたが。
中島梓さんは評論家として鮮烈なデビューをしたあとすぐに小説『ぼくらの時代』で江戸川乱歩賞を受賞、「天才少女現る!」と騒がれた人です。当時すでにくたびれた編集者だった私は「才能のある人はいいなあ」と羨ましく眺めていたものでした。
最後には130巻にまで至る「グイン・サーガ」シリーズが始まった頃は、職業病だったのかフィクションが楽しめなくなってしまった時期だったため手を触れておらず、きょう展覧会を見るまでどういう設定なのかも知りませんでした。展示の初めのほうはほとんどこの「グイン・サーガ」シリーズに関連する物で、3人の歴代挿絵(表紙絵)画家の原画、創作ノート、出版された本などが並んでいるのですが、この創作ノートがすごい。2cm厚さの本のようなノートに登場人物の名前、場所の名前、ストーリーの断片などが書き留められているのですが、書き始める前からここまで完全に自分が創造する世界を把握していたのかと驚かされます。参考作品との照合を行い、どの方向に進むのがクレバーなのかを評論家らしい明晰さで取捨選択している様子も伺われて、幼い丸文字(私たちの世代以降はこれが主流になりました)との落差に驚かされます。
初めて知った登場人物たちの名前の中でヒロインの「リンダ」というのだけが異国風(現実世界には存在しない国という意味で)でないのが不思議だったのですが、この謎も展示を見ていくうちに解決しました。
「グイン・サーガ」シリーズだけでなく、SF、ミステリー、ホラー、時代物、さらには同性愛をテーマにした耽美小説まで、その作品数には圧倒されます。しかもこれだけではなくて、プロ並みにピアノを弾き作詞作曲もし、長唄、小唄、清元、津軽三味線は名取、歌舞伎やミュージカルの脚本を書き、それをプロデュースし、料理も好きで編物も得意と、ひとりの人間がどうしてこれほどまでに創造的であり得るのかとひたすら驚嘆。
高校時代から書いていたノートや出版のあてもなく書きまくったという小さな和綴じのノートに豆のような文字でびっしり書かれた作品群など、内側から湧き上がってくるものに突き動かされていた天才の姿がまざまざと目に浮かびます。展覧会のサブタイトル「書くことは 生きること」や展示の最後にあった遺された夫の言葉「表現することに呪縛された一生」に大納得です。書くスピードの驚異的な速さといい、なにか超自然的な、でも善意のモノが中島梓を通して人類に贈り物をしたかったかのようです。「呪縛」という言葉には不幸な響きがありますが、彼女の場合は自らが創造したもので他人も自分自身も幸せにすることができた稀有な例だったと思う。これほどの存在がこんなにも早く私たちから奪われてしまったことが残念でなりません。
平日の昼間でしたが私と同年代の男女や「グイン・サーガ」シリーズのファンと思われる若い男性など、それなりに人が入っていました。小さな展示室2つだけですが(最後の演奏を収録したライヴCDがBGMとして流れていました)、じっくり見て楽しめるものが多いのであっという間に1時間以上たってしまいます。
2階の廊下でつながっている竹久夢二美術館で開催中の「絵封筒」展も鑑賞。大正時代から昭和初期に流行したものだそうですが、大正浪漫というのか昭和モダンというのか、アール・デコ風の斬新なデザインが多く、これも楽しめます。右の写真は小林かいち絵の絵封筒。
敷地内にあるカフェ「港や」も行き過ぎない大正浪漫なインテリアでなかなかいい雰囲気でした。ウェイトレスが中原淳一風のワンピースを着ているのにはちょっと引きましたが。
by timeturner
| 2010-08-11 19:37
| 美術
|
Comments(5)
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atsuko
at 2010-08-15 19:28
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高校でいっしょだったSF好き文学少女の友達が、夢中でよんでいたような・・。イラスト原画興味あります!私の好きなイラストレーターさんがイラスト描いているはずなのですが・・弥生美術館。根津時代に近かったのに、一度も行かないままです。今度言ってみようと思いました。いつもアクティブでアタマが下がります。私は本当に家にしかいないので・・
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timeturner at 2010-08-15 21:54
原画があったイラストレーターは加藤直之、天野喜孝、末弥純、丹野忍といった方々だったかと思いますが、atsukoさんが好きなのは末弥純さんかな。線が細くてきれい系でした。いい雰囲気の美術館なのでぜひお出かけください。休みの日だったら傘をお返しに(^^;)カフェまでうかがいますので声をかけてね。
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atsuko
at 2010-08-16 20:41
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残念でした。 実は 天野喜孝さんです。高校のときからのファンです。といっても画集を持っているわけではないのですが、結構アニメの雑誌に載っていたんで・・。
竹久夢二は、好きです。波乱の人生という個人的なものは横においておいて、イラスト、デザイン、画面構成が素敵で、岡山の美術館も行ったことあります。伊勢辰にある和紙のなかでも、竹久夢二デザインのものは気に入って、買ってしまいました。 一度美術館に行かなくては。迷わないかなーちょっと心配。行くときはご連絡します!!
竹久夢二は、好きです。波乱の人生という個人的なものは横においておいて、イラスト、デザイン、画面構成が素敵で、岡山の美術館も行ったことあります。伊勢辰にある和紙のなかでも、竹久夢二デザインのものは気に入って、買ってしまいました。 一度美術館に行かなくては。迷わないかなーちょっと心配。行くときはご連絡します!!
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Ken
at 2010-08-20 22:44
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グインは中学の時に読み始めて、最後まで読みました。
挿絵としては加藤さんの絵が一番好きだったなー。
atsukoさんと同じで、天野さんはアニメーターとして知って、勿論好きです。
会期中に行かなくては~。
挿絵としては加藤さんの絵が一番好きだったなー。
atsukoさんと同じで、天野さんはアニメーターとして知って、勿論好きです。
会期中に行かなくては~。
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timeturner at 2010-08-21 10:49
Kenさん
中学のときに読み始めたシリーズが、その後ずっと刊行され続けていたというのが驚異ですよね。大人になっても読み続けられるだけのクオリティがあったというのも。誰かが書き継げばいいのにとは思うけど、よほどの作家でないと難しいでしょうね。
中学のときに読み始めたシリーズが、その後ずっと刊行され続けていたというのが驚異ですよね。大人になっても読み続けられるだけのクオリティがあったというのも。誰かが書き継げばいいのにとは思うけど、よほどの作家でないと難しいでしょうね。