2024年 03月 23日
邪悪の家 |
引退したポアロはヘイスティングズとともに保養地のホテルで休暇を過ごしていたが、そこで若く美しい女性ニックと出会った。近くの丘の上に建つ古い館エンド・ハウスの所有者だという。彼女の帽子のつばに穴があるのを見つけたポアロは、最近三回も命の危険にさらされたというニックが何者かに狙われていると考え注意を促した。だが、エンド・ハウスで開催された花火を見るパーティでとうとう殺人が起きてしまい・・・。
あれとか、これとか、本筋とは無関係な犯罪をうまくからめてあるあたりも巧い。
犯人探しに集中せず、細かいところもしっかり読んでいくと、「あ、ここはクリスティーがふざけてるんだな」と思える個所にも気づけて楽しかった。
もし彼が宝石――神の目――を盗んでいたとしたら、などということまで考えてみたんだ。不信心を許さない聖職者たちが彼を追跡するだろう。いやはや、エルキュール・ポアロはこんなことを考えるほど落ちぶれてしまったんだ。これって、明らかにその手のミステリーをおちょくってるよね。
p.114でエンド・ハウスを訪ねたポアロとヘイスティングズの目に入ったのが、「龍の模様の目を見張るようなキモノ」を着て玄関ホールで踊っているニックだったという場面がある。
「まあ、あなたたちだったの!」
「マドモアゼル――なんという言い方を!」
「わかってます。無作法でしたね。ちょうどドレスが届くのを待っているところだったので。ちゃんと間に合うって――約束したのに! ひどいわ!」
ここ、「なんという言い方を!」じゃなくて「なんという格好を!」だと思う。仕立て屋がドレスを届けたらすぐに着るつもり(で、不具合があったらその場で直してもらう)だったから下着の上にキモノを羽織った状態で待ってたのよね。キモノ=ナイトガウンで、かなりエロティックなものだから、1932年当時のイギリスで、素人の女性が、日中、赤の他人の男性に見せていいものじゃない。だからポアロはショックを受けたんだけど、男性の訳者はそれがわからなかったんだな。
邪悪の家(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
原題:Peril at End House
作者:アガサ・クリスティー
訳者:真崎義博
出版社:早川書房
ISBN:978-4151310065
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by timeturner
| 2024-03-23 19:00
| 和書
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