2007年 08月 11日
陰翳礼讃 |
図書館でなんとなく手にとって読み始めたらやめられなくなり、そのまま隅の椅子に座って最後まで読んでしまいました。
高校か大学の頃に読んだことはあると思うのですが、まるで印象になくて、生まれて初めて読んだような新鮮な、感動、というのは違うな、共感かな。
書かれている一言ごとに「そうそう!」と感嘆詞付きでうなずきまくり。明治生まれの谷崎が嘆いている「いまどき」は大正時代から昭和の初めの話で、いくら私でも生まれてはいないわけですが、それでも言いたいことはすごくよくわかる。
日本人は昔から暗い家に住んで、その暗がりの中で美しく見えるものをいつくしんできたのだから、西洋人の好む隅から隅まで明るく白く清潔な状態には美を感じられない、という主張はいささか西洋人をステレオタイプにとらえすぎとは思いますが(主にアメリカ文明を想定しているんでしょうね)、自分でも意識していなかった日本人としての美意識が私にもしっかりあることに気づいてびっくり。漆や金箔の意匠は蝋燭の灯りしかない部屋の中で見てこそ美しいように作られていたという説には大いに納得してしまいました。赤い漆に金箔や螺鈿の派手な模様がついた重箱など、これまでは「趣味悪~い」と思っていましたが、言われてみればなるほどです。ヨーロッパの古い時代も同様ですよね。聖職者や貴族の絢爛豪華な衣装はやはり石造りの薄暗い教会や城の中で蝋燭の灯りに映えるように考えられていたんだと思う。
昔風の家のよさの中で最も継承しがたいけれど、最も素晴らしかったものとして厠(トイレ)が挙げられています。
私が子供の頃に住んでいた家(都内)にはこんな感じの厠がまだありました。子供の私は暗くて怖くて嫌いだったんですが、今思うと確かに閉所恐怖症になりそうなマンションの狭いトイレよりずっと気持ちいいかもしれません。
東洋に西洋とは別の、東洋の文明に合った科学が発達していたら、現代の機械も薬品も今とはまったく違ったものになっていたのではないか、というまるでSFのような空想も、実に説得力があって魅力的です。昔のままの木の家で、でもちゃんと夏は涼しく冬は暖かく、耐久性にもすぐれたものであれば、誰が好き好んでコンクリート作りのアルミサッシ窓なんかがついた家に住みたいと思うでしょう。
私は一度読んだ本を読み直すということがほとんどなくて、次から次へと新しい本に手を出すタイプだったんですが、そろそろ変えたほうがいいのかもしれないな。若い頃に読んだものは本当に読んだとは言えないような気がしてきました。私がいちばん本を読んでいたのは高校から大学にかけてなんですが、その当時の人生経験では理解できない内容がほとんどだったんじゃ・・・。
陰翳礼讃
作者:谷崎潤一郎
出版社:中公文庫
ISBN:4122002591
高校か大学の頃に読んだことはあると思うのですが、まるで印象になくて、生まれて初めて読んだような新鮮な、感動、というのは違うな、共感かな。
書かれている一言ごとに「そうそう!」と感嘆詞付きでうなずきまくり。明治生まれの谷崎が嘆いている「いまどき」は大正時代から昭和の初めの話で、いくら私でも生まれてはいないわけですが、それでも言いたいことはすごくよくわかる。
日本人は昔から暗い家に住んで、その暗がりの中で美しく見えるものをいつくしんできたのだから、西洋人の好む隅から隅まで明るく白く清潔な状態には美を感じられない、という主張はいささか西洋人をステレオタイプにとらえすぎとは思いますが(主にアメリカ文明を想定しているんでしょうね)、自分でも意識していなかった日本人としての美意識が私にもしっかりあることに気づいてびっくり。漆や金箔の意匠は蝋燭の灯りしかない部屋の中で見てこそ美しいように作られていたという説には大いに納得してしまいました。赤い漆に金箔や螺鈿の派手な模様がついた重箱など、これまでは「趣味悪~い」と思っていましたが、言われてみればなるほどです。ヨーロッパの古い時代も同様ですよね。聖職者や貴族の絢爛豪華な衣装はやはり石造りの薄暗い教会や城の中で蝋燭の灯りに映えるように考えられていたんだと思う。
昔風の家のよさの中で最も継承しがたいけれど、最も素晴らしかったものとして厠(トイレ)が挙げられています。
閑寂な壁と、清潔な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることの出来る日本の厠ほど、恰好な場所はあるまい。そうしてそれには、繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻りさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。私はそう云う厠にあって、しとしとと降る雨の音を聴くのを好む。殊に関東の厠には、床に細長い掃き出し窓がついているので、軒端や木の葉からしたたり落ちる点滴が、石燈籠の根を洗い飛び石の苔を湿おしつつ土に沁み入るしめやかな音を、ひとしお身に近く聴くことが出来る。
私が子供の頃に住んでいた家(都内)にはこんな感じの厠がまだありました。子供の私は暗くて怖くて嫌いだったんですが、今思うと確かに閉所恐怖症になりそうなマンションの狭いトイレよりずっと気持ちいいかもしれません。
東洋に西洋とは別の、東洋の文明に合った科学が発達していたら、現代の機械も薬品も今とはまったく違ったものになっていたのではないか、というまるでSFのような空想も、実に説得力があって魅力的です。昔のままの木の家で、でもちゃんと夏は涼しく冬は暖かく、耐久性にもすぐれたものであれば、誰が好き好んでコンクリート作りのアルミサッシ窓なんかがついた家に住みたいと思うでしょう。
私は一度読んだ本を読み直すということがほとんどなくて、次から次へと新しい本に手を出すタイプだったんですが、そろそろ変えたほうがいいのかもしれないな。若い頃に読んだものは本当に読んだとは言えないような気がしてきました。私がいちばん本を読んでいたのは高校から大学にかけてなんですが、その当時の人生経験では理解できない内容がほとんどだったんじゃ・・・。
陰翳礼讃
作者:谷崎潤一郎
出版社:中公文庫
ISBN:4122002591
by timeturner
| 2007-08-11 00:29
| 和書
|
Comments(0)