2018年 05月 24日
労働者階級の反乱 |
全世界を驚かせた2016年6月の英国国民投票でのEU離脱派の勝利。これはアメリカでトランプ大統領が生まれたのと同じ土壌から現れた、下層階級の人々による排外主義なのだろうか。配偶者を初め、まわりにはブレグジット派ばかりという環境にある著者が、イギリスの労働者階級について歴史と現状を解析する。
おかげでこちらは労せずしてイギリスの労働者階級の歴史と現状をひとわたり眺められるわけで、実にありがたい。世界で最初に産業革命を経験し、最初に労働運動が始まった国イギリスでは、労働者たちこそが民主主義を守ってきたという視点はとても新鮮で、かつ納得できた。アメリカのプアホワイトとの違いについても触れられていて、これも興味深い。
これを読んでいちばん感じたのは、私のイギリスに関する知識のほとんどは中上流階級の視点から見たものにすぎなかったのだなということ。イギリスの古い小説から得た知識だから当然と言えば当然なんだけど、これまではそんなこと考えてもみずに、自分ではイギリス人の物の考え方をある程度はわかったつもりでいた。大間違い。人口比率ではいちばん大きな部分を完全にすっとばしていたのよね。
第I部 地べたから見たブレグジットの「その後」
(1)ブレグジットとトランプ現象は本当に似ていたのか
(2)いま人々は、国民投票の結果を後悔しているのか
(3)労働者たちが離脱を選んだ動機と労働党の復活はつながっている
(4)排外主義を打破する政治
(5)ミクロレベルでの考察――離脱派家庭と残留派家庭はいま
第II部 労働者階級とはどんな人たちなのか
(1)40年後の『ハマータウンの野郎ども』
(2)「ニュー・マイノリティ」の背景と政治意識
第III部 英国労働者階級の100年――歴史の中に現在(いま)が見える
(1)叛逆のはじまり(1910年―1939年)
(2)1945年のスピリット(1939年―1951年)
(3)ワーキングクラス・ヒーローの時代(1951年―1969年)
(4)受難と解体の時代(1970年―1990年)
(5)ブロークン・ブリテンと大緊縮時代(1990年―2017年)
これ一冊を一度読んだだけでは、とてもこれまでの欠落がすぐに補えるはずもなく、今のところ頭の中がごちゃごちゃ。何度か読み返さないとなあ。
それにしても、日本では民主主義が国民の間から自発的に芽生えたことなんて一度もなかったのだなあと痛感する。戦後民主主義だってアメリカからのお仕着せだったし……だから今現在みたいなことになっちゃうんだよね。
労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)
作者:ブレイディみかこ
出版社:光文社
ISBN:4334043186
by timeturner
| 2018-05-24 19:00
| 和書
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