2018年 05月 18日
辞書を編む |
「右」「愛」「萌え」。こうした言葉をどう定義するか。『三省堂国語辞典』、略して「三国」の編纂者である著者が、第7版の改訂作業を進めながら、そのプロセスを記録する・・・。
『舟を編む』の真似っこ?と思ったけど、三浦しをんさんの文が載った帯を見て、あれを読んでいても楽しめる内容なんだと思って読んでみた。
ほんとに楽しかった。物語としての面白さがフィクションに比べたら足りないのは当たり前だけれど、当事者の思いがダイレクトに伝わってくるという点で貴重な記録。しかも、この著者が堅苦しい国語学者のイメージからかけ離れた面白いおじさん(失礼!)で、読んでる途中で何度も吹き出してしまった。
日常生活で使われる言葉を常にアンテナをたてて蒐集している編纂委員たちが、打ち上げで入った店で、店員に「全然食べちゃってください」 と言われ「おーっ!」とどよめいたエピソードは、その場の様子が目に浮かぶようだ。店員さん、困っただろうなあ。
ふだん使うのは圧倒的に英語の辞書で、それに関してはひとつだけでなくいくつもの辞書を見比べなくてはだめだというのは身にしみてわかっていたのだけれど、日本語は母語であるだけに「辞書なんて見なくてもいいや」という気持ちが強く、昔買った一冊があればそれで充分だと思っていた.
でも、この本を読むと、全然充分じゃない(「全然」の本来の使い方)ことがわかる。辞書それぞれがこんなにも違うものだと全く知らなかった。
「三国」の二大特徴は「実例に基づいた項目を立てる」と「中学生にでも分かる説明を心がける」というもの。その結果、収録されている言葉は今の時代に広く使われている現役の言葉たちで、だれが読んでもすとんと胸に落ちるような説明がしてある、らしい。例として出されている言葉や語釈を見れば確かにそうだとわかる。
それにしても、雰囲気を「ふいんき」と読む人が増えたことは知っていたけど、原因を「げいいん」と読む人がアナウンサーにもいるというのは驚きだった。そういうのはTVを見ないから疎くなっているのかもしれない。まあ、別にそれで困るわけでもないのだけれど。
これまでの辞書に載っていたというR&Bの定義(リズムを強調して、叫ぶように歌う。エレキギターなどでリズムを強調したブルース。電気楽器によるバンド形式で、リズム に乗って叫ぶように歌うもの)には驚いたし、著者がプログレの語釈を書くためにYouTubeでプログレの有名バンドを聴きまくるエピソードも面白い。
「右」に関する「岩波」の語釈には感動したけど、それをさらに推し進め、現代に合う語釈に変えた「三国」も見事だと思った。
それにしても、辞書を作るのは勤勉で、忍耐力、持続力にすぐれた人でないと無理だと心から思った。一か月や二か月で済む仕事ではなく、「年」の単位でこつこつ続けなくてはならないのだからね。
辞書を編む (光文社新書)
作者:飯間浩明
出版社:光文社
ISBN:Kindle版
『舟を編む』の真似っこ?と思ったけど、三浦しをんさんの文が載った帯を見て、あれを読んでいても楽しめる内容なんだと思って読んでみた。
ほんとに楽しかった。物語としての面白さがフィクションに比べたら足りないのは当たり前だけれど、当事者の思いがダイレクトに伝わってくるという点で貴重な記録。しかも、この著者が堅苦しい国語学者のイメージからかけ離れた面白いおじさん(失礼!)で、読んでる途中で何度も吹き出してしまった。
日常生活で使われる言葉を常にアンテナをたてて蒐集している編纂委員たちが、打ち上げで入った店で、店員に「全然食べちゃってください」 と言われ「おーっ!」とどよめいたエピソードは、その場の様子が目に浮かぶようだ。店員さん、困っただろうなあ。
ふだん使うのは圧倒的に英語の辞書で、それに関してはひとつだけでなくいくつもの辞書を見比べなくてはだめだというのは身にしみてわかっていたのだけれど、日本語は母語であるだけに「辞書なんて見なくてもいいや」という気持ちが強く、昔買った一冊があればそれで充分だと思っていた.
でも、この本を読むと、全然充分じゃない(「全然」の本来の使い方)ことがわかる。辞書それぞれがこんなにも違うものだと全く知らなかった。
「三国」の二大特徴は「実例に基づいた項目を立てる」と「中学生にでも分かる説明を心がける」というもの。その結果、収録されている言葉は今の時代に広く使われている現役の言葉たちで、だれが読んでもすとんと胸に落ちるような説明がしてある、らしい。例として出されている言葉や語釈を見れば確かにそうだとわかる。
『三国』は、この意味で、実例主義なのです。ことばを換えて言えば、世の中に定着したことばはなるべく載せ、今の日本語がどうなっているかを辞書に反映させようとします。「現代日本語を鏡のように映し出す」と表現してもいいでしょう。「三国」の実例主義は俗語・俗用を誤用だとして切り捨てないという方針にもつながるし、著者自身が新しい言葉をみつけるのが大好きという性格なので、中には「えっ、そんなのまで載せるの?」と思う例(いさぎない、旬菜、素髪など)もけっこう出ているのですが、でもまあ、それが実際に世の中で使われ続ければ、いつかは正しい日本語になってしまうんだろうな。
たとえば、『岩波国語辞典』第7版は、約6万5000語を収録し、比較的語数が少ないほうです。でも、純文学作品などをよく読む人にとっては頼りになる辞書です。「 冤枉」(無実の罪)、「 孩児」(おさなご) といった、むずかしめの語も押さえています。 『三国』第6版は、約8万語を擁しますが、「冤枉」「孩児」は載せていません。むしろ、どちらかといえば、新聞や雑誌のほか、一般書などを多く読む利用者を想定して、収録語を選んでいます。街で見かけて、「あれはどういう意味だろう」と疑問に思うようなことばも、できるだけ載せるようにしています。
それにしても、雰囲気を「ふいんき」と読む人が増えたことは知っていたけど、原因を「げいいん」と読む人がアナウンサーにもいるというのは驚きだった。そういうのはTVを見ないから疎くなっているのかもしれない。まあ、別にそれで困るわけでもないのだけれど。
これまでの辞書に載っていたというR&Bの定義(リズムを強調して、叫ぶように歌う。エレキギターなどでリズムを強調したブルース。電気楽器によるバンド形式で、リズム に乗って叫ぶように歌うもの)には驚いたし、著者がプログレの語釈を書くためにYouTubeでプログレの有名バンドを聴きまくるエピソードも面白い。
「右」に関する「岩波」の語釈には感動したけど、それをさらに推し進め、現代に合う語釈に変えた「三国」も見事だと思った。
みぎ【右】 ① 相対的な位置の一つ。東を向いた時、南の方、また、この辞書を開いて読む時、偶数ページのある側をいう。 左。 (『岩波国語辞典』初版)ジェンダーや性的指向に配慮した辞書の見直しについてはもう少し詳しく聞きたかった。どこかのフェミニスト言語学者がそれで一冊書いてくれないかな。
みぎ[右](名)① 横に〈広がる/ならぶ〉もののうち、一方の がわをさすことば。「一」の字では、書きおわりのほう。「リ」の字では、線の長いほう。「向かって―・―がわ通行」 (『三国』第7版原稿)
それにしても、辞書を作るのは勤勉で、忍耐力、持続力にすぐれた人でないと無理だと心から思った。一か月や二か月で済む仕事ではなく、「年」の単位でこつこつ続けなくてはならないのだからね。
辞書を編む (光文社新書)
作者:飯間浩明
出版社:光文社
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2018-05-18 19:00
| 和書
|
Comments(0)