2018年 01月 06日
想像ラジオ |
深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使ってラジオ番組のオンエアを始めた男がいた。その名はDJアーク・・・。
『「国境なき医師団」を見に行く』の中でMSF広報の方がこの本について触れていたので読んでみようと思いました。あの本がとてもよかったので、いとうせいこうさんの小説を何かしら読もうとは思っていたから、渡りに船という感じ。
東日本大震災直後の話です。被災して亡くなった人の語りではありますが、ラジオDJとリスナーという形式をとることで、個人の悲しみ、恨み、心残りだけに溺れることなく、犠牲者の気持ち、生き残った生者の気持ちを客観的に描けているし、ユーモアもあってつらくて読めないというものになっていない。
最後のほうで始まる多数同時中継システムなるものでは、ニコニコ動画の画面に出る視聴者の声みたいにいろんな意見がだーっと流れてきて、ちょっと笑ってしまいました。
一章を使って、被災地にボランティアとして向かった人たちの会話というか討論が続くんですが、自身でも同様のボランティアをしたことのある人だけに、そうした人たちが現地で出会う葛藤やそれぞれの対処法がすごく納得できました。「国境なき医師団」で派遣される人たちも同じ思いを抱えながら活動しているんですよね。
想像ラジオ (河出文庫)
作者:いとうせいこう
出版社:河出書房新社
ISBN:4309413455
『「国境なき医師団」を見に行く』の中でMSF広報の方がこの本について触れていたので読んでみようと思いました。あの本がとてもよかったので、いとうせいこうさんの小説を何かしら読もうとは思っていたから、渡りに船という感じ。
東日本大震災直後の話です。被災して亡くなった人の語りではありますが、ラジオDJとリスナーという形式をとることで、個人の悲しみ、恨み、心残りだけに溺れることなく、犠牲者の気持ち、生き残った生者の気持ちを客観的に描けているし、ユーモアもあってつらくて読めないというものになっていない。
最後のほうで始まる多数同時中継システムなるものでは、ニコニコ動画の画面に出る視聴者の声みたいにいろんな意見がだーっと流れてきて、ちょっと笑ってしまいました。
一章を使って、被災地にボランティアとして向かった人たちの会話というか討論が続くんですが、自身でも同様のボランティアをしたことのある人だけに、そうした人たちが現地で出会う葛藤やそれぞれの対処法がすごく納得できました。「国境なき医師団」で派遣される人たちも同じ思いを抱えながら活動しているんですよね。
広島への原爆投下の時も、長崎の時も、他の数多くの災害の折も、僕らは死者と手を携えて前に進んできたんじゃないだろうか? しかし、いつからかこの国は死者を抱きしめていることができなくなった。
(中略)
亡くなった人はこの世にいない。すぐに忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者と共に。
想像ラジオ (河出文庫)
作者:いとうせいこう
出版社:河出書房新社
ISBN:4309413455
by timeturner
| 2018-01-06 19:00
| 和書
|
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