2017年 11月 18日
書架の探偵 |
図書館の書架に住まうE・A・スミスは、推理作家E・A・スミスの複生体。生前のスミスの脳をスキャンし、作家の記憶や感情を備えた、図書館に収蔵されている“蔵者”だ。そのスミスを、コレット・コールドブルックと名乗る令嬢が訪ねてきた。父に続いて兄を亡くした彼女は、死ぬ直前の兄からスミスの著作『火星の殺人』を手渡された。この本が兄の死の鍵を握っているのではないか・・・。
作家の脳をスキャンして複生した蔵者が図書館の書架に住んでいて、借り出すこともできるという非常にSF的な設定に、チャンドラーを読んでいるような昔風ハードボイルドストーリーが展開する、奇妙な味わいの話だった。
『ピース』のジーン・ウルフとは思えないほどわかりやすい。どこかで変なふうにねじまがるんじゃないかと構えていたのが拍子抜けするくらい最後までストレートに進んだ。あ、コールドブルック屋敷のあのドアの向こうだけは普通じゃなかったけど、あれは最後の〆のための伏線だからね。
それにしても進行がゆるかった。あとになってみれば伏線だったと気づいた部分もあるけど、スクリーンとかフリッターとかeeフォンといった未来派機器の説明がむだに多くて、いや、そこまで詳しく教えてくれなくてもいいからと思いながら読んでいた。SFマニアにはそこが魅力なのかもしれないけれど、ハードボイルドなんだからもうちょっと歯切れのいい展開でもよかったんじゃないかい? アラベラの存在も中途半端だったな。
翻訳も関係してるのかな。語り手であるスミスが古風で堅苦しい話し方をするのは設定だから仕方がないとはいえ、ここまで腰が低くなくてもよかったんじゃないかい。ヒロインのコレットの女言葉もちと不自然。「よ」はもうちょっと減らせたと思う。
先月、宮脇孝雄さんがジーン・ウルフを語る会(3時間!)に出たら、原文と照合しながらの解説もあったのだけれど、原文は別に古風ではなかったので翻訳者の好みなんだろうな。
会で伺った話を知ってみると、読んでいる間に気になったところにちゃんと説明がついて、そこまで考えて書いていたのか、ウルフ!と唸らされた。コレットのリアリティのなさや、アラベラの扱いのいい加減さはカトリック教徒ならではの女性観(女は男より劣った存在)をもつウルフが女性嫌いだったという話を聞いてすごーく納得した。
書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
原題:A Borrowed Man
作者:ジーン・ウルフ
訳者:酒井昭伸
出版社:早川書房
ISBN:4153350338
作家の脳をスキャンして複生した蔵者が図書館の書架に住んでいて、借り出すこともできるという非常にSF的な設定に、チャンドラーを読んでいるような昔風ハードボイルドストーリーが展開する、奇妙な味わいの話だった。
『ピース』のジーン・ウルフとは思えないほどわかりやすい。どこかで変なふうにねじまがるんじゃないかと構えていたのが拍子抜けするくらい最後までストレートに進んだ。あ、コールドブルック屋敷のあのドアの向こうだけは普通じゃなかったけど、あれは最後の〆のための伏線だからね。
それにしても進行がゆるかった。あとになってみれば伏線だったと気づいた部分もあるけど、スクリーンとかフリッターとかeeフォンといった未来派機器の説明がむだに多くて、いや、そこまで詳しく教えてくれなくてもいいからと思いながら読んでいた。SFマニアにはそこが魅力なのかもしれないけれど、ハードボイルドなんだからもうちょっと歯切れのいい展開でもよかったんじゃないかい? アラベラの存在も中途半端だったな。
翻訳も関係してるのかな。語り手であるスミスが古風で堅苦しい話し方をするのは設定だから仕方がないとはいえ、ここまで腰が低くなくてもよかったんじゃないかい。ヒロインのコレットの女言葉もちと不自然。「よ」はもうちょっと減らせたと思う。
先月、宮脇孝雄さんがジーン・ウルフを語る会(3時間!)に出たら、原文と照合しながらの解説もあったのだけれど、原文は別に古風ではなかったので翻訳者の好みなんだろうな。
会で伺った話を知ってみると、読んでいる間に気になったところにちゃんと説明がついて、そこまで考えて書いていたのか、ウルフ!と唸らされた。コレットのリアリティのなさや、アラベラの扱いのいい加減さはカトリック教徒ならではの女性観(女は男より劣った存在)をもつウルフが女性嫌いだったという話を聞いてすごーく納得した。
書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
原題:A Borrowed Man
作者:ジーン・ウルフ
訳者:酒井昭伸
出版社:早川書房
ISBN:4153350338
by timeturner
| 2017-11-18 19:00
| 和書
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