2017年 11月 01日
三途の川で落しもの |
小学六年生の叶人は大きな橋から川に落ち、気がつくと病院のベッドに眠る自分自身を天井から眺めていた。やがて三途の川に辿り着いたものの、事故か自殺か殺されたのか死因がわからないので足留めされ、渡し守の十蔵と虎之助を手伝うことになる。さらには、地獄玉なるものを探しに、江戸時代の知識しかもたない虎之助と十蔵を連れて現世に戻る羽目になり・・・。
面白かった。児童文学とYAの間くらいの印象だけれど、大人も楽しめる。
深く考えずに死んじゃった子供が、三途の川でさまざまな亡者と出会って生きる価値を知るという成長物語かなと思っていたら、まあ、確かにそういう面もあるのだけれど、でも、それほど単純ではなかった。
確かに叶人はまわりの大人(?)たちと会話をする中でいろいろなことを教えられ、気づいてもいくんだけど、訓話めいた印象はあまりなくて、むしろ、不思議なことがたくさん起こる未知のファンタジーワールドで冒険しているみたい。江戸時代人の十蔵、虎之助とのトンチンカンな掛け合い漫才のようなやりとりも笑える。
面白いと思ったのは、あの世で出会う風景も生き物もすべては叶人の心が創り出すものにすぎないというところ。現代っ子である叶人の目には奪衣婆はゲームに出てくるような白と金のコスチュームを身に着けた金髪美女に見えるし、懸衣翁は公務員のおじさんになり、使う道具はタブレット型パソコンだ。笑っちゃうけど、意外にそういうものかもしれない、このほうがリアルなのかもしれないと思った。
あの世とこの世を行ったり来たりして、いろいろな形で死者と生者のしがらみを見た叶人は自分がそもそも橋から落ちることになった過去を少しずつ直視できるようになっていきます。でも、いちばん影響が大きかったのは虎之助、十蔵との会話かもしれない。
戦国時代には何百人と殺したのに英雄と称えられ、生まれ変わってまた人を殺したら今度は極悪人と呼ばれて処罰されたこと。親を殺すのは重罪だったが、武士が仕えている主の命令で殺した場合は見逃されたこと。子供を殺すことは現代ほどは非難されなかったこと。過去の話を聞くうちに、価値観は時代と共に変わり、あてにならないものであるのに、人はみな自分の狭い世界での価値観にしばられて周りが見えなくなっていることに叶人は気づくのです。このあたりのもっていき方は巧いなあと思いました。
叶人の落下は苛めが原因だったのですが、当時の叶人には周りが見えなかった。
三途の川で落しもの (幻冬舎文庫)
作者:西條奈加
出版社:幻冬舎
ISBN:4344425499
面白かった。児童文学とYAの間くらいの印象だけれど、大人も楽しめる。
深く考えずに死んじゃった子供が、三途の川でさまざまな亡者と出会って生きる価値を知るという成長物語かなと思っていたら、まあ、確かにそういう面もあるのだけれど、でも、それほど単純ではなかった。
確かに叶人はまわりの大人(?)たちと会話をする中でいろいろなことを教えられ、気づいてもいくんだけど、訓話めいた印象はあまりなくて、むしろ、不思議なことがたくさん起こる未知のファンタジーワールドで冒険しているみたい。江戸時代人の十蔵、虎之助とのトンチンカンな掛け合い漫才のようなやりとりも笑える。
面白いと思ったのは、あの世で出会う風景も生き物もすべては叶人の心が創り出すものにすぎないというところ。現代っ子である叶人の目には奪衣婆はゲームに出てくるような白と金のコスチュームを身に着けた金髪美女に見えるし、懸衣翁は公務員のおじさんになり、使う道具はタブレット型パソコンだ。笑っちゃうけど、意外にそういうものかもしれない、このほうがリアルなのかもしれないと思った。
あの世とこの世を行ったり来たりして、いろいろな形で死者と生者のしがらみを見た叶人は自分がそもそも橋から落ちることになった過去を少しずつ直視できるようになっていきます。でも、いちばん影響が大きかったのは虎之助、十蔵との会話かもしれない。
戦国時代には何百人と殺したのに英雄と称えられ、生まれ変わってまた人を殺したら今度は極悪人と呼ばれて処罰されたこと。親を殺すのは重罪だったが、武士が仕えている主の命令で殺した場合は見逃されたこと。子供を殺すことは現代ほどは非難されなかったこと。過去の話を聞くうちに、価値観は時代と共に変わり、あてにならないものであるのに、人はみな自分の狭い世界での価値観にしばられて周りが見えなくなっていることに叶人は気づくのです。このあたりのもっていき方は巧いなあと思いました。
叶人の落下は苛めが原因だったのですが、当時の叶人には周りが見えなかった。
嫌なことをされて、そのうちやめてくれるだろうと我慢する。自分さえ苦痛に耐えれば、いまさえ堪えれば、台風のように通り抜けてくれると信じて。苛めにあってこんなふうになっている子がどれほど多いのかと思います。作者はそういう子たちにこう呼びかけます。
だけど実際は、それが相手の思う壺だ。何をしても騒がない、面倒がなくて周囲にも知られない。相手にとってはいいカモだ。存分につけあがり、攻撃は日増しにエスカレートする。
一日で過ぎる台風ではなく、長くつめたい雨季のようなものだ。
そのうちやむだろうと黙って雨に打たれていると、知らぬ間にどしゃぶりになり、前すら見えなくなっている。体温を奪われて、気づけば身動きすらできない。
「こいつらにとって、いちばんやって欲しくないことをするんだ」これを読んでひとりでも多くの子が救われるといいな。だって、叶人が気づいたように《時間はごちそう》なんだもの。腐らせたり捨てたりするのはもったいないよ。
「やって欲しくないこと……って?」
「でかい声で、泣いたり怒ったり叫んだりされること。嫌だって、はっきりと拒絶されること」
それだけ? というように、涼真がきょとんとする。
でも、いちばん大事なのはそれだけだ。こいつは黙っていじめられている人間じゃない、いじめるには面倒な奴だと、相手にアピールするのだ。
三途の川で落しもの (幻冬舎文庫)
作者:西條奈加
出版社:幻冬舎
ISBN:4344425499
by timeturner
| 2017-11-01 19:00
| 和書
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