2017年 07月 15日
青列車の秘密 |
セント・メアリ・ミード村で長年、気難しい老婦人のコンパニオンをつとめてきたキャサリン・グレイは、老婦人の死後、多額の遺産を相続した。自分のための人生を楽しもうと、ニース行きの豪華列車「ブルー・トレイン」に乗ったキャサリンは、富豪の娘で貴族の妻であるルース・ケタリングと知り合う。だが、ニースに着いたキャサリンはルースが車内で殺されていたと知らされた・・・。
『アガサ・クリスティ-の大英帝国』で『オリエント急行の殺人』とともに取り上げられていて興味をひかれ、読んでみようと思いました。作品としての評価は高くないとも書かれていたので期待せずに読んだのですが、ちゃんと面白かった。ポアロも前に感じたほど魅力のないキャラとは思わなかった。たぶん、あの頃はミス・マープルをすごく気に入っていたから比較の問題だったんだろうな。
ミステリをある程度読んできたので、半分くらいまで読むと犯人の見当がついてしまい、先に後半の種明かしを読んでやっぱりそうだと確信してから、戻って最後まで読みました。最近はけっこうこういう読み方をすることが多いです。年をとって気が短くなっていることもありますが、こうすると作者が配置したミスリーディングや伏線にしっかり気づけて、より楽しめます。犯人の見当がつかないときは興ざめになるのでやりませんけどね。せっかく上手に騙してくれてるのだから、最後にあっと言わせてもらう。
それにしても、せっかくセント・メアリ・ミード村が出てきたというのに、ミス・マープルの名前がちらっとも出てこないのは残念だなあ。この作品を書く前年に『火曜クラブ』を出しているんだから、クリスティーの頭にはミス・マープルの村だという気持ちはあったはずですよね。まあでも、ポアロ物とマープル物はきっぱり分けておきたかったのかもしれませんね。
クリスティー自身はこの作品を気に入ってなくて(すでに発表されていた短編「プリマス行急行列車」のプロットを長編向けに焼き直したものだった)、「書きたくなくても書かなければならないプロ作家の厳しさを自覚した作品」と言ってたそうですが、それほどひどいとは思えませんでした。
まあ、登場人物の人物像が多少薄っぺらかったり、キャサリンが心霊現象に遭遇して真相を悟るという不自然さがあったり、犯人認定の重大な事実を最後の種明かしの中で初めて読者に知らせるというフェアでないところがあったりもしますが、読物としては楽しく読めました。
それにしても、キャサリンはあの男とうまくやれるんだろうか? ギャンブル中毒って病気の一種だから、そう簡単には治癒しないと思うんですけどねえ。
人物像が薄っぺらと書きましたが、この本に登場する30台の女性3人、キャサリン、レノックス、ジアはそれぞれに深みがあって魅力的でした。男たちが類型的なのに比べるとずっとリアルに書けています。これを書いた当時のクリスティー自身が30代だったから、知的な中流の30代女性は書きやすかったのでしょう。逆に、同じ30代でも、アメリカ人の大富豪の娘や、フランス人の男を手玉にとるダンサーなどはとてもステレオタイプな描かれ方です。そのあたりが本人としては納得いかなかったのかな。
クリスティー文庫は久しぶりでしたが、文字が大きくてありがたいですねえ、このシリーズ。他の出版社もぜひ倣ってほしいものですが、高齢者に好まれる内容の本でないと経費がよけいにかかるから難しいのかな。
青列車の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
原題:The Mystery of The Blue Train
作者:アガサ・クリスティー
訳者:青木 久恵
出版社:早川書房
ISBN:4151300058
『アガサ・クリスティ-の大英帝国』で『オリエント急行の殺人』とともに取り上げられていて興味をひかれ、読んでみようと思いました。作品としての評価は高くないとも書かれていたので期待せずに読んだのですが、ちゃんと面白かった。ポアロも前に感じたほど魅力のないキャラとは思わなかった。たぶん、あの頃はミス・マープルをすごく気に入っていたから比較の問題だったんだろうな。
ミステリをある程度読んできたので、半分くらいまで読むと犯人の見当がついてしまい、先に後半の種明かしを読んでやっぱりそうだと確信してから、戻って最後まで読みました。最近はけっこうこういう読み方をすることが多いです。年をとって気が短くなっていることもありますが、こうすると作者が配置したミスリーディングや伏線にしっかり気づけて、より楽しめます。犯人の見当がつかないときは興ざめになるのでやりませんけどね。せっかく上手に騙してくれてるのだから、最後にあっと言わせてもらう。
それにしても、せっかくセント・メアリ・ミード村が出てきたというのに、ミス・マープルの名前がちらっとも出てこないのは残念だなあ。この作品を書く前年に『火曜クラブ』を出しているんだから、クリスティーの頭にはミス・マープルの村だという気持ちはあったはずですよね。まあでも、ポアロ物とマープル物はきっぱり分けておきたかったのかもしれませんね。
クリスティー自身はこの作品を気に入ってなくて(すでに発表されていた短編「プリマス行急行列車」のプロットを長編向けに焼き直したものだった)、「書きたくなくても書かなければならないプロ作家の厳しさを自覚した作品」と言ってたそうですが、それほどひどいとは思えませんでした。
まあ、登場人物の人物像が多少薄っぺらかったり、キャサリンが心霊現象に遭遇して真相を悟るという不自然さがあったり、犯人認定の重大な事実を最後の種明かしの中で初めて読者に知らせるというフェアでないところがあったりもしますが、読物としては楽しく読めました。
それにしても、キャサリンはあの男とうまくやれるんだろうか? ギャンブル中毒って病気の一種だから、そう簡単には治癒しないと思うんですけどねえ。
人物像が薄っぺらと書きましたが、この本に登場する30台の女性3人、キャサリン、レノックス、ジアはそれぞれに深みがあって魅力的でした。男たちが類型的なのに比べるとずっとリアルに書けています。これを書いた当時のクリスティー自身が30代だったから、知的な中流の30代女性は書きやすかったのでしょう。逆に、同じ30代でも、アメリカ人の大富豪の娘や、フランス人の男を手玉にとるダンサーなどはとてもステレオタイプな描かれ方です。そのあたりが本人としては納得いかなかったのかな。
クリスティー文庫は久しぶりでしたが、文字が大きくてありがたいですねえ、このシリーズ。他の出版社もぜひ倣ってほしいものですが、高齢者に好まれる内容の本でないと経費がよけいにかかるから難しいのかな。
青列車の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
原題:The Mystery of The Blue Train
作者:アガサ・クリスティー
訳者:青木 久恵
出版社:早川書房
ISBN:4151300058
by timeturner
| 2017-07-15 19:00
| 和書
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