2017年 03月 05日
四角い卵 |
サキの作品を独自の視点から収集した<サキ・コレクション>の第二弾で、単行本未収録1編を含む本邦初訳2編を含めた全12編収録。
『レジナルド』の翻訳が私の好みではなかったので、第二弾はいいかなと思っていたのですが、『ザ・ベスト・オブ・サキ』を読んだら、やっぱりサキはいい!と萌えてしまい、「未収録」に惹かれて手を出しました。あいかわらず素敵な装幀・挿絵です。
「クローヴィス、実務の冒険心なるものについて語る」と「東棟」が本邦初訳だそうですが、ほかにも初めて読んだものがありました。いろんな短編集があるから、全部読まないと漏れがあるんでしょうね。全部読んだとしても本邦未訳のものがまだ数編あるらしく、このシリーズの第三弾まで読めばコンプリートできそうです。
でも、あいかわらず読みにくいんですよねえ、これ。訳している人たちは皆、英文学の専門家のようですが、ふだん日本語で書かれた小説なんて読んでないんじゃないのかな。日本語の使い方がなんとなく変。「やって見せてみよ!」とか「実現してしまうやもございません」とか。そういう変な日本語ではないにしても、何度読んでも何を言いたいのかよくわからなかったり、どこが面白いのかよくわからないものもある。
巻末の解説には超真面目な大学の先生が学生に講義しているかのような堅苦しさがあるので、おそらく原文の味わい方からして違うんだろうなと思いました。こういう先生に教わった学生が訳すとこうなるという見本みたいなものでしょうか。
幻の昼食 The Phantom Luncheon(今村楯夫訳)
警告されて Forewarned(奈須麻里子訳)
屈辱の顛末 Canossa(肥留川尚子訳)
ミセス・ペンサビーは特例 Excepting Mrs. Pentherby(辻谷実貴子訳)
地獄に堕ちた魂の像 The Image of The Lost Soul(渡辺育子訳)
四角い卵 The Square Egg -- A Badger's-Eye View if The War Mud in The Trenches(今村楯夫訳)
西部戦線の鳥たち Birds on The Western Front(奈須麻里子訳)
祝典式次第 The Gala Programme -- An Unrecorded Episode in Roman History(辻谷実貴子訳)
地獄の議会 The Infernal Parliament(肥留川尚子訳)
ネコはこうして成功した The Achievement of The Cat(渡辺育子訳)
クローヴィス、実務の冒険心なるものについて語る Clovis on The Alleged Romance of Business(井伊順彦訳)
東棟 The East Wing―A Tragedy in The Manner of The Discursive Dramatists(井伊順彦訳)
それはともかく、収録作は悪く言えばばらばらで統一がなく、良く言えばバラエティに富んでいます。凄まじい女嫌いをむき出しにした「祝典式次第」があるかと思うと、ワイルドもひれ伏しそうにセンチな「地獄に堕ちた魂の像」があり、かと思うと若い兵士が戦場で郷愁をこめて綴りそうな「四角い卵」や「西部戦線の鳥たち」もある。サキという複雑微妙な人間のさまざまな面が見えてきます。
「東棟」の原題がThe East Wingだったので、ひょっとしたらエドワード・ゴーリーの絵本『ウエスト・ウイング』はここからインスパイアされたのでは?なんて思ったのですが考えすぎかな。
「ネコはこうして成功した」は、サキの深い猫愛から書かれたと思える激烈な猫讃歌ですが、残念ながら訳者が後半で意味をとり違えているために、なさけない終わり方になっていて残念です。
そしてその策略や賢い対処法が避けられない運命を逃れるのに十分でないとわかれば、またその応戦する力に対し敵の力が強すぎるか数が多すぎるとわかれば、ネコは最後まで戦い、抵抗があえなく組み伏せられた怒りで息を詰まらせながら痙攣し、死の間際の激しい抗議の叫びをあげると、人間でさえもその力にたじろぐだろう。それは彼らを幸せにしたかもしれぬ運命への最後のあがきかもしれない。あるいはそうでないかもしれない。
And when its shifts and clever managings have not sufficed to stave off inexorable fate, when its enemies have proved too strong or too many for its defensive powers, it dies fighting to the last, quivering with the choking rage or mastered resistance, and voicing in its death-yell that agony of bitter remonstrance which human animals, too, have flung at the powers that may be; the last protest against a destiny that might have made them happy―and has not.
【誤植メモ】 56p 4行目 射的⇒射撃?(原文はshootingなので鳥撃ちだと思うが) 112p 11行目 恣意行動⇒示威行動
四角い卵
作者:サキ
訳者:井伊順彦ほか
出版社:風濤社
ISBN:4892194034
『レジナルド』の翻訳が私の好みではなかったので、第二弾はいいかなと思っていたのですが、『ザ・ベスト・オブ・サキ』を読んだら、やっぱりサキはいい!と萌えてしまい、「未収録」に惹かれて手を出しました。あいかわらず素敵な装幀・挿絵です。
「クローヴィス、実務の冒険心なるものについて語る」と「東棟」が本邦初訳だそうですが、ほかにも初めて読んだものがありました。いろんな短編集があるから、全部読まないと漏れがあるんでしょうね。全部読んだとしても本邦未訳のものがまだ数編あるらしく、このシリーズの第三弾まで読めばコンプリートできそうです。
でも、あいかわらず読みにくいんですよねえ、これ。訳している人たちは皆、英文学の専門家のようですが、ふだん日本語で書かれた小説なんて読んでないんじゃないのかな。日本語の使い方がなんとなく変。「やって見せてみよ!」とか「実現してしまうやもございません」とか。そういう変な日本語ではないにしても、何度読んでも何を言いたいのかよくわからなかったり、どこが面白いのかよくわからないものもある。
巻末の解説には超真面目な大学の先生が学生に講義しているかのような堅苦しさがあるので、おそらく原文の味わい方からして違うんだろうなと思いました。こういう先生に教わった学生が訳すとこうなるという見本みたいなものでしょうか。
幻の昼食 The Phantom Luncheon(今村楯夫訳)
警告されて Forewarned(奈須麻里子訳)
屈辱の顛末 Canossa(肥留川尚子訳)
ミセス・ペンサビーは特例 Excepting Mrs. Pentherby(辻谷実貴子訳)
地獄に堕ちた魂の像 The Image of The Lost Soul(渡辺育子訳)
四角い卵 The Square Egg -- A Badger's-Eye View if The War Mud in The Trenches(今村楯夫訳)
西部戦線の鳥たち Birds on The Western Front(奈須麻里子訳)
祝典式次第 The Gala Programme -- An Unrecorded Episode in Roman History(辻谷実貴子訳)
地獄の議会 The Infernal Parliament(肥留川尚子訳)
ネコはこうして成功した The Achievement of The Cat(渡辺育子訳)
クローヴィス、実務の冒険心なるものについて語る Clovis on The Alleged Romance of Business(井伊順彦訳)
東棟 The East Wing―A Tragedy in The Manner of The Discursive Dramatists(井伊順彦訳)
それはともかく、収録作は悪く言えばばらばらで統一がなく、良く言えばバラエティに富んでいます。凄まじい女嫌いをむき出しにした「祝典式次第」があるかと思うと、ワイルドもひれ伏しそうにセンチな「地獄に堕ちた魂の像」があり、かと思うと若い兵士が戦場で郷愁をこめて綴りそうな「四角い卵」や「西部戦線の鳥たち」もある。サキという複雑微妙な人間のさまざまな面が見えてきます。
「東棟」の原題がThe East Wingだったので、ひょっとしたらエドワード・ゴーリーの絵本『ウエスト・ウイング』はここからインスパイアされたのでは?なんて思ったのですが考えすぎかな。
「ネコはこうして成功した」は、サキの深い猫愛から書かれたと思える激烈な猫讃歌ですが、残念ながら訳者が後半で意味をとり違えているために、なさけない終わり方になっていて残念です。
そしてその策略や賢い対処法が避けられない運命を逃れるのに十分でないとわかれば、またその応戦する力に対し敵の力が強すぎるか数が多すぎるとわかれば、ネコは最後まで戦い、抵抗があえなく組み伏せられた怒りで息を詰まらせながら痙攣し、死の間際の激しい抗議の叫びをあげると、人間でさえもその力にたじろぐだろう。それは彼らを幸せにしたかもしれぬ運命への最後のあがきかもしれない。あるいはそうでないかもしれない。
And when its shifts and clever managings have not sufficed to stave off inexorable fate, when its enemies have proved too strong or too many for its defensive powers, it dies fighting to the last, quivering with the choking rage or mastered resistance, and voicing in its death-yell that agony of bitter remonstrance which human animals, too, have flung at the powers that may be; the last protest against a destiny that might have made them happy―and has not.
【誤植メモ】 56p 4行目 射的⇒射撃?(原文はshootingなので鳥撃ちだと思うが) 112p 11行目 恣意行動⇒示威行動
四角い卵
作者:サキ
訳者:井伊順彦ほか
出版社:風濤社
ISBN:4892194034
by timeturner
| 2017-03-05 19:00
| 和書
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