2017年 01月 20日
フランドルの四季暦 |
植物を中心に、四季の移ろいと人々の営みを瑞々しく描く詩的散文集。園芸家、自然愛好家のバイブルにしてベルギーの秘宝といわれる幻の名著に大野八生の描き下ろし植物画約70点を収録。
いやあ、素晴らしい本でした。装幀は美しいし、挿絵もレイアウトも素晴らしいし、もちろん文章も翻訳も最高。それなのに読み終えるまでに一年以上かかってしまったのは、一度にたくさん読めなかったから。
とにかく、一語一句、どの行を読んでも驚くほど豊かな内容で、実に美しく、イメージ喚起力が強い。二、三行読むごとに書かれている情景が目の前に広がってうっとりしてしまい、そのうちに眠くなって寝てしまう。
寝てしまうなんてつまらないからじゃないかと思われそうですが、そうじゃないんですよね。アンドレイ・タルコフスキーの映画、特に「ノスタルジア」を観たことのある人ならわかると思うんですが、あまりにも美しく心地よいので眠くなってしまうんです。すごく気持ちよく眠れる。
ストーリーらしいストーリーがあるわけではないので、筋を追う必要もないというのもありますが、気が向くと手にとり、1、2ページ読んでは寝てしまい、ということを繰り返してきました。これ、図書館で借りずに買ったのは正解でした。とてもじゃないけど二週間でこれをちゃんと読むのは無理。
一月から順に四季の移り変わりを書いているので、こちらもそれに合わせて一月には一月の章、二月には二月の章と一年かけて読むのがいい。十二月まで読み終えたらまた一月の章から読み返す。そんなふうに楽しめる本です。
園芸家のバイブルと言われているそうですが、庭で栽培する植物のことだけでなく、野草や木々、鳥や虫、太陽や月や星、風や雨や雪、とにかくあらゆる自然現象に作者は目を向け、それを正確に、美しい言葉で綴ります。正確に、というところがポイントで、『身近な雑草の愉快な生きかた』を読んだあとにこれを読んだら、あ、これはあのことか、とか、ああ、この草の性質を知っているからこう書いているんだなとわかるところがたくさんあってびっくりしました。美に酔いしれた無知な詩人ではなく、冷静な科学者の目ももっているのです。
自然に関することだけでなく、ベルギーの田舎で暮らす人々のちょっとしたエピソードもほのぼのとしたユーモアをまじえて語られます。ところどころ視点がちがっていて不思議な感じがする個所もあるのですが、その謎は訳者あとがきを読むと解明されます。このあとがきもすごくいいです。どれほど原文を愛し、読みこんだかがよくわかる。ゲヴェルスが20年以上もかけてこの本を推敲したということも書いてありました。だからこんなに研ぎ澄まされた文章なんだ!
意外だったのは、作者は田舎で小さな畑を耕しながら暮らしているのかと思っていたら、17ヘクタールもの土地をもつお屋敷の住人だったということ。村人からの聞き書きで書いている部分が多いから作者も農民だと思ってしまったんでしょうね。考えてみれば、これだけの知識を身につけ、これだけの時間をかけて四季の移り変わりを観察し、そしてこんな美しい文章を書くにはゆとりのある境遇でないと無理。ふつうの農民にはそんな余裕はありません。
作中になんども登場する『博物学者の覚書』は、作者の父親が書きつけていた暦書だという話にはなんだかすごく感動しました。同じ土地で暮らし、同じように四季をみつめてきた父娘の結びつきがとてもあたたかくてすてきです。
フランドルの四季暦
原題:Plaisir des Meteores,ou,Le Livre des Douze Mois
作者:マリ・ゲヴェルス
訳者:宮林 寛
出版社:河出書房新社
ISBN:430920693X
いやあ、素晴らしい本でした。装幀は美しいし、挿絵もレイアウトも素晴らしいし、もちろん文章も翻訳も最高。それなのに読み終えるまでに一年以上かかってしまったのは、一度にたくさん読めなかったから。
とにかく、一語一句、どの行を読んでも驚くほど豊かな内容で、実に美しく、イメージ喚起力が強い。二、三行読むごとに書かれている情景が目の前に広がってうっとりしてしまい、そのうちに眠くなって寝てしまう。
寝てしまうなんてつまらないからじゃないかと思われそうですが、そうじゃないんですよね。アンドレイ・タルコフスキーの映画、特に「ノスタルジア」を観たことのある人ならわかると思うんですが、あまりにも美しく心地よいので眠くなってしまうんです。すごく気持ちよく眠れる。
ストーリーらしいストーリーがあるわけではないので、筋を追う必要もないというのもありますが、気が向くと手にとり、1、2ページ読んでは寝てしまい、ということを繰り返してきました。これ、図書館で借りずに買ったのは正解でした。とてもじゃないけど二週間でこれをちゃんと読むのは無理。
一月から順に四季の移り変わりを書いているので、こちらもそれに合わせて一月には一月の章、二月には二月の章と一年かけて読むのがいい。十二月まで読み終えたらまた一月の章から読み返す。そんなふうに楽しめる本です。
園芸家のバイブルと言われているそうですが、庭で栽培する植物のことだけでなく、野草や木々、鳥や虫、太陽や月や星、風や雨や雪、とにかくあらゆる自然現象に作者は目を向け、それを正確に、美しい言葉で綴ります。正確に、というところがポイントで、『身近な雑草の愉快な生きかた』を読んだあとにこれを読んだら、あ、これはあのことか、とか、ああ、この草の性質を知っているからこう書いているんだなとわかるところがたくさんあってびっくりしました。美に酔いしれた無知な詩人ではなく、冷静な科学者の目ももっているのです。
自然に関することだけでなく、ベルギーの田舎で暮らす人々のちょっとしたエピソードもほのぼのとしたユーモアをまじえて語られます。ところどころ視点がちがっていて不思議な感じがする個所もあるのですが、その謎は訳者あとがきを読むと解明されます。このあとがきもすごくいいです。どれほど原文を愛し、読みこんだかがよくわかる。ゲヴェルスが20年以上もかけてこの本を推敲したということも書いてありました。だからこんなに研ぎ澄まされた文章なんだ!
意外だったのは、作者は田舎で小さな畑を耕しながら暮らしているのかと思っていたら、17ヘクタールもの土地をもつお屋敷の住人だったということ。村人からの聞き書きで書いている部分が多いから作者も農民だと思ってしまったんでしょうね。考えてみれば、これだけの知識を身につけ、これだけの時間をかけて四季の移り変わりを観察し、そしてこんな美しい文章を書くにはゆとりのある境遇でないと無理。ふつうの農民にはそんな余裕はありません。
作中になんども登場する『博物学者の覚書』は、作者の父親が書きつけていた暦書だという話にはなんだかすごく感動しました。同じ土地で暮らし、同じように四季をみつめてきた父娘の結びつきがとてもあたたかくてすてきです。
フランドルの四季暦
原題:Plaisir des Meteores,ou,Le Livre des Douze Mois
作者:マリ・ゲヴェルス
訳者:宮林 寛
出版社:河出書房新社
ISBN:430920693X
by timeturner
| 2017-01-20 19:00
| 和書
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