2016年 06月 19日
風をつかまえた少年 |
アフリカの最貧国、マラウイの小さな村で暮らす少年ウィリアムは、農業を営む父親を手伝いながら小学校に通い、中学に進むのを楽しみにしていた。だが、2001年にマラウイを襲った洪水と日照りによる食糧危機は政府の無策・汚職により極限まで悪化し、学費が払えないためにウィリアムは中学を辞めざるをえなかった。浮浪者が増え、周囲で人が飢えのために死んでいく中、ウィリアムは小学校の図書室に通って本を読み、自習していた。そして出会った『物理学入門』と『エネルギーの利用』という本が彼の人生を変えていく・・・。
いやあ、もう、びっくりですよ。小学校しか出ていない少年が自力で風力発電機を作ったという事実も驚愕ですが、それ以上にカルチャーギャップというのか、マラウイという国の現実があまりにも異質で、それでいて共通する部分もたくさんあって、すぐには消化しきれない感じです。
だってねえ、飢饉になってもなんの手当てもしないばかりか、外国からの支援物資を横流しするような独裁政府とか、大統領に陳情しただけで袋叩きにあってしまう族長とか、魔術を信じていて子どもに「どうせ死ぬんだ」とか「葬儀」「墓石」「とどめを刺してくれ」なんて名前をつけたり、焼いた羽アリやネズミの燻製がご馳走だったりする国で、市場には携帯電話を充電する屋台があったりするんですよ。まあ、発展途上国ほど携帯の普及率が高いというのは今や当たり前ですけれど、でも、なんかチグハグすぎる。
餓死するまでに飢えた人には二種類あるというのも初めて知りました。血液中にタンパク質がなくなった極度の栄養失調のときに起こるクワシオルコルにかかった人たちは、腹部や足、顔に水が溜まってふくれあがり(よく見るビアフラの子どもたちみたいな感じ?)、もう一方は歩く骸骨のように痩せさらばえた人たち。こんな人たちが毎日無言で家の前を通りかかるのを見るだけで苦痛ですよね。だって、助けてあげたくても自分たちだって食べるものがなくて、それでも翌年のために畑仕事はしなくてはならないんだから。
そんな中で風力発電機を創りあげるなんて並大抵のことじゃないです。そもそも物理の本や風力発電の本を読んで、図を見ただけで大体の仕組みが理解できるなんて、もともと頭の中にそういう才能というか物理についての理解力が組み込まれているんでしょうね、こういう人たちは。私なんて、ライターが噛み砕いて書いてくれてる(このライターも苦労して学習したらしい)部分でさえ、物理の話になるとちんぷんかんぷんで、頭の中が真っ白になってしまいました。情けない。
そして、さらに凄いのは、まともな材料がない状態で、ありあわせのものを工夫して使い、ちゃんと動くものを作ったということ。あ、これってこの前読んだ『翻訳できない世界のことば』に出ていた、ヒンディー語のジュガール(最低限の道具や材料でとにかくどうにかして問題を解決すること)ですね。アフリカだけでなく世界中の発展途上国で必要なことなんだな。
後半に出てくるTED(Technology Entertainment and Design)の国際会議で参加者もこう言っています。
充実した教育によってウィリアムみたいな人がたくさん出て、自分たちの住む地域を少しずつ変えていけば、いつかアフリカは砂漠化を食い止め、緑の大陸になるかもしれませんね。これまではアフリカ大陸の砂漠化はもう手の施しようがないんじゃないかと思っていたんですが、少しだけ希望を感じられるようになりました。
風をつかまえた少年
原題:The Boy Who Harnessed The Wind
作者:ウィリアム・カムクワンバ
訳者:田口俊樹
出版社:文藝春秋
ISBN:416373080X
いやあ、もう、びっくりですよ。小学校しか出ていない少年が自力で風力発電機を作ったという事実も驚愕ですが、それ以上にカルチャーギャップというのか、マラウイという国の現実があまりにも異質で、それでいて共通する部分もたくさんあって、すぐには消化しきれない感じです。
だってねえ、飢饉になってもなんの手当てもしないばかりか、外国からの支援物資を横流しするような独裁政府とか、大統領に陳情しただけで袋叩きにあってしまう族長とか、魔術を信じていて子どもに「どうせ死ぬんだ」とか「葬儀」「墓石」「とどめを刺してくれ」なんて名前をつけたり、焼いた羽アリやネズミの燻製がご馳走だったりする国で、市場には携帯電話を充電する屋台があったりするんですよ。まあ、発展途上国ほど携帯の普及率が高いというのは今や当たり前ですけれど、でも、なんかチグハグすぎる。
餓死するまでに飢えた人には二種類あるというのも初めて知りました。血液中にタンパク質がなくなった極度の栄養失調のときに起こるクワシオルコルにかかった人たちは、腹部や足、顔に水が溜まってふくれあがり(よく見るビアフラの子どもたちみたいな感じ?)、もう一方は歩く骸骨のように痩せさらばえた人たち。こんな人たちが毎日無言で家の前を通りかかるのを見るだけで苦痛ですよね。だって、助けてあげたくても自分たちだって食べるものがなくて、それでも翌年のために畑仕事はしなくてはならないんだから。
そんな中で風力発電機を創りあげるなんて並大抵のことじゃないです。そもそも物理の本や風力発電の本を読んで、図を見ただけで大体の仕組みが理解できるなんて、もともと頭の中にそういう才能というか物理についての理解力が組み込まれているんでしょうね、こういう人たちは。私なんて、ライターが噛み砕いて書いてくれてる(このライターも苦労して学習したらしい)部分でさえ、物理の話になるとちんぷんかんぷんで、頭の中が真っ白になってしまいました。情けない。
そして、さらに凄いのは、まともな材料がない状態で、ありあわせのものを工夫して使い、ちゃんと動くものを作ったということ。あ、これってこの前読んだ『翻訳できない世界のことば』に出ていた、ヒンディー語のジュガール(最低限の道具や材料でとにかくどうにかして問題を解決すること)ですね。アフリカだけでなく世界中の発展途上国で必要なことなんだな。
後半に出てくるTED(Technology Entertainment and Design)の国際会議で参加者もこう言っています。
「アフリカ人は毎日、手元にあるわずかなものを使って、なんとか自分の思いどおりのものをつくろうとしている。精いっぱいの創造力を駆使して、アフリカに課せられた難題を克服しようとしている。アフリカは世界がごみと思うものをリサイクルしている。アフリカは世界ががらくたと思うものを再生させている」有名人になり、多くの人々の善意とお金で学校に行けるようになり、アメリカの大学にも進んだウィリアムは、その知名度を利用してプロジェクトを立ち上げ、自分の家だけでなく村全体を着々と改良しているようです。村では風力発電だけでなく太陽光発電も備えているらしい。また、教育の大切さを訴え、小学校のリノベーションにも手をつけています。
充実した教育によってウィリアムみたいな人がたくさん出て、自分たちの住む地域を少しずつ変えていけば、いつかアフリカは砂漠化を食い止め、緑の大陸になるかもしれませんね。これまではアフリカ大陸の砂漠化はもう手の施しようがないんじゃないかと思っていたんですが、少しだけ希望を感じられるようになりました。
ぼくたちアフリカ人も誰かがやってくれるだろうと待つのではなく、心と豊富な資源をひとつにしてみんなで協力し合えば、きっとアフリカ大陸もよくなるはずだ。そうだ、がんばれ、未来のウィリアムたち。
風をつかまえた少年
原題:The Boy Who Harnessed The Wind
作者:ウィリアム・カムクワンバ
訳者:田口俊樹
出版社:文藝春秋
ISBN:416373080X
by timeturner
| 2016-06-19 19:24
| 和書
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