2016年 06月 06日
ガラスの家族 |
11歳のギニーは里親のもとを転々としてきた。頭がいいし喧嘩も強いが鼻っ柱が強いのでどこに行っても問題を起こしてきたのだ。ところが、今度連れてこられたトロッターさんの家はなんだかこれまでとは勝手が違った・・・。
これもまた現代において望ましい家庭とはどういうものかを考えさせる話でした。子どもを産んでも育てる気のない母親。そんな母親を聖母のように崇め、憧れる娘はいつか母親が迎えにきてくれてお伽噺のようなハッピーエンドがおとずれると夢見ています。頭がいい子だから心の片隅ではそんなことはあり得ないとわかっているけれど、そう考えていなければ自分の現状が惨めすぎて耐えられないのです。
トロッターさんは料理は上手みたいですが、その他の家事は苦手で家の中は片付いてなくて埃だらけ。熱心に教会に行く以外はだらだらとテレビを見て過ごしたりしていて、あまりいい環境とは思えません。賢いギニーはすぐにそれを見てとり、最初から馬鹿にしてかかるのですが、トロッターさんには里子にとって最も大切な資質が備わっているのです。盲目的なまでに子どもを愛し守ろうとする母親の愛です。
隣のランドルフさんも無力な盲人のようでありながらたくさんの本を読み、ワーズワースの詩を暗唱し、ユーモアの心を忘れません。ギニーが無意識に持っていた黒人に対する偏見や老人を厭う気持ちを変えていきます。そして、弱々しい男の子ウィリアム・アーネストの存在は一匹狼だったギニーに弱い者をかばい、守る気持ちを芽生えさせます。
最後のほうでとうとう実の母親に会ったギニーは夢と現実の違いに打ちのめされてトロッターさんに「なにも思ったようにはならなかった」と電話で訴えますが、このときのトロッターさんの答えがすごい。
それにしてもアメリカの里親制度って難しいですね。トロッターさんのように里親向きの人もいるのでしょうが、それでも子どもとの相性があるだろうし、ほとんどのケースは里親も里子もそれぞれに忍耐を試されるんじゃないかなあと思いました。
作者は「テラビシアにかける橋」の人ですが、彼女自身も里親になったことがあるそうで、その頃の反省をこめてこの小説を書いたのだそうです。
ところでこのカバー絵、怖くありません? 教会の塔が女の子の角みたいに見えるし、女の子の表情も怖い。カバーを見ただけだったら絶対読む気にならなかっただろうなあ。
ガラスの家族 (現代の翻訳文学(25))
原題:The Great Gilly Hopkins
作者:キャサリン・パターソン
イラスト:山野辺 進
訳者:岡本浜江
出版社:偕成社
ISBN:4037262509
これもまた現代において望ましい家庭とはどういうものかを考えさせる話でした。子どもを産んでも育てる気のない母親。そんな母親を聖母のように崇め、憧れる娘はいつか母親が迎えにきてくれてお伽噺のようなハッピーエンドがおとずれると夢見ています。頭がいい子だから心の片隅ではそんなことはあり得ないとわかっているけれど、そう考えていなければ自分の現状が惨めすぎて耐えられないのです。
トロッターさんは料理は上手みたいですが、その他の家事は苦手で家の中は片付いてなくて埃だらけ。熱心に教会に行く以外はだらだらとテレビを見て過ごしたりしていて、あまりいい環境とは思えません。賢いギニーはすぐにそれを見てとり、最初から馬鹿にしてかかるのですが、トロッターさんには里子にとって最も大切な資質が備わっているのです。盲目的なまでに子どもを愛し守ろうとする母親の愛です。
隣のランドルフさんも無力な盲人のようでありながらたくさんの本を読み、ワーズワースの詩を暗唱し、ユーモアの心を忘れません。ギニーが無意識に持っていた黒人に対する偏見や老人を厭う気持ちを変えていきます。そして、弱々しい男の子ウィリアム・アーネストの存在は一匹狼だったギニーに弱い者をかばい、守る気持ちを芽生えさせます。
最後のほうでとうとう実の母親に会ったギニーは夢と現実の違いに打ちのめされてトロッターさんに「なにも思ったようにはならなかった」と電話で訴えますが、このときのトロッターさんの答えがすごい。
「思ったようにって、どういうこと? 人生はそんなもんじゃないよ、つらいだけだよ。」えーっと思いますよね。子どもにそんなこと言っちゃっていいのって。でも、ギニーだって心の奥深くではわかっているんですよね。
「さいごはだれでも幸せになるなんてのは、うそっぱちだってことをさ。この世の中のさいごは死だけさ。それが幸せかどうかは知らないけど、どっちみち、まだ死ねないってことだよ、そうだろ?」でも、そこで絶望させたままで終わらせることはしません。「人生がそんなにつまんないなら、どうしてトロッターさんは幸せなの?」と聞くギニーにトロッターさんはこう答えます。
「つまんないと、いついった? つらいといったんだよ。つらい仕事をせっせとやることくらい幸せなことはない、そうだろ?」なんだか禅問答みたいですが、これを読んだ子どもたちはわからないなりに、人生というものについて新たな切り口で考えるようになるのかもしれない。
それにしてもアメリカの里親制度って難しいですね。トロッターさんのように里親向きの人もいるのでしょうが、それでも子どもとの相性があるだろうし、ほとんどのケースは里親も里子もそれぞれに忍耐を試されるんじゃないかなあと思いました。
作者は「テラビシアにかける橋」の人ですが、彼女自身も里親になったことがあるそうで、その頃の反省をこめてこの小説を書いたのだそうです。
ところでこのカバー絵、怖くありません? 教会の塔が女の子の角みたいに見えるし、女の子の表情も怖い。カバーを見ただけだったら絶対読む気にならなかっただろうなあ。
ガラスの家族 (現代の翻訳文学(25))
原題:The Great Gilly Hopkins
作者:キャサリン・パターソン
イラスト:山野辺 進
訳者:岡本浜江
出版社:偕成社
ISBN:4037262509
by timeturner
| 2016-06-06 19:22
| 和書
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