2016年 05月 15日
幽霊船から来た少年 |
1620年のデンマーク。コペンハーゲンの港をひとりの啞の少年が必死で走っていた。血のつながりのない兄三人から追いつめられた少年は海に落ちたが、オランダ船フライング・ダッチマン号に引き上げられ、意地の悪いコックの助手として働くことになる。慰めはこっそり飼うことになった一匹の黒犬だった。苦難の航海が続き、正気を失った船長が神を呪ったとき、天使が現れて船と船員たちは永遠に海をさまよう運命だと告げた。ただし、少年と犬にだけは別の運命が・・・。
『エアボーン』を読んだら船に乗る少年に魅力を感じるようになり、表紙の絵を見て迷わず読み始めました。でもこれ、途中までは確かに船乗り少年の話だけど、70ページくらいまで来たら、あとはもう陸での話ばかりです。面白かったけどね。
冒頭の《船の巻》の最後で少年と犬は、「天の慈悲によるおくりもの」を与えられます。それは「終わることなき若さと、理解する力と、言葉を話す力」です。その「おくりもの」を使って「どこであれこまっている人のところに行き、自信と思いやりをもたらし、みずから運命を変える力」となることがふたりの使命となったのです。
いやあ、これって大変じゃない? 少年ひとりと犬一匹だけなのよ? それで「暴君の迫害をおそれずに、悲しむ貧者を助け」、「真実と希望で悪をたおし、行く先々で平和とよろこびを広めなさい!」って、どこまで要求するんだ、天使?と言いたくなります。
まあでも、さすがに天使もそのへんはよくわかっていて、少年と犬に与えられる仕事はそれほど大それたものではありませんし、ひとりでする必要もありません。むしろオーガナイザーとして、人々を勇気づけ、その気にさせ、方向を示すことが大切みたい。自分たちが英雄になってはいけないんです。
《羊飼いの巻》でひとりの老いた羊飼いに晩年の喜びを与え、《村の巻》では開発の波に潰されそうになっている村を救いにいきます。「こまっている人」というのがナチス政権下のユダヤ人といったシリアスに大変な事ではなく、セメント工場のために美しい土地をとりあげられそうになっている村人たち、というあたりが手頃だし、イギリスらしくていいです。
金銭欲のために開発をごり押ししようとする側と、土地の所有権を証明する書類を探し出して開発業者を追い払おうとする側との手に汗にぎる攻防が意外にハラハラさせます。宝の地図、金の聖杯と十字架、秘密の暗号などなど、冒険小説にはおなじみの要素もしっかり盛り込まれ、子どもも大人も平等に参加する宝探しはとにかく楽しい。
とはいえ、どんなにその土地の人たちと仲良くなっても、成長することのない少年はそこに居続けることはできません。使命が果たされれば去らなくてはならないのです。だから最後はちょっと哀しみが残ります。
永遠の若さ(不死)なんて「天の慈悲によるおくりもの」どころか呪いでしかないと思うのですが、『時をさまようタック』でのように不死の苦しみについて読者に考えさせるようなところはあまり多くはありません。まあ、ファンタジー冒険小説ですから、くよくよ考えずに話を進める必要がありますからね。
続編(海賊船の財宝)も出ていて、こちらは海洋冒険小説の色が濃くなっているようです。
個人的には猫のホレーショが犬に比べてものすごくおばかに描かれているのが不満。だって、話すことといったら「ニャオニャオ! チョウ、ネズミ、鳥、うまい。ホレちゃんにイワシ」なんてことだけなのよ。まあ、これはこれで可愛いけど。普通は猫のほうが犬より(ずる)賢く描かれることが多いと思うんだけど、この作者は犬派なのかな。
【誤植メモ】 p.395 12行目 道ばたでマッチ売る仕事にでも⇒道ばたでマッチを売る仕事にでも
幽霊船から来た少年 (ハリネズミの本箱)
原題:Castaways of the Flying Dutchman
作者:ブライアン・ジェイクス
訳者:酒井洋子
出版社:早川書房
ISBN:4152500050
『エアボーン』を読んだら船に乗る少年に魅力を感じるようになり、表紙の絵を見て迷わず読み始めました。でもこれ、途中までは確かに船乗り少年の話だけど、70ページくらいまで来たら、あとはもう陸での話ばかりです。面白かったけどね。
冒頭の《船の巻》の最後で少年と犬は、「天の慈悲によるおくりもの」を与えられます。それは「終わることなき若さと、理解する力と、言葉を話す力」です。その「おくりもの」を使って「どこであれこまっている人のところに行き、自信と思いやりをもたらし、みずから運命を変える力」となることがふたりの使命となったのです。
いやあ、これって大変じゃない? 少年ひとりと犬一匹だけなのよ? それで「暴君の迫害をおそれずに、悲しむ貧者を助け」、「真実と希望で悪をたおし、行く先々で平和とよろこびを広めなさい!」って、どこまで要求するんだ、天使?と言いたくなります。
まあでも、さすがに天使もそのへんはよくわかっていて、少年と犬に与えられる仕事はそれほど大それたものではありませんし、ひとりでする必要もありません。むしろオーガナイザーとして、人々を勇気づけ、その気にさせ、方向を示すことが大切みたい。自分たちが英雄になってはいけないんです。
《羊飼いの巻》でひとりの老いた羊飼いに晩年の喜びを与え、《村の巻》では開発の波に潰されそうになっている村を救いにいきます。「こまっている人」というのがナチス政権下のユダヤ人といったシリアスに大変な事ではなく、セメント工場のために美しい土地をとりあげられそうになっている村人たち、というあたりが手頃だし、イギリスらしくていいです。
金銭欲のために開発をごり押ししようとする側と、土地の所有権を証明する書類を探し出して開発業者を追い払おうとする側との手に汗にぎる攻防が意外にハラハラさせます。宝の地図、金の聖杯と十字架、秘密の暗号などなど、冒険小説にはおなじみの要素もしっかり盛り込まれ、子どもも大人も平等に参加する宝探しはとにかく楽しい。
とはいえ、どんなにその土地の人たちと仲良くなっても、成長することのない少年はそこに居続けることはできません。使命が果たされれば去らなくてはならないのです。だから最後はちょっと哀しみが残ります。
永遠の若さ(不死)なんて「天の慈悲によるおくりもの」どころか呪いでしかないと思うのですが、『時をさまようタック』でのように不死の苦しみについて読者に考えさせるようなところはあまり多くはありません。まあ、ファンタジー冒険小説ですから、くよくよ考えずに話を進める必要がありますからね。
続編(海賊船の財宝)も出ていて、こちらは海洋冒険小説の色が濃くなっているようです。
個人的には猫のホレーショが犬に比べてものすごくおばかに描かれているのが不満。だって、話すことといったら「ニャオニャオ! チョウ、ネズミ、鳥、うまい。ホレちゃんにイワシ」なんてことだけなのよ。まあ、これはこれで可愛いけど。普通は猫のほうが犬より(ずる)賢く描かれることが多いと思うんだけど、この作者は犬派なのかな。
【誤植メモ】 p.395 12行目 道ばたでマッチ売る仕事にでも⇒道ばたでマッチを売る仕事にでも
幽霊船から来た少年 (ハリネズミの本箱)
原題:Castaways of the Flying Dutchman
作者:ブライアン・ジェイクス
訳者:酒井洋子
出版社:早川書房
ISBN:4152500050
by timeturner
| 2016-05-15 19:46
| 和書
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