2016年 01月 15日
時雨のあと |
鳶として働いていた安蔵は、高いところから落ちて怪我をしたのがもとで身をもちくずし、賭け事に明け暮れる毎日。だが、妹のみゆきは兄が職人としてやり直すために修業しているものと信じ、女郎として働きながら借金を返している・・・。表題作ほか、長屋暮らしの庶民や貧しい下級武士たちの暮らしを描く短編6編を収録。
いやあ、いいねえ、やっぱり。藤沢周平の書くものには品がある。男女の話を書いても、男性読者のスケベ心を刺激しようという意図ではなく、この世に生きる男と女の話に必然的についてくるものとして扱われているから、女性が読んでもいやな気分にならない。
とはいえ、表題作の極端なまでにけなげな妹みゆきや、「意気地なし」で情けない男に知らんふりできなくなる娘おてつなんかは、男の身勝手な夢の女のように思えないこともないんだけど。でもまあ、こういう女もいるでしょうね。とんでもない悪女にふりまわされる男がいるのと同じように。
雪明かり
闇の顔
時雨のあと
意気地なし
秘密
果し合い
鱗雲
ミステリー仕立てになっている「闇の顔」は、ちょっと『たそがれ清兵衛』http://timeturner.exblog.jp/25008758/の裏ヴァージョンという雰囲気があって、他の作品とは少し趣向が変わっていました。こんなふうにいろんな話がある中に混ざれば『たそがれ清兵衛』のどの作品ももっと映えたのにねえ。って、しつこいか(^^;)。
不幸な事件の結果、肩身の狭い部屋住みのまま老いてしまった男が姪の幸せのために最後にひと肌脱ぐ「果し合い」、藩内のパワーゲームに巻き込まれた下級武士と彼が救った旅の娘との縁を描く「鱗雲」が私のお気に入り。「鱗雲」にほんのちょっとだけ登場する主人公の友人のキャラがなかなか良くて、いつか別の作品で会えるといいなあと思ったりするのだけれど、宮部作品とは違って藤沢周平はそういうことはしないのかな。
ところで、著者あとがきにこんなことが書いてありました。
(作者が江戸期を描くことが多いという話のあとで)
これは、この期になると、庶民が歴史の表面に生き生きと登場してきて、それ以前の、いわば支配者の歴史に、新たに被支配者の歴史が公然と加わってくる面白さのためかも知れない。
そうか、時代小説の中でも特に私が面白いと感じるのは江戸時代のものなのは、これが理由なのかもしれない、と思いました。まあ、ほかにも、江戸時代のことは子供の頃にテレビで見た時代劇である程度わかっているけれど、それより前の時代のこととなるとわからないことが多く、そのために普通より注意深く読まなくてはならなかったり、わざわざネットで調べたりしなくてはならず面倒だから、という怠惰な理由も関係しているかもしれない。
なにはともあれ、江戸時代の話はすっと自然に胸に入ってきて、すとんとおさまる気がするんですよね。
時雨のあと (新潮文庫)
作者:藤沢周平
出版社:新潮社
ISBN:410124703X
いやあ、いいねえ、やっぱり。藤沢周平の書くものには品がある。男女の話を書いても、男性読者のスケベ心を刺激しようという意図ではなく、この世に生きる男と女の話に必然的についてくるものとして扱われているから、女性が読んでもいやな気分にならない。
とはいえ、表題作の極端なまでにけなげな妹みゆきや、「意気地なし」で情けない男に知らんふりできなくなる娘おてつなんかは、男の身勝手な夢の女のように思えないこともないんだけど。でもまあ、こういう女もいるでしょうね。とんでもない悪女にふりまわされる男がいるのと同じように。
雪明かり
闇の顔
時雨のあと
意気地なし
秘密
果し合い
鱗雲
ミステリー仕立てになっている「闇の顔」は、ちょっと『たそがれ清兵衛』http://timeturner.exblog.jp/25008758/の裏ヴァージョンという雰囲気があって、他の作品とは少し趣向が変わっていました。こんなふうにいろんな話がある中に混ざれば『たそがれ清兵衛』のどの作品ももっと映えたのにねえ。って、しつこいか(^^;)。
不幸な事件の結果、肩身の狭い部屋住みのまま老いてしまった男が姪の幸せのために最後にひと肌脱ぐ「果し合い」、藩内のパワーゲームに巻き込まれた下級武士と彼が救った旅の娘との縁を描く「鱗雲」が私のお気に入り。「鱗雲」にほんのちょっとだけ登場する主人公の友人のキャラがなかなか良くて、いつか別の作品で会えるといいなあと思ったりするのだけれど、宮部作品とは違って藤沢周平はそういうことはしないのかな。
ところで、著者あとがきにこんなことが書いてありました。
(作者が江戸期を描くことが多いという話のあとで)
これは、この期になると、庶民が歴史の表面に生き生きと登場してきて、それ以前の、いわば支配者の歴史に、新たに被支配者の歴史が公然と加わってくる面白さのためかも知れない。
そうか、時代小説の中でも特に私が面白いと感じるのは江戸時代のものなのは、これが理由なのかもしれない、と思いました。まあ、ほかにも、江戸時代のことは子供の頃にテレビで見た時代劇である程度わかっているけれど、それより前の時代のこととなるとわからないことが多く、そのために普通より注意深く読まなくてはならなかったり、わざわざネットで調べたりしなくてはならず面倒だから、という怠惰な理由も関係しているかもしれない。
なにはともあれ、江戸時代の話はすっと自然に胸に入ってきて、すとんとおさまる気がするんですよね。
時雨のあと (新潮文庫)
作者:藤沢周平
出版社:新潮社
ISBN:410124703X
by timeturner
| 2016-01-15 21:03
| 和書
|
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