2015年 12月 28日
服従 |
2022年、フランスにイスラーム政権が誕生した。パリ第三大学で教員をしていた《ぼく》がよく状況をつかめずにいるうちに、ユダヤ人の恋人はイスラエルに去り、パリでの騒動を避けて出かけた旅行から戻ってみると大学での籍もなくなっていた・・・。シャルリー・エブドのテロ当日に発売された予言的物語。
11月のパリのテロの後でこれを読むのはなんかすごく興味本位みたいで後ろめたい気がしてしまったけど、あれがあったから読んだわけではなく、図書館の順番を待ってたらこの時期になってしまっただけなのよね(弁解口調)。
なんだか思っていたのとはずいぶん違ってた。そもそも、これって小説なのかな? 自分の性的能力にしか興味のない主人公が食べたり飲んだりセックスしたりしている個所は村上春樹の小説っぽいけど、それ以外は複数の学生が書いたレポートをつなげたみたい。両者がなじんでいるようには思えない。
すべてに倦み疲れ、滅亡へと向かうしかないインテリ(西欧文明)が最後に辿りつくのは他者への服従=思考放棄ってことを言ってるようなんだけど、服従の相手がイスラームの神ということで女は完全に道具化されてる。読めば読むほどむかつく話だけど、まあ、そうやっていろんな人を怒らせて問題に目を向けさせようとしているのかな。
最後のほうの自然淘汰の理屈はあまりにも馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。あれ、作者も冗談で書いてるよね? 大体、そんなふうに一部の特権階級だけが妻をたくさん持って贅沢な暮らしをしていたら施しで生きるしかない下層民はみんなテロリストになると思う。
主人公の文学部教授が専門としているユイスマンスというのは自然主義小説でデビューし、その後デカダンス、悪魔主義ときて、最後にカトリックに改宗という履歴の人らしい。そういうヌエ的な生き方と主人公とを重ねあわせているんだろうか? そういう作家に若い頃のめりこんでいた中年インテリの現実認識の浅さと、自分のことしか考えない子どもっぽい身勝手さは、海千山千の支配者層からすれば簡単に操れる駒なんだろうな。
前にヴィゴが主演した映画「善き人」を思い出してしまった。あれは世間知らずの大学教授がナチスドイツに取りこまれ、利用される話だったけど感じる空気は一緒。
それにしても、『未成年』の次にこれと、インテリの嫌な面をむきだしにしている小説を立て続けに読んだせいで、ちょっと嫌な気分。『ストーナー』があんなに輝いていたのは、彼が本当の意味での《インテリ》ではなかったからなのかもしれない。
服従
原題::Soumission
作者:ミシェル・ウエルベック
訳者:佐藤 優、大塚 桃
出版社:河出書房新社
ISBN:4309206786
11月のパリのテロの後でこれを読むのはなんかすごく興味本位みたいで後ろめたい気がしてしまったけど、あれがあったから読んだわけではなく、図書館の順番を待ってたらこの時期になってしまっただけなのよね(弁解口調)。
なんだか思っていたのとはずいぶん違ってた。そもそも、これって小説なのかな? 自分の性的能力にしか興味のない主人公が食べたり飲んだりセックスしたりしている個所は村上春樹の小説っぽいけど、それ以外は複数の学生が書いたレポートをつなげたみたい。両者がなじんでいるようには思えない。
すべてに倦み疲れ、滅亡へと向かうしかないインテリ(西欧文明)が最後に辿りつくのは他者への服従=思考放棄ってことを言ってるようなんだけど、服従の相手がイスラームの神ということで女は完全に道具化されてる。読めば読むほどむかつく話だけど、まあ、そうやっていろんな人を怒らせて問題に目を向けさせようとしているのかな。
最後のほうの自然淘汰の理屈はあまりにも馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。あれ、作者も冗談で書いてるよね? 大体、そんなふうに一部の特権階級だけが妻をたくさん持って贅沢な暮らしをしていたら施しで生きるしかない下層民はみんなテロリストになると思う。
主人公の文学部教授が専門としているユイスマンスというのは自然主義小説でデビューし、その後デカダンス、悪魔主義ときて、最後にカトリックに改宗という履歴の人らしい。そういうヌエ的な生き方と主人公とを重ねあわせているんだろうか? そういう作家に若い頃のめりこんでいた中年インテリの現実認識の浅さと、自分のことしか考えない子どもっぽい身勝手さは、海千山千の支配者層からすれば簡単に操れる駒なんだろうな。
前にヴィゴが主演した映画「善き人」を思い出してしまった。あれは世間知らずの大学教授がナチスドイツに取りこまれ、利用される話だったけど感じる空気は一緒。
それにしても、『未成年』の次にこれと、インテリの嫌な面をむきだしにしている小説を立て続けに読んだせいで、ちょっと嫌な気分。『ストーナー』があんなに輝いていたのは、彼が本当の意味での《インテリ》ではなかったからなのかもしれない。
服従
原題::Soumission
作者:ミシェル・ウエルベック
訳者:佐藤 優、大塚 桃
出版社:河出書房新社
ISBN:4309206786
by timeturner
| 2015-12-28 19:49
| 和書
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