2015年 10月 28日
サミュエル・ジョンソンが怒っている |
問いの部分が空白で答えだけが並んでいるQ&A、しゃっくりのためにたびたび中断される口述筆記、ひどい悪文で書かれた偉人伝、一行だけの超短編から相性の悪い夫婦の日常が淡々と延々と続いていく短編まで、わけがわからないけれどやたら面白い56の短編を収録した作品集。
『ほとんど記憶のない女』も奇妙な味わいで面白かったけど、これは奇妙さ、面白さに拍車と磨きがかかってる感じです。前作のときには中途半端に感じたり、途中でほっぽりだされたような気持ちになったりしたようなんだけど(もう覚えていない)、今回は全くそういうふうには感じなかった。別に今度の作品がすべて起承転結がついているというわけではなく、というか、まるで「結」なんてしていないんだけど、別にそれでも平気、すっきり読み終えられた。慣れたからかな。それとも作者が進化してるのかな。
いやでも、ほんとに面白いから騙されたと思って読んでみて。表題作にはあっけにとられるし、マリー・キュリー伝の意図した悪文には翻訳者の苦労を想像して涙が出るし、子どもについて書いた「古い辞書」や「身勝手」では、笑いにまぎらしたデイヴィスの母親としての本音がにじみでていてしんみりする。老いた父親について書いた「ボイラー」にはもう、茶化したり皮肉ったりする余裕もなく、愛情と心痛に揺れる娘の気持ちがあふれていてつらかった。
たった一、二行の作品なのに真理をついていて唸らされるものも多くて、そのうちのふたつをメモ。
二重否定
人生のある時点で彼女は気づく。自分は子供を持つことを望んでいるのではなく、子供を持たないことを望まない、あるいは子供を持ったことがない状態になるのを望まないのだということに。
これって《結婚》にも通じるよね。
ものわすれ
イーディス・ウォートンについてどう思うか、ですか。
ええと、たしかによく聞く名前ですね。
サミュエル・ジョンソンが怒っている
原題:Samuel Johnson is Indignant
作者:リディア・デイヴィス
訳者:岸本佐知子
出版社:作品社
ISBN:4861825466
『ほとんど記憶のない女』も奇妙な味わいで面白かったけど、これは奇妙さ、面白さに拍車と磨きがかかってる感じです。前作のときには中途半端に感じたり、途中でほっぽりだされたような気持ちになったりしたようなんだけど(もう覚えていない)、今回は全くそういうふうには感じなかった。別に今度の作品がすべて起承転結がついているというわけではなく、というか、まるで「結」なんてしていないんだけど、別にそれでも平気、すっきり読み終えられた。慣れたからかな。それとも作者が進化してるのかな。
いやでも、ほんとに面白いから騙されたと思って読んでみて。表題作にはあっけにとられるし、マリー・キュリー伝の意図した悪文には翻訳者の苦労を想像して涙が出るし、子どもについて書いた「古い辞書」や「身勝手」では、笑いにまぎらしたデイヴィスの母親としての本音がにじみでていてしんみりする。老いた父親について書いた「ボイラー」にはもう、茶化したり皮肉ったりする余裕もなく、愛情と心痛に揺れる娘の気持ちがあふれていてつらかった。
相棒/退屈な知り合い/都会の人間/不貞/白い部族/特別な椅子/ヘロドトスを読んで得た知識/面談/優先順位/ブラインド・デート/私たちの旅/remember二態/<古女房>と<仏頂面>/サミュエル・ジョンソンが怒っている/新年の誓い/いちねんせい・しゅう字のれんしゅう/面白い/いちばん幸せな思い出/陪審員/二重否定/古い辞書/仮定法礼讃/なんてやっかいな/ものわすれ/ある葬儀社への手紙/甲状腺日記/氷に関する北からの情報/ボヘミアの殺人/楽しい思い出/彼らはめいめい好きな言葉を使う/マリー・キュリー、すばらしく名誉ある女性/ヘッセン兵ミール/異国の隣人/刈られた芝生/口述記録/患者/正しいと正しくない/植字工アルヴィン/特別/身勝手/夫と私/春の鬱憤/彼女の損害/働く男たち/北の国で/祖国を遠く離れて/いっしょにいる/財政/変身/姉と妹/ボイラー/若く貧しく/ミセス・イルンの沈黙/ほとんどおしまい-寝室は別/お金この短編集を出したときのデイヴィスはまだ50代だったはずですが、父親の老いを見ていたせいか、老後を心配する話がいくつかあって、そのどれもがこっちの心もえぐってきます。年をとって目も耳も悪くなり、体も思うように動かなくなったら、部屋でじっとして過去の楽しい思い出を反芻するしかないが、そのときに反芻できるような思い出があるだろうかとだらだらひとりごちる「楽しい思い出」なんて、思い当ることがありすぎて、それなのに今まで深く考えたことのなかったことで、冗談めかして書かれているにもかかわらずグサグサ刺さってきました。
たった一、二行の作品なのに真理をついていて唸らされるものも多くて、そのうちのふたつをメモ。
二重否定
人生のある時点で彼女は気づく。自分は子供を持つことを望んでいるのではなく、子供を持たないことを望まない、あるいは子供を持ったことがない状態になるのを望まないのだということに。
これって《結婚》にも通じるよね。
ものわすれ
イーディス・ウォートンについてどう思うか、ですか。
ええと、たしかによく聞く名前ですね。
サミュエル・ジョンソンが怒っている
原題:Samuel Johnson is Indignant
作者:リディア・デイヴィス
訳者:岸本佐知子
出版社:作品社
ISBN:4861825466
by timeturner
| 2015-10-28 18:27
| 和書
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