2015年 08月 25日
モーパッサン 首飾り |
『モーパッサン怪奇傑作集』でモーパッサンの短編の素晴らしさに開眼したので、これも読んでみました。《世界名作ショートストーリー》シリーズの一冊で、子供向け(といっても小学校高学年以上かな)に編集されたものです。
『サキ 森の少年』もそうでしたが、このシリーズは選ぶ作家といい、作品といい、なかなか玄人好みですよね。訳も子供向けにはしていないので、ルビだらけでちょっと読みにくいけれど、ごまかされたようなストレスは感じません。
このシリーズ、今のところ3冊出ているのですが、もう1冊はモンゴメリで、これはまたずいぶん定番。一体だれがどうやって選んでいるのか興味があります。
首飾り
手
シモンのパパ
酒樽
クロシェット
穴場
マドモアゼル・ペルル
老人
ジュール叔父さん
皮肉のきいた小噺あり、ホラーあり、人情物ありとバラエティに富んだ内容ですが、いずれもモーパッサンらしい自然や人間、人間性についての鋭い観察が効いています。「手」は『モーパッサン怪奇傑作集』にも収録されていました。
「首飾り」は超有名な話で、確か教科書にも載ってたような気がするのですが、訳者あとがきによると夏目漱石はこの作品を「主人公の十年にわたる勤勉な努力が、最後の一行で無意味になってしまい、共感できない」と言って批判していたそうです。そうかなあ。これほどひどいのは珍しいにしても、人生って時にはこういうものだし、小説は常に道徳的に正しくて読者が共感できるものでなくてはならないとは思わない。そういう意味では、訳者の「たしかに主人公にはつらい年月でしたが、手の届かない、浮ついた夢を追って不満だらけだったころよりも、地に足ついた堅実な暮らしを送るようになったのは、これからの人生にとってむしろ幸いだった」という考えにもちょっと首を傾げる。そんな教科書的な教え、いらんよね。でもまあ、訳者も書いているように、読む人によっていろいろな見方ができるところが良く書けた短編の特長なのかもしれません。
「クロシェット」など、若い読者が読めばおそらく、主人公の24歳の若者は親切心から良い行いをしたと考えるのかもしれないけれど、私などは「若さとはなんと無知で残酷で傲慢なものよ」と思いました。
「老人」のように、親の死という悲しい事実を描いているのに、どこまでも滑稽になってしまうのも、「ジュール叔父さん」のように滑稽でいじましい一幕が、ずっと心に残る哀しく、それでいて崇高なエピソードとなるのも、すべて人生の真実なのでしょう。
カバー画と挿画は佐竹美保さんで、サキの巻と同様、ちょっとゴーリーっぽい不気味さのあるタッチがいいです。
モーパッサン―首飾り (世界名作ショートストーリー)
作者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:平岡 敦
出版社:理論社
ISBN:465220101X
『サキ 森の少年』もそうでしたが、このシリーズは選ぶ作家といい、作品といい、なかなか玄人好みですよね。訳も子供向けにはしていないので、ルビだらけでちょっと読みにくいけれど、ごまかされたようなストレスは感じません。
このシリーズ、今のところ3冊出ているのですが、もう1冊はモンゴメリで、これはまたずいぶん定番。一体だれがどうやって選んでいるのか興味があります。
首飾り
手
シモンのパパ
酒樽
クロシェット
穴場
マドモアゼル・ペルル
老人
ジュール叔父さん
皮肉のきいた小噺あり、ホラーあり、人情物ありとバラエティに富んだ内容ですが、いずれもモーパッサンらしい自然や人間、人間性についての鋭い観察が効いています。「手」は『モーパッサン怪奇傑作集』にも収録されていました。
「首飾り」は超有名な話で、確か教科書にも載ってたような気がするのですが、訳者あとがきによると夏目漱石はこの作品を「主人公の十年にわたる勤勉な努力が、最後の一行で無意味になってしまい、共感できない」と言って批判していたそうです。そうかなあ。これほどひどいのは珍しいにしても、人生って時にはこういうものだし、小説は常に道徳的に正しくて読者が共感できるものでなくてはならないとは思わない。そういう意味では、訳者の「たしかに主人公にはつらい年月でしたが、手の届かない、浮ついた夢を追って不満だらけだったころよりも、地に足ついた堅実な暮らしを送るようになったのは、これからの人生にとってむしろ幸いだった」という考えにもちょっと首を傾げる。そんな教科書的な教え、いらんよね。でもまあ、訳者も書いているように、読む人によっていろいろな見方ができるところが良く書けた短編の特長なのかもしれません。
「クロシェット」など、若い読者が読めばおそらく、主人公の24歳の若者は親切心から良い行いをしたと考えるのかもしれないけれど、私などは「若さとはなんと無知で残酷で傲慢なものよ」と思いました。
「老人」のように、親の死という悲しい事実を描いているのに、どこまでも滑稽になってしまうのも、「ジュール叔父さん」のように滑稽でいじましい一幕が、ずっと心に残る哀しく、それでいて崇高なエピソードとなるのも、すべて人生の真実なのでしょう。
カバー画と挿画は佐竹美保さんで、サキの巻と同様、ちょっとゴーリーっぽい不気味さのあるタッチがいいです。
モーパッサン―首飾り (世界名作ショートストーリー)
作者:ギ・ド・モーパッサン
訳者:平岡 敦
出版社:理論社
ISBN:465220101X
by timeturner
| 2015-08-25 19:18
| 和書
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