2015年 05月 29日
教皇ヒュアキントス |
女神、悪魔、聖人、神々、聖母、超自然、ファム・ファタール・・・。男性名で書いていた幻の女性作家ヴァーノン・リーの幻想小説14編を収録。
なんとなくオスカー・ワイルドの女性版みたいな印象を持っていて、なりきり耽美系だったらどうしようと思っていたんですが、意外に冷静でユーモアのセンスもあったので安心しました。でもまあ、現代の小説と比べるとはるかに美辞麗句が連ねられていて、ときどき眠くなったりしましたが。
永遠の愛
教皇ヒュアキントス
婚礼の櫃
マダム・クラシンスカの伝説
ディオネア
聖エウダイモンとオレンジの樹
人形
幻影の恋人
悪魔の歌声
七懐剣の聖母
フランドルのマルシュアス
アルベリック王子と蛇女
顔のない女神
神々と騎士タンホイザー
表題作は悪魔より神様のほうがひどい奴に描かれているのは面白かったけど、最後がよくわからなかった。キリスト教では魂と心って違うものなの? でもって魂より心のほうが大切なものなの?
仮装舞踏会で老いた女浮浪者の仮装をして以来、魂が二つに引き裂かれてしまった裕福で美しい未亡人を描いた「マダム・クラシンスカの伝説」や、没落した貴族の館に残された過去の貴婦人の人形を救う話「人形」はこの中ではふつうの小説っぽくて好み。
いちばん好きなのは「アルベリック王子と蛇女」かな。訳者はファム・ファタール小説と定義していたけれど、それよりもアルベリック王子は蛇女も含むタペストリーの世界すべてに惹かれていたんだと思う。幼い頃からずっと自室の壁にそのタペストリーがかかっていて、そればかり眺めていたとしたら、男女の別なくこうなると思う。そういえば「貴婦人と一角獣」はジョルジュ・サンドの称賛によって再発見されたんじゃなかったっけ。誰からも愛されず、孤独な環境にいる子どもが自室の壁にかかるタペストリーの中の世界に逃れたいと思うのはごく自然なことだと思う。モールズワース夫人の『The Tapestry Room』(1879)も、みなしごの少年が寝室にかけられたタペストリーの中に入っていく話でした。
ところで、この話の中に「名誉法廷」という言葉が何度も出てきて、話のつながりから考えても裁判や法廷とはなんの関係もなさそうで、不思議に思っていたのだけれど、これ、Cour d'honneurという建築用語らしい。三方を建物に囲まれた大きな中庭(前庭)を言い、ブレナム・パレスのあの立派な前庭がその例です。カメラで一画面におさまりきらないほど広大なので、「前庭」という言葉では充分に言い表せないのですが、かといって「名誉法廷」で理解できる日本人も少ないように思います。
「神々と騎士タンホイザー」は、今は人間たちから解放され自由に暮らすギリシャの神々を面白おかしく描いたもので、この本の中ではいちばんふざけていて、ヴァーノン・リーのお茶目な面が出ていると思う。
ほとんどの話に出てくる銀梅花(ギンバイカ)という花に興味を持ってグーグルで画像検索してみたら、楚々としたとてもきれいな花でした。キャサリン妃の結婚式のブーケにも使われていたそうですね(英名ではマートル)。見た記憶がないのですが、日本でもふつうに栽培されているようなので、単にぼんやりしていて気づかないか、「きれいな白い花だなあ」と思うだけで終わっている可能性が高いです。次に見たときには「あ、銀梅花だ!」と言ってみようっと。(忘れていなければ)
教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集
原題:Pope Jacynth and Other Fantastic Stories
作者:ヴァーノン・リー
訳者:中野善夫
出版社:国書刊行会
ISBN:4336058669
なんとなくオスカー・ワイルドの女性版みたいな印象を持っていて、なりきり耽美系だったらどうしようと思っていたんですが、意外に冷静でユーモアのセンスもあったので安心しました。でもまあ、現代の小説と比べるとはるかに美辞麗句が連ねられていて、ときどき眠くなったりしましたが。
永遠の愛
教皇ヒュアキントス
婚礼の櫃
マダム・クラシンスカの伝説
ディオネア
聖エウダイモンとオレンジの樹
人形
幻影の恋人
悪魔の歌声
七懐剣の聖母
フランドルのマルシュアス
アルベリック王子と蛇女
顔のない女神
神々と騎士タンホイザー
表題作は悪魔より神様のほうがひどい奴に描かれているのは面白かったけど、最後がよくわからなかった。キリスト教では魂と心って違うものなの? でもって魂より心のほうが大切なものなの?
仮装舞踏会で老いた女浮浪者の仮装をして以来、魂が二つに引き裂かれてしまった裕福で美しい未亡人を描いた「マダム・クラシンスカの伝説」や、没落した貴族の館に残された過去の貴婦人の人形を救う話「人形」はこの中ではふつうの小説っぽくて好み。
いちばん好きなのは「アルベリック王子と蛇女」かな。訳者はファム・ファタール小説と定義していたけれど、それよりもアルベリック王子は蛇女も含むタペストリーの世界すべてに惹かれていたんだと思う。幼い頃からずっと自室の壁にそのタペストリーがかかっていて、そればかり眺めていたとしたら、男女の別なくこうなると思う。そういえば「貴婦人と一角獣」はジョルジュ・サンドの称賛によって再発見されたんじゃなかったっけ。誰からも愛されず、孤独な環境にいる子どもが自室の壁にかかるタペストリーの中の世界に逃れたいと思うのはごく自然なことだと思う。モールズワース夫人の『The Tapestry Room』(1879)も、みなしごの少年が寝室にかけられたタペストリーの中に入っていく話でした。
ところで、この話の中に「名誉法廷」という言葉が何度も出てきて、話のつながりから考えても裁判や法廷とはなんの関係もなさそうで、不思議に思っていたのだけれど、これ、Cour d'honneurという建築用語らしい。三方を建物に囲まれた大きな中庭(前庭)を言い、ブレナム・パレスのあの立派な前庭がその例です。カメラで一画面におさまりきらないほど広大なので、「前庭」という言葉では充分に言い表せないのですが、かといって「名誉法廷」で理解できる日本人も少ないように思います。
「神々と騎士タンホイザー」は、今は人間たちから解放され自由に暮らすギリシャの神々を面白おかしく描いたもので、この本の中ではいちばんふざけていて、ヴァーノン・リーのお茶目な面が出ていると思う。
ほとんどの話に出てくる銀梅花(ギンバイカ)という花に興味を持ってグーグルで画像検索してみたら、楚々としたとてもきれいな花でした。キャサリン妃の結婚式のブーケにも使われていたそうですね(英名ではマートル)。見た記憶がないのですが、日本でもふつうに栽培されているようなので、単にぼんやりしていて気づかないか、「きれいな白い花だなあ」と思うだけで終わっている可能性が高いです。次に見たときには「あ、銀梅花だ!」と言ってみようっと。(忘れていなければ)
教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集
原題:Pope Jacynth and Other Fantastic Stories
作者:ヴァーノン・リー
訳者:中野善夫
出版社:国書刊行会
ISBN:4336058669
by timeturner
| 2015-05-29 21:02
| 和書
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