2015年 02月 11日
ウッツ男爵 |
冷戦時代の1967年、イギリス人ジャーナリストである「私」は、鉄のカーテンの向こうの国チェコを訪れることになり、ハプスブルクの皇帝ルドルフのような「もの狂いにも似た蒐集家」と会って話を聞きたいと考えた。紹介されたのは、マイセン磁器の蒐集家ウッツだった・・・。
こういう小説、好きかも。チェコの激動の時代に生きた人の話だというのに、そうした社会状況はコレクションと関係したときに出てくるだけで、ほとんどの場面ではウッツという特異な人物の遠景におしやられている。社会がどう変わろうが自分のコレクションさえ無事なら他はどうでもいい、というウッツの蒐集家視点で描かれている。この題材ならいくらでもドラマチックに盛り上げられるのに、ひとりの蒐集家の小さな世界に焦点を絞り、そこから世界の動きをチラ見させるあたりがテクニシャンだなあと思いました。
ゆるい感じのノンフィクションのようでいて、そのくせ読んでいくうちに語り手の信用のおけなさがじわじわと目についてくる。話の大筋としては消えたマイセン磁器のコレクションをめぐるミステリーでもあるのだけれど、納得のいく説明は最後まで提示されない。何から何まで曖昧で、ほんとだったらすっきりしない気持ちで読み終えるはずなのになぜかそうならない。これはやはり語り口の妙なんでしょうか。
翻訳も関係しているのかもしれないなあ。池内紀さんの訳だったので、初めのうちてっきりドイツ文学だと思い込んでいて、途中で「そういえばチャトウィンはイギリス人、ってことは重訳?」と思い、あとがきを見たら基本的には英語からの翻訳だそう。でも、ぜんぜん不自然な部分はありません。やはり、翻訳って外国語力より日本語力なのかもしれないなあと改めて思いました。何人かの助力を受けたと書いてあるので、外国語力の不足による誤訳はないように気をつけられたのだと思いますが。
ウッツ男爵: ある蒐集家の物語 (白水uブックス―海外小説永遠の本棚)
原題:Utz
作者:ブルース・チャトウィン
訳者:池内 紀
出版社:白水社
ISBN:4560071934
こういう小説、好きかも。チェコの激動の時代に生きた人の話だというのに、そうした社会状況はコレクションと関係したときに出てくるだけで、ほとんどの場面ではウッツという特異な人物の遠景におしやられている。社会がどう変わろうが自分のコレクションさえ無事なら他はどうでもいい、というウッツの蒐集家視点で描かれている。この題材ならいくらでもドラマチックに盛り上げられるのに、ひとりの蒐集家の小さな世界に焦点を絞り、そこから世界の動きをチラ見させるあたりがテクニシャンだなあと思いました。
ゆるい感じのノンフィクションのようでいて、そのくせ読んでいくうちに語り手の信用のおけなさがじわじわと目についてくる。話の大筋としては消えたマイセン磁器のコレクションをめぐるミステリーでもあるのだけれど、納得のいく説明は最後まで提示されない。何から何まで曖昧で、ほんとだったらすっきりしない気持ちで読み終えるはずなのになぜかそうならない。これはやはり語り口の妙なんでしょうか。
翻訳も関係しているのかもしれないなあ。池内紀さんの訳だったので、初めのうちてっきりドイツ文学だと思い込んでいて、途中で「そういえばチャトウィンはイギリス人、ってことは重訳?」と思い、あとがきを見たら基本的には英語からの翻訳だそう。でも、ぜんぜん不自然な部分はありません。やはり、翻訳って外国語力より日本語力なのかもしれないなあと改めて思いました。何人かの助力を受けたと書いてあるので、外国語力の不足による誤訳はないように気をつけられたのだと思いますが。
ウッツ男爵: ある蒐集家の物語 (白水uブックス―海外小説永遠の本棚)
原題:Utz
作者:ブルース・チャトウィン
訳者:池内 紀
出版社:白水社
ISBN:4560071934
by timeturner
| 2015-02-11 18:03
| 和書
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