2014年 11月 24日
ストーナー |
貧しい農家に生まれ、思いがけず通うことになった大学で天職をみつけたウィリアム・ストーナーは望んでいたとおり大学で教えるようになり、一目ぼれで結婚した妻とひとり娘との家庭も手に入れたが・・・。
いやあ、一冊読み通すのに物凄いエネルギーがいりました。2、3章読むとつらくなって休み、しばらく間を置いてまた2、3章。つまらないからではなく、あまりにも心を揺さぶられすぎて読み続けることができなかった。感情移入しすぎる私は、どうやらストーナーの人生を一緒に生きてしまったようです。
決してドラマチックに悲しみを盛り上げようとはせず、淡々と三人称のストーナー視点で描かれていく人生は、どう見ても幸せとは縁遠いのですよね。立ち回りが下手なために大学内ではうだつが上がらず、家庭でも妻としっくりいかない。唯一の心のよりどころだった娘も、真に心を通わせることができた恋人もやがては奪い取られ、不運と挫折を拠り合せたような人生。
とはいえ、全くなんの喜びもない人生なんてあり得ないのです。幼い娘との静かな暮らしも、初めて知った燃えるような恋も、学問に対する自らの熱情を学生にうまく伝えることができたときの喜びもあり、それがこわばってしまいそうな心を温めてくれます。
後悔とあきらめばかりのように見えるストーナーの人生は見ているだけでしんどくて、つらいなあと思えるけれど、でも、不思議に美しい。音もなく流れる細い川が、時に陽光を受けてキラッと輝くように、静謐な美しさを見せてくれることがあって、それがなんとも言えない感動を呼び起こします。
この本のすごいところは、ストーナー視点で読む読者にしたら「こいつさえいなければ」と思ってしまいそうな悪役になっている妻のイーディスや仇敵のローマックスに対しても、少しずつ「ああ、でも、この人たちも同じように人生を丸ごと抱えていて、彼らにもキラッとした時間はあったのだろうな」と思える余裕が出てくるという点。こういうところがエンタメ小説と純文学の違いなんだろうか、と思ったりしました。
これが遺作となった東江一紀さんの訳文は、感情をおさえた静かな語り口でありながら心の奥深くを揺さぶる力強さを湛えた名文です。
ストーナー
原題:Stoner
作者:ジョン・ウィリアムズ
訳者:東江一紀
出版社:作品社
ISBN:4861825008
いやあ、一冊読み通すのに物凄いエネルギーがいりました。2、3章読むとつらくなって休み、しばらく間を置いてまた2、3章。つまらないからではなく、あまりにも心を揺さぶられすぎて読み続けることができなかった。感情移入しすぎる私は、どうやらストーナーの人生を一緒に生きてしまったようです。
決してドラマチックに悲しみを盛り上げようとはせず、淡々と三人称のストーナー視点で描かれていく人生は、どう見ても幸せとは縁遠いのですよね。立ち回りが下手なために大学内ではうだつが上がらず、家庭でも妻としっくりいかない。唯一の心のよりどころだった娘も、真に心を通わせることができた恋人もやがては奪い取られ、不運と挫折を拠り合せたような人生。
とはいえ、全くなんの喜びもない人生なんてあり得ないのです。幼い娘との静かな暮らしも、初めて知った燃えるような恋も、学問に対する自らの熱情を学生にうまく伝えることができたときの喜びもあり、それがこわばってしまいそうな心を温めてくれます。
後悔とあきらめばかりのように見えるストーナーの人生は見ているだけでしんどくて、つらいなあと思えるけれど、でも、不思議に美しい。音もなく流れる細い川が、時に陽光を受けてキラッと輝くように、静謐な美しさを見せてくれることがあって、それがなんとも言えない感動を呼び起こします。
この本のすごいところは、ストーナー視点で読む読者にしたら「こいつさえいなければ」と思ってしまいそうな悪役になっている妻のイーディスや仇敵のローマックスに対しても、少しずつ「ああ、でも、この人たちも同じように人生を丸ごと抱えていて、彼らにもキラッとした時間はあったのだろうな」と思える余裕が出てくるという点。こういうところがエンタメ小説と純文学の違いなんだろうか、と思ったりしました。
これが遺作となった東江一紀さんの訳文は、感情をおさえた静かな語り口でありながら心の奥深くを揺さぶる力強さを湛えた名文です。
ストーナー
原題:Stoner
作者:ジョン・ウィリアムズ
訳者:東江一紀
出版社:作品社
ISBN:4861825008
by timeturner
| 2014-11-24 18:56
| 和書
|
Comments(2)
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by
nobara
at 2014-11-24 20:38
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東江一紀先生と白石朗、羽田詩津子両先生が「この文庫がすごい97年版」で対談しておられました。翻訳文庫ウラ話座談会という形でしたが面白かったです。どんな作品でも最初の百ページは地獄、いくらやっても進まないとか。しゃべるのは全く駄目だとか。ストーナーは未読ですが東江先生で心に残っている
のはドン・ウィンズロウ「仏陀の鏡への道」です。
のはドン・ウィンズロウ「仏陀の鏡への道」です。
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by
timeturner at 2014-11-25 17:37
東江さんがすごいと思うのは、手がける作品の幅が広く、しかもいずれも素晴らしいことですね。ドン・ウィンズロウをあんなにうまく訳した方が、この静謐な作品をも訳したなんてちょっと信じられません。