2014年 11月 12日
ベイカー少年探偵団〈1〉消えた名探偵 |
ホームズからある人物の尾行を頼まれたベイカー少年探偵団のメンバーたちは、謎の扉に行き当たった。その報告を受けたホームズは浮浪者の老人に変装し、張り込みを始めたのだが、そのホームズが行方不明に……。
先日の講演会のときに紹介された池央耿さんの翻訳作品のひとつ。テレビ番組のノベライズだそうですが、そうとは思えないくらいきちんと書かれていると池さんがおっしゃっていたので読んでみました。
なるほど確かに、日本の子どもには難しすぎるのではないかと思えるくらいにヴィクトリア朝ロンドンの情景が詳細に、しかも抒情的に描かれています。なにしろ、冒頭の文章がこうですよ。
それはともかく、話の内容はシャーロック・ホームズの正典にも出てくるベイカー・ストリート・イレギュラースを主役に持ってきた探偵小説です。正典のほうでは大人も子供もひっくるめた浮浪者集団でしたが、この本では少年少女だけにしぼっているのがミソ。ヴィクトリア朝のロンドンの浮浪児たちの世界ということで、この間読んだ『Isabella Rockwell's War』を思い出しました。
フィクションではありますが、ウィンザー駅の新築開設に伴う式典にヴィクトリア女王が列席することやフェニアン主義者の暗躍など、歴史上の事実を上手に入れ込み、テムズ川を船で逃げた犯人が水門で捕まるといった、イギリスの川事情を知る人には納得のいく細部にまで気をつかって書かれていて、大人でも楽しめます。
ところでこの本の冒頭にあるロンドン市街図、非常に簡略化してあるのですが、それだけにロンドン市内の位置関係が一目でわかって便利だと思いました。コピーして今度ロンドンに行くときには持っていこうかしら。
ベイカー少年探偵団〈1〉消えた名探偵 (児童図書館・文学の部屋)
原題:Baker Street Boys 1:The Case of The Disappearing Detective
作者:アンソニー・リード
訳者:池 央耿
出版社:評論社
ISBN:4566013693
先日の講演会のときに紹介された池央耿さんの翻訳作品のひとつ。テレビ番組のノベライズだそうですが、そうとは思えないくらいきちんと書かれていると池さんがおっしゃっていたので読んでみました。
なるほど確かに、日本の子どもには難しすぎるのではないかと思えるくらいにヴィクトリア朝ロンドンの情景が詳細に、しかも抒情的に描かれています。なにしろ、冒頭の文章がこうですよ。
濃い霧は汚れて黄ばんだ綿毛のようにウィギンズの体にまとわりついた。時はヴィクトリア朝も末の頃、ロンドン市民は建物の屋根にぎっしり並んだ煙突の笠からもくもくとこぼれ出る石炭の煙で染まった霧を、エンドウマメのスープに見立てて「ピー・スープだ」と言う。黄色い霧は、なるほどマメのスープかもしれないが、味は似ても似つかない。ひりひりと舌をさす、きな臭い煤の味である。池さんは、子ども向きの本だからといって、やさしい言葉に言いかえたり、ひらがなを使ったりはしないのだそうです。編集者に指摘されても、日本語の使い方が誤っているのでない限り直さないのだとか。まあ、それができるのは池さんだからという気もしますが、最近の、子どもに迎合して易きに流れる小説、翻訳には納得いかない気持ちでいっぱいだったので、「子供はそうやって言葉を覚えていくのだから、子どものレベルに合わせる必要はない」という考えには100%同意しました。
それはともかく、話の内容はシャーロック・ホームズの正典にも出てくるベイカー・ストリート・イレギュラースを主役に持ってきた探偵小説です。正典のほうでは大人も子供もひっくるめた浮浪者集団でしたが、この本では少年少女だけにしぼっているのがミソ。ヴィクトリア朝のロンドンの浮浪児たちの世界ということで、この間読んだ『Isabella Rockwell's War』を思い出しました。
フィクションではありますが、ウィンザー駅の新築開設に伴う式典にヴィクトリア女王が列席することやフェニアン主義者の暗躍など、歴史上の事実を上手に入れ込み、テムズ川を船で逃げた犯人が水門で捕まるといった、イギリスの川事情を知る人には納得のいく細部にまで気をつかって書かれていて、大人でも楽しめます。
ところでこの本の冒頭にあるロンドン市街図、非常に簡略化してあるのですが、それだけにロンドン市内の位置関係が一目でわかって便利だと思いました。コピーして今度ロンドンに行くときには持っていこうかしら。
ベイカー少年探偵団〈1〉消えた名探偵 (児童図書館・文学の部屋)
原題:Baker Street Boys 1:The Case of The Disappearing Detective
作者:アンソニー・リード
訳者:池 央耿
出版社:評論社
ISBN:4566013693
by timeturner
| 2014-11-12 17:58
| 和書
|
Comments(0)